・*・ etoile ・*・

🎬映画 🎨美術展 ⛸フィギュアスケート 🎵ミュージカル 🐈猫

【cinema】『第9地区』

2010-05-16 01:32:52 | cinema
'10.05.01 『第9地区』@TOHOシネマズ六本木

これは見たかった! 歯医者さんの後、15:30から恵比寿で予定があったので、空き時間どうしようかなと思って調べてみたら、12:20からの回にまだ空席あり! これは見ないとってことでオンライン予約したけど、取れた席は最前列の左端(涙) 映画の日だということを忘れていた… 最前列でエイリアンに耐えられるのか、若干不安だったけど、行ってきた!

*ネタバレしてます! そして熱弁(笑)

「28年前、ヨハネスブルク上空に突如現れた巨大な宇宙船。政府に保護されたエイリアン達は、第9地区に隔離された。2009年現在、彼等の居住区はスラム化し、治安や環境の悪化が問題となっていた。政府は彼らを郊外へ移すことを決定。超国家機関MNU職員のヴィカスはその責任者に抜擢されるが…」という話。これはおもしろい! 何より人種差別や、環境問題、治安悪化などに対する政府の姿勢を痛烈に批判しつつも、エイリアン映画としての娯楽性もしっかりあって、何よりラストが切ない。ほぼ斜め左から見る感じで、だいぶ辛かったけど、一気に見てしまったという感じ。

主人公ヴィカスのキャラがいい。超国家機関というのが、いまひとつピンとこないんだけど、その機関のプロジェクトの責任者となれば、それなりにエリートだと思う。でも、最初に画面に登場するヴィカスは横分けであんまりイケてない 大抜擢にはしゃいでいる感じもイケてない(笑) テレビの取材なのか、デスクで妻の写真を見せながら語る姿も… しかも、この抜擢どうやら上司が妻の父親だからという感じ。でも、この導入部分でヴィカスのイケてなさを描いているから、彼の衝撃の運命の悲しさや、それに必死で抗う姿が際立つ。どんどん変身して行くのは、姿だけではない。彼自身も変化していく。

いまさらな感じもあるけど、この作品のおもしろさは、エイリアンの描き方とドキュメンタリー手法。エイリアン映画はそんなに好んで見るジャンルではないけど、今まで見てきたエイリアンの中で一番ヒドイ(笑) 『スラムドッグ$ミリオネア』のスラムみたいな、俯瞰の第9地区の画。これ、オマージュかな? ボロボロの小屋に住んでいて、しかも主食がキャットフード! キャットフードを巡って闇市のようなものも出来ている。汚くて、下品。映画史上、こんなヒドイ扱いを受けたエイリアンもないと思う(笑) でも、この設定がないと作品の言いたいことが生きてこない。

そんな彼らの中に、この作品のもう一人(?)の主役、クリストファーがいる。他のエイリアン達とはハッキリ違って、落ち着いて知性がある。彼がエリートなのか、他のエイリアンが長い年月の間に堕落してしまったのか… 発見された時、飢餓状態だったというエイリアン達が、さらに長い屈辱の中、こんなことになってしまうのは分かる気がする。これはやっぱり、舞台が南アフリカであることを考えると、人種差別を示唆しているのでしょう。ナイジェリア人組織も、第9地区で暮らしていて、こちらはもっとヒドイ描かれ方。力を得るのだとエイリアンを食べるわ、異種間売春も行われているという。これ、ナイジェリアから抗議がこないのだろうか?(笑) とにかく"自分達と違う"という理由で、およそ"人間"の生活とはいえない状況に、長い年月放置されれば、"人間らしさ"なんてなくしてしまうということを描いているんだと思う。



と、ここまではエイリアンの現状=人種差別、貧困の現状として描いているであろう側面。逆に、ヨハネスブルク市民側からすれば、難民問題という側面もある。たしかに、突然やって来て、難民化されて、盗みなどやりたい放題やられれば、立入禁止区域などを設けて廃除したくなる気持ちも分かる。それは安易だと、第3者としては思うけれど、市民を守るには強制的に行わなくてはならない部分もある。でも、その結果、追い詰められたエビ達は、より暴徒化してしまうのだけど。そして、ヴィカスが責任者として進める移住作戦となるわけだけど、この作戦がまた行政を皮肉っているのだと思う。どう考えても"人間"の住む環境とは思えない場所に隔離し、話し合いもなく移住を決めたわりに、後々面倒だと思ったのか、同意書にサインをもらうという(笑) そんな話が通じないから、そもそもこんなことになっているのでは? エイリアンなんて殺してしまえばいいくらいに思っている隊員と、足並みのそろわないまま作戦開始。反抗的なエビをすぐに撃とうとする隊員達を止めるヴィカスも、エイリアン達に対する優しさだけではないと思う。もちろん倫理感だけど、自分の任務をとどこおりなく終えたいという気持ちもあるはず。人として立派とは言えないだろうけど、社会人なら業務をまっとうするのは当たり前なので、彼が特別嫌な人というわけではない。この辺りは、現代人を示唆しているのかな。悪戦苦闘しながら同意書にサインをもらおうとする姿をコミカルに描いているので、見ている時にはそんなに深く考えてたわけじゃないけど(笑)

