尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「探偵物語」と「俺っちのウェディング」ー根岸吉太郎監督の映画①

2016年03月17日 23時06分03秒 |  〃  (日本の映画監督)
 フィルムセンターの根岸吉太郎監督特集。フィルムセンターは普通3時と7時の上映で、これが結構行きにくい時間だけど、今回は頑張って通いたい。今日は「探偵物語」(1983)を見た。

 フィルムセンターが年度末の2週間を「現代日本の映画監督」と名付けて、存命の監督の特集を始めてから、今年が4回目となる。「存命」と決めているのかどうかは判らないが、相米慎二、市川準、森田芳光などは対象にならず、崔洋一、大森一樹、井筒和幸に続いて根岸監督が4人目。本人のトークショーを何回も行うのがこの企画の特徴である。70年代後半から80年代にかけて活躍を始めたこれらの監督たちは、映画に関して「三つの時代を生きてきた人々」である。

 この世代が映画ファンになった頃は、まだ会社システムが健在で、映画会社で内部昇格した巨匠の映画を同時代に見ていた。それらが70年代に崩れ始め、ピンク映画や自主映画から映画監督を始めた人が登場する。根岸吉太郎(1950~)は、早稲田大学から日活に入社したが、日活は当時もう「ロマンポルノ」の会社だった。この世代の監督たちは、会社の映画も知り、フィルム映画の終焉、デジタル時代まで生きぬいた世代だ。根岸監督もロマンポルノを8本を撮っている。その後、1981年に立松和平原作の「遠雷」をATGで撮って大きな評価を得た。僕はその頃からほぼすべて見ていると思う。

 昔から好きで、早くフィルムセンターで企画して欲しいと思っていた。今回は①で、②③は今後作品を見直して、10日後ぐらいに書きたい。特に21世紀に撮った「雪に願うこと」「サイドカーに犬」「ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~」が非常に優れている。今回の目玉は東京初上映の「近代能楽集」。三島由紀夫の原作から「葵上」「卒塔婆小町」を映画化したもの。また80年代の「俺っちのウェディング」「探偵物語」「ウホッホ探検隊」「永遠の1/2」なども見直してみたい。

 「遠雷」「探偵物語」は今も割合上映の機会があるが、他の作品はほとんど上映されない。「俺っちのウェディング」「探偵物語」は今回見た。「キャバレー日記」「狂った果実」も前に見てると思うが、見た記憶がよみがえらない。「キャバレー日記」は確実に見ているはずなのに、内容を完全に忘れていた。30年以上経っているのだから仕方ないのか。小津や溝口のように、僕にとって「発見」だった映画と違い、同時代にごく普通に見た「エンタメ映画」は、忘れてしまいやすいのかもしれない。

 これらの映画を今見てみると、「80年代」が完全に過去になったことに驚く。日本社会は90年代の「バブル崩壊」を契機に完全に変わった。特に「1995年」、阪神淡路大震災とオウム真理教事件が決定的だった。80年代の映画を見ると、「一世代前の社会」が見えてくる。風俗やファッション、言葉遣いなどは今とそんなに違わない。50年代の小津や成瀬の映画とそこが違う。50年代は「電化」以前で、しぐさや言葉遣いが明らかに違っていて「発見」がある。でも、80年代の映画を見ると、決定的にないものがある。それは「ケータイ電話」と「インターネット」だ。待ち合わせに苦労したり、公衆電話が重要だったり、駅でも切符を切っている。誰もスマホを見ていない。「なんか違う」という感じを受ける原因だと思う。

 「探偵物語」は薬師丸ひろ子が主演したアイドル映画だが、松田優作が同格の活躍をしている。通っている大学の冒頭シーンは明らかに立教大学。ロケ場面を訪ねるサイトがあり、やはり立教と出ている。それなら(自分の通った大学だから)覚えていそうなもんだ。1983年は、就職・結婚の年だから見逃したのか。それとも併映だった角川映画「時をかける少女」の印象が強かったのか。当時「探偵物語」を見ても、まさか松田優作があんなに早く早逝するとは誰も思ってなかった。ものすごく貴重なフィルムを見てるとは思わなかった。薬師丸ひろ子も素晴らしく、ほとんどがロケの撮影にも心奪われる。根岸監督の演出は、自分のスタイルに固執するというより、物語にそって多彩な方法を駆使しているように見える。そこが今見ると興味深い。案外多彩なテクニシャンなのである。

 「俺っちのウェディング」(1983)も物語の語り方を楽しめる映画だ。「探偵物語」と同じく物語のジャンルとしてはミステリーである。「探偵物語」は現実離れしたおとぎ話だから、ただ楽しめるところがいいけれど、「俺っち…」はもう少し現実に沿っているから不自然さも見える。だが、時任三郎宮崎美子のコンビが思った以上によくて、ストーリイを追って楽しめる。結婚式に仕事で遅れ、現れた時には花嫁が刺されていた。犯人は女で、直後に爆死。新郎に恨みがある女がいるに違いないと報道は過熱する。真相は如何に、ということで、新郎の故郷、長崎にも出かけて自分の過去を探り始める。この話はよく出来ていて、今見ても十分楽しめるので、テレビなどでリメイクすると面白いのではないか。

 ロマンポルノとして作られた「オリオンの殺意より 情事の方程式」「女教師 汚れた放課後」の2本立て、「狂った果実」「キャバレー日記」の2本立て、以上4本はまとめて初日に見た。いずれも今見てもかなり面白いが、映画としてはやはり時間も短く内容が浅いのはやむを得ない。さまざまな映像テクニックを使っていることは同様。日活ロマンポルノとして後期の作品で、もはや初期の神代作品ほどの勢いはない。「狂った果実」は破滅に至る青春の物語だが、主演の蜷川有紀の身勝手が納得できない。この人はどういう人か調べてビックリした。「キャバレー日記」も伊藤克信(「のようなもの」の主演)だと思ってなくて、忘れていることが多いなと思った。トンデモなキャバレー世界だが、映画の出来は面白い。「遠雷」後に日活で撮った作品。
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