加須市の市民体育館に設置された壁は面の長さが25mくらい。下3分の1まではほぼ垂直だけどそこから先は手前に45度もしくはそれ以上傾いている。誰でも持てるようなホールドをつけても5.12-(※)くらいの持久力ルートが簡単に作れる壁だ。国内のコンペは最近見てないが今まで見たことない長い壁だ。この壁は左右2つのルートを設定し、予選と準決勝では男女同時。決勝は女子、男子の順に別々に行われた。
※この半端な数字は軽く右から左に読み流してください
フリークライミングのルートには難易度を現すグレードというのがある。5.14という超難しいグレードがある。何だこの半端な数字はと思った人は軽く右から左に読み流してください。で、ある大御所に5.14ってどんなルートなのか聞いた。そしたら 「 ルートだと思わず通り過ぎちゃうだろうなぁ 」 という返事。まるで回答になってないけど恐らくこれが一番的確にルートの性質を現してるかもしれない。
フリークライミングをやった事が無い人だと簡単なルートを見てもツルツルの壁に見えると思う。それが登れるようになるにつれ凸凹に見えるようになり、それだけの凸凹があれば十分だと思うようになる。中島敦の名人伝のような話は本当にある。
写真は男子決勝ルートである。この壁は手前に大きく傾いていてこの辺りは水平に近いと言ってもいい。その壁に赤いものが見える。大きさは大福餅かドラ焼きくらいだ。一見大きなホールドを付けるための目印のようだけど実はこれがホールドだったのだ。これでは登れないと思ったということは5.14くらいじゃなかろうか。
こういう大きく手前に傾いてたり水平な壁をルーフと呼んでいる。ルーフは英語の roof で屋根という意味なんだけど、何故こう言うのか分らない。どう見てもこれは天井を登ってる、登ってるって言うのかどうか知らないがぶら下がるのは屋根ではなく天井だ。
登ってる間に手に汗をかく。そこで野球のピッチャーのように白い粉を手につける。今正に白い粉を右手の指に付けているところ。この粉は炭酸マグネシウムなので貧乏クライマーは薬局で買ったりする。ちなみに朝日新聞では随分前にフリークライミングのことを紹介する記事の中でこれを消石灰と書いていた。新聞ってのはもっともらしい事を書いてるけどちょっと自分が詳しい分野を読んでるとけっこう出鱈目な事を書いてたりするのが見つかる。
フリーライミングって、登っているところを見てて何が難しいのかは中々分らない。でも首筋を真っ赤にして腕をプルプルしてるとそれなりに大変なんだなというのは誰でも分る。見てる人が 「 おおーーーっ 」 という感嘆詞を上げた時は誰も考えつかないような合理的な登り方の時だ。「 スッゲーーッ 」 だとちと違う。普通あんな事しないぜ、でもアリなんだ、という軽蔑と賛辞の入り交ざった感嘆詞。またスッゲーーッと言われる人はどんなに素晴らしい能力実績があってもお笑いクライマーとして分類され人気者だ。
さすがにワールドカップともなると実力も粒が揃っていてお笑いクライマーは居ないと思われた。でも2日目の準々決勝、とうとう現れた。本人は次の動きのために腕を休めてるつもりなんだろうけど、こんなに力を消耗する休み方は無い。普通は足を上に上げて足の甲や踵をどこかに引っ掛けて休む。こんな天井のような場所とはいえ足は大事なのだ。写真ではよく分らないかもしれないけど小柄な女性で日本人。