この作戦中、ヴィカスはクリストファーの住居で、ある液体を顔にかぶってしまい、どんどんエイリアンに変身していく。この液体が何なのかは結局明かされない。でも、たしか28年かけて、30cmくらいのシリンダー1本分くらいだったと思うので、かなり貴重もしくは入手困難なものなんだと思う。クリストファーはこれを使って、ヨハネスブルク上空の母船に戻り、母星に帰るつもりだった。ボロボロの小屋の地下に作られた装置が面白い。これ後に『トランスフォーマー』みたいな感じになったりする。見てないので適当だけど(笑) 変身が進むヴィカスを元に戻すためにも、クリストファーが母星に帰るためにも、ヴィカスが浴びてしまった液体が必要ってことで、2人(?)は協力してMNUに乗り込むことになる。この辺りからは相方がエイリアンなだけで、割とよくあるアクション・シーンで、最後第9地区での戦闘シーンまでも、そんなに目新しいことはない。同じ目的を持って共に行動した2人に友情が芽生えるのも、さんざん見てきた気がする。でも、やっぱり感動しちゃったりするのは、王道だからでもあり、相方が斬新だからでもある。

エイリアンとの友情モノも特別新しいわけじゃない。ただ、このビジュアルでというのはあまりないかもしれない(笑) このデザインはスゴイ! さすがWETA。グロでもあるけど、ロックで、ポップ(笑) エビといわれるとおり猫背で、口の部分が『パイレーツ・オブ・カリビアン』のアイツみたいにびらびらしている。イイ(笑) 体の色も基本は緑だけど、油絵のようにぶちぶちといろんな色が混ざっていておもしろい。こんな奇怪な姿をしていれば、確かに恐怖も感じるし、行動が野蛮であれば卑下してしまう気持ちもわかる。でも、28年も前に宇宙の彼方から巨大な宇宙空母に乗ってやって来た彼らは、明らかに高度な文明と頭脳を持っているはずなんだけど、そこはまるっきり無視されているのが象徴的。彼らと上手く共生して、その高度な技術を得る道だってあったはず。でも、そうしなかったことは愚かなのか、そうではないのか… なかなか難しいところだけど、クリストファーに関してならば前者。

多分、人はやっぱり外見で判断してしまうことが多く、そして一度抱いてしまったイメージは、そう簡単に払拭できないということや、差別意識を持った相手には残酷なことも平気でできるのだということを言いたいんだと思う。それはエビ達に対してもそうだけど、変身し始めたヴィカスに対しての方がより分かりやすい。さっきまで仲間だったのに、今では研究対象として、麻酔なしで手術をすると言う。しかも本人の目の前で、本人のことは一切無視して。そういう、もう遥か昔から言われ続けてきた人類の最大の欠点を、人種差別問題や、例えばナチスがユダヤ人に対して行った人体実験として描けばズッシリ重量級な作品にもなるけど、こんな風にサブリミナル式な感じで刷り込むのもありかなと思う。ズッシリ重量級ももちろんいいのだけど、そういう作品って映画好きじゃないとなかなか見ない気がする。でも、SF映画なら普段そんなに映画を見ない人の目にも止まるかもしれない。アカデミー賞候補にもなったし(笑) そういう人達が、ホントに言いたいことや、示唆してることに、見ている時には気づかなかったとしても、クリストファー達の扱いや、ヴィカスがされたことに対して違和感を持てば、ほんの少しでも何かが代わるかもしれない。何より押し付けがましくないのがいい。



低予算で作られたので、役者さん達はほとんど無名。シャルト・コブリーは36歳で初主演。でも、この無名さも良かったんじゃないかと思う。とにかく冒頭の"普通のサラリーマン"感が良かった。液体を浴びて、どんどん具合が悪くなって、お腹壊してるのに、サプライズ・パーティー、トイレに行きたいとは言えず冷汗みたいな(笑) その普通の人の感じが笑える。命からがら逃げたものの、どうしたらいいのか分からなくて、お腹が空いたのでバーガーショップに行っちゃう感じとかも、笑えるけれど悲しい。だって、急に対応できるわけないし。でも、だんだん追い込まれて、アクション満載になっても違和感はなかった。かなり変身が進んで、片目がエイリアンになってしまった頃にはカッコイイと思っちゃってたし(笑) クリストファーのジェイソン・コープは声のみなのかな? お得意のモーションキャプチャーなのかな? でも予算的に? でも、息子(カワイイ)を愛し、母星を愛し、仲間の無惨な姿を悲しむ彼は、とっても紳士。多分、クリストファーは何年かかっても戻って来るはず! だからこそ、ヴィカスは戻ったんだし。結局、2人は最後まで"人間"っぽいのもいい。

いろいろ、熱弁をふるったけど、そんなにいろいろ考えなくてもSFモノとしても楽しめた。もしかすると、ホントのSFファンの方からすると違うのかも? 個人的にはエイリアンが難民として存在してる感じも、集団心理の恐ろしさも、すんなり受け入れられて違和感がなかったのが良かった。想像してたよりもグロくなかったし。爪はかなり痛かったけど… 隣のおねえさんは顔背けてた。でも、手があんなことになっちゃうのは好き! 手から変身が始まったことにも意味がある。それが伏線になっているのもニヤリ

ところで、クリストファー達がヨハネスブルクにやって来たのは28年前。この"28"って『28日後…』や『28週後…』とかもあるし、何か意味があるのかな? 28日といえば月だけど… 謎。

監督はニール・ブロムカンプだけど、製作はピーター・ジャクソン。壮大なスケール感の話であったりもするのに、意外にこじんまりとした世界観だったり、いい意味でのチープ感や、ラストの希望はあるけれど切ない感じは、ピーター・ジャクソンっぽいなと思ったりする。エビ達のデザインがバカっぽいのも(笑)

テンポもいいし、画もいい。"人間とは"ってことも考えさせられた。オススメ!


『第9地区』Official site

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする