秋に読みたい、音楽絵本‥
オーケストラの本を紹介したあとには、ピアノにするか、チェロにするか
迷いましたが、やっぱりチェロが先かなあと思い、『セロひきのゴーシュ』
にしました。
セロひきのゴーシュといえば、茂田井さんが絵を描いた
この本が有名だと思いますが。
私は、こちらを↓を選びました。
『セロひきのゴーシュ』
宮沢賢治 作 ささめやゆき 絵
お話は、私が紹介するまでもなく、よく知られていると思います。
最初に、文章だけの本から入った場合と、絵本から知った場合では
ゴーシュに対するイメージの持ち方がずいぶん違うかなあと思いました。
私は、お話のほうはうろ覚えで、ささめやゆきさんの描いたゴーシュを
読んだので、すごくすごく、ゴーシュのイメージと絵があっていると
感じているのですが、茂田井さんの描いた、やさしくて知的な感じすらする
ゴーシュを先に読んでいる方は、おなじひとつの話でも、受け止め方が
大きくちがってきているのかなあと想像しています。
ささめやさんの、表紙に描かれているゴーシュは、すました顔で
一心にチェロを弾いていますが、その生活ぶりはなかなかの破天荒だし、
最初から「やさしくていい人」でもありません。
演奏の合わせがうまくいかず、楽長に叱られ、きっとおなかもすいているし。
そんなところに、突然ねこが、ゴーシュの畑から持ってきたにちがいないトマトを
「これおみやげ」です、とかなんとか言って訪ねてくる‥
ゴーシュじゃなくったって「切れて」当然の展開なのですが。
その「切れた」ときのゴーシュ、ささめやさんの絵はすごく迫力があるのです。
こわいです。ガラス窓を蹴破って、かっこうを外に出してあげた場面なんか
ぱりーんというガラスの音と、そのあとから入ってきたすきま風の音が
聞こえてきそうです。
ねことの場面でも、たぬきとの場面でも、ねずみの親子とのときも
いつでもゴーシュは全力です。自分の音楽に向き合うとき同様、
すこしも手を抜きません。動物だからといって、適当にあしらったり
しないから、激しい感情が、怒りとなって表れてしまうし、逆に、動物から
学ぶべきところは、素直な気持ちで受け入れています。
おしまいまでひいてしまうとたぬきの子はしばらく
首をまげて考えました。
それからやっと考えついたというようにいいました。
「ゴーシュさんはこの二番目の糸をひくときはきたいに
おくれるねえ。なんだかぼくがつまづくようになるよ。」
ゴーシュははっとしました。たしかにその糸はどんなに
手早くひいてもすこしたってからでないと音が出ないような
気がゆうべからしていたのでした。
ゴーシュの激しさは、音楽への情熱なのだと、読者である私たちに
ストレートに伝ってきます。だから、私はささめやゆきさんが描いた
(すごくこわい)ゴーシュが、イメージに一番近いゴーシュに思えたのだ
と思います。
そしてこの本で、はじめて「セロひきのゴーシュ」っておもしろいと
思えたし、ゴーシュが好きになりました。