尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

極右トランプの「反革命クーデター」ー「トランプ2.0」考①

2025年02月19日 22時00分15秒 |  〃  (国際問題)

 米国にトランプ政権が戻ってきて、1ヶ月ほど。国際的には大きな波紋が広がりつつあるが、案外アメリカ国内で揉めていない。1期目では閣僚人事などが混乱し、途中で辞任(解任)した人も多かった。しかし、今回は閣僚人事も何とか上院で承認されている。相当な「トンデモ人事」をしていると思うが、共和党から「造反」が(ほぼ)いない。完全に「トランプ党」になったからだ。前回は突然「ツイッター」(現X)で重大政策をぶち上げることが続いたが、今回はそれもない。

 共和党を完全に制圧し、誰にもジャマされずに好き放題が出来るからこそ、移行期間における「プログラム」を入念に練っていたと思われる。それは「合法」ではあるが、大統領令に基づく「事実上のクーデター」に近い。連邦政府機関を勝手に閉鎖し、職員を解雇している。日本では「関税」ばかり注目され、「ディール(取引)」の外交と思われているが、実際には取引しようがない「価値観の逆転」こそ真っ先にに取り組んでいることだ。その意味では「トランプ反革命」と呼ぶべき事態が進行している。

 特に深刻で重大なのが「トランスジェンダー」に対する攻撃である。今まで「LGBTQ」と表記されてきたものが、「LGB」と書き直されたりしているらしい。日本でも博物館などの表示(「強制連行」など)に対する執拗な攻撃が存在するが、アメリカでも同じような事態が生じている。日本で21世紀初頭に起こった「性教育バッシング」は「バックラッシュ」(後戻り、揺り戻し)と呼ばれたが、アメリカの場合は「反革命」と呼ぶべきだと思う。それまでの変革が一種の「文化革命」だったからだ。

 トランプ政権においては、「多様性」という概念が完全に否定されようとしている。「自由」「公正」の名の下に、「アファーマティヴ・アクション」(大学入学や就職などの選考で、ジェンダーや人種等に対する配慮を行うこと)の全面禁止が行われる可能性が高い。連動しているのかどうか知らないが、日本でも「実力本位」の名目のもとに大学などでジェンダー配慮をすることへの反感が大きくなっている気がする。その背景には「反科学主義」があると考えられる(次回以後に詳述)。

(トランスジェンダーを否定)

 トランプ政権は「アメリカ・ファースト」を掲げて人気を得たことから、今まではアメリカ史の中で時々生じる「孤立主義」の文脈で理解されることが多かった。しかし、今になってみるとヨーロッパ政治における「極右」として理解するべきだと思う。イーロン・マスクはドイツで極右政党を公然と応援したし、ヴァンス副大統領もヨーロッパの民主主義を激しく攻撃している。「移民排撃」「多様性への反感」などトランプ政権の政策とヨーロッパの極右政党の政策は重なり合っている。

 前回政権時にトランプ大統領と安倍晋三首相が強い関係を結べたのも、簡単に言えば安倍政権がヨーロッパ政治における「極右」にあたるからだろう。移民を受け入れず、同性婚などに反対する日本の保守派は、トランプの味方に見えたと思う。つまりG7において、思想的に親近感を持てたのは日本だけだった。しかし、今回は違う。すでにイタリアは極右政権である。ドイツも直近の総選挙で極右政党が政権入りする可能性がある。またフランスも次回大統領選で極右政権になるかもしれない。

(「アメリカ湾」問題でAPの取材禁止)

 世界的に「極右」勢力による「権威主義体制」が広がっている。30年前に「冷戦終結」時に言われた「歴史の終わり」は、結果的に「トランプ政権」に行き着いた。誰も想定していなかったことだけど。それは「グローバル化」「新自由主義」によって「中間層の没落」が起こり、没落しつつある中間層が「権威主義」による「保護」を求めているからだろう。税金が「マイノリティ」「貧困層」の「平等」のために使われることに反発し、余裕を失いつつある「自分たち」のために使うことを求める。世界的に「先進国」では少子高齢化による人口構成の変化が起こっていて、「政府」に「公平性」を推進する余裕が無くなりつつある。

 この「トランプ反革命」はなかなか簡単には覆せないと思われる。なぜなら最高裁の構成が完全に保守派優位になっているからだ。アメリカの最高裁は9人の終身裁判官によって構成されている。9人のうち、「リベラル派」はオバマ政権時任命の2人、バイデン政権時任命の1人の3人にすぎない。残りの保守派6人の任命時大統領は、ブッシュ(父)政権1人、ブッシュ(子)政権2人、トランプ政権3人である。トランプ政権時の3人は、57歳、60歳、54歳なので、今後20年ぐらいはやるだろう。70代の判事は4人いるが、トランプ政権下で新たな任命があるかもしれず、「トランプ法廷」は長くアメリカを呪縛する。

 従って、アメリカでは今後ますます「判例の見直し」がある可能性が高い。60年代、70年代に獲得された「マイノリティの権利」は極めて危うい段階にある。もちろん最高裁だって、何でもかんでも出来るとは思えない。社会的にしっかり定着していることは、いかに保守派といえど覆せないと思う。アメリカであれ、日本であれ、どこであっても「人権意識を着実に定着させる」取り組みをじっくり進めていくしかないのだろうと思っている。


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