'15.06.23 『チャイルド44 森に消えた子供たち』(試写会)@よみうりホール
CheRishさんで当選! いつもありがとうございます 原作おもしろかったし、トム・ハーディーだし、ゲイリー・オールドマンだし楽しみに行ってきたー♪
ネタバレありです! 結末にも触れています!
「スターリン独裁政権下のソ連。MGB捜査官レオ・デミドフは、親友の息子の死に不審なものを感じつつ、"楽園に殺人は存在しない"という国家理念のもと、事故死として納得させる。そんな時、妻ライーサにスパイ容疑がかかり、妻を擁護したレオはライーサと共に左遷されてしまう。赴任先では親友の息子と同様の事件が多発しており・・・」という話。うーん。原作通りに描いていて、見ごたえもあるのだけど、なんとなく薄味な印象。原作は厚さ2cmくらいの文庫本2冊の長編で、それを137分にまとめるのは大変だと思うけれど、原作のエピソードをかいつまんで紹介したって感じになってしまっているのが残念だった。それでもストーリー自体に力があるので、飽きてしまうことはなかったし、見ている間はおもしろかったのだけど・・・
2008年に出版され、2009年"このミステリーがすごい!"の海外編第1位に輝いた、トム・ロブ・スミスの「チャイルド44」が原作。1933年ホロモドール大飢饉(Wikipedia)から始まる壮大な物語は、「グラーグ57」「エージェント6」と続くレオ・デミドフを主人公としたシリーズとして人気。そもそもはリドリー・スコットが監督することでプロジェクトが進んでいたようだけれど、ダニエル・エスピノーサが監督することになり、リドリー・スコットは製作にまわった。リドリー・スコットだったらどうなっていたんだろう? そもそも出版前の段階でトム・ロブ・スミスにアプローチしていたそうなので、思い入れも強かったのだと思うのだけど・・・ どうやらダニエル・エスピノーサ監督の『イージーマネー』(未見)を見て、その映像のスタイリッシュさに惚れ込んだということらしい。確かに、どんよりと重苦しいモスクワの街並みとか、列車が走る森の映像とか美しかったとは思う。
原作はウクライナの連続殺人鬼アンドレイ・チカチーロ(Wikipedia)をモデルとした、子供の連続殺人事件をベースに、スターリン政権下のソビエト社会を描いている。"殺人"は存在しないという状況の中で、リスクを負いつつ信念に従って行動することで、体制の異常さを描くわけだから、映画化する際にそこを主点にするのは当然だと思うのだけど、絡み合ってくる事象が絞りきれていないため、主流である連続殺人事件自体を脇のエピソードになってしまっている印象。"森に消えた子供たち"というサブタイトルをつけたのは日本側だから、製作側には関係のないことだけど、子供たちあんまり関係ない感じになってしまっているので・・・ イヤ、関係なくはないんだけど、犯人について決定的な設定変更をしてしまっているため、物語全体に漂うやり切れなさがなくなってしまったうえに、犯人判明からのあれこれがあまりにアッサリしていたため、事件自体が置き去りになってしまった感じ。むしろ元部下ワシーリの逆恨みの方が本筋になってしまい、レオが闘っているのは、ソビエトの社会体制のハズなのに、ただの内輪もめになってしまった印象。とはいえ、ちょっと原作忘れつつあるのだけど
重複するけど、MGB捜査官で第二次世界大戦の英雄レオ・デミドフが、存在しないはずの連続殺人事件を追ううち、反体制側になっていくという話なので、レオが捜査を始めることに説得力を持たせなければならない。そのためには、いろいろなエピソードが絡み合って、彼を"そこ"へ導いていくのだけど、こうして感想を書いてみると、原作はよく考えられていることが分かる。映画もその辺りの展開はよいのだけど、ちょっと説明不足の部分があるので、原作を読んでいなかったり、旧ソ連のことを知らないと分かりにくいかも? もちろん特別詳しい必要はないけど、少なくともソビエト連邦という社会主義の大国があったこと、スターリン政権下では反体制的という理由で粛清が行われていたことは知っていると、体制側の象徴的存在だったレオが、"正しいこと"を行うことのリスクがよく理解できる。まぁソ連が存在していたということくらい知っていると思うけれど、10代の子たちは教科書のみの知識だったりするだろうから、実感がわかないと思うので・・・ 自分も実際体験したわけじゃないから、実感がわかないのは同じだけど
原作では冒頭1933年パーヴェルとアンドレイの兄弟が、大飢饉による飢餓の中森へ食料を探しに出かけ、、パーヴェルが行方不明になる描写がかなり続くのだけど、映画ではアッサリと森に迷ったパーヴェルが保護され、これからはレオ名乗るように言われるシーンから始まる。シリーズ化する気があるような終わりだった気もするけど、今作に限って見た場合、両親との関係も明確にしていないし、何より決定的な設定変更をしてしまっているので、このシーンは特別必要なかった気もする。試写会後、冒頭の意味が分からなかったと話している方がいたので。レオが"英雄"になったのが、ドイツ製の腕時計が写ってしまうため、国旗の持ち手を代わっただけだったっていうのは原作にもあったっけ? レオの周りで殺人鬼の犠牲になるのが、部下の息子から親友の息子に変更されているため、本来の国旗の持ち手は親友アレクセイだったということになっている。パーティで妻ライーサとのなれそめを楽しそうに大きな声で語るレオ。原作を読んでいた時のレオのイメージは、こんなに積極的に話す感じの人ではなかった。上手く言えないけど周りを困惑させるほど話すようなタイプではなかったイメージだったけど、ここではライーサがこの話をされることをよく思っていないという描写をしたいのだと思うのでOK。全体的にトム・ハーディがってことではなくて、この映画で描かれているレオは、自分がイメージしていたレオとは違っていたのだけど、それは別に嫌ではなかった。
MGBの捜査官レオはスパイ容疑のかかった獣医師アナトリー・ブロツキーが、農家にかくまわれているという情報を得て、ワシーリー・ニキーチンら部下を連れて逮捕に向かう。レオはブロツキーの抵抗にあい負傷するが、なんとか身柄を拘束する。しかし、ワシーリーが独断で娘たちの目の前で農夫夫妻を射殺してしまう。レオはこれに激怒。後にワシーリーの逆恨みを買うことになる。そんな中、親友アレクセイの息子が亡くなる。線路脇で見つかった遺体は裸で、無数の傷跡があったため、アレクセイの妻は息子は殺されたのだと主張。しかし、楽園に殺人は存在しないということで、レオは息子は事故死だと説得するよう命じられる。説得には成功するものの、レオの中にも納得できないものが残る。一方、拷問の末ブロツキーが仲間の名前を自白。何とその中に妻ライーサの名前があった! 自身の立場上、ライーサをMGBに引き渡すことが最善の道だが、レオは愛する妻を信じる道を選ぶ。ライーサからは、これはレオを試すために仕組まれたことだろう、自分はレオを愛していない、プロポーズされた時には一週間泣き暮らした、結婚したのはMGB捜査官であるレオが怖かったからだと言われてしまう。それでもレオはライーサを愛していた。レオはヴォウアルスクという地方の村に左遷され、そこで警官としてアレクセイの息子の事件をほうふつとさせる事件に出会う。というのが前半のあらすじ。要するにレオが"殺人事件"を捜査することになる流れは良く考えられている。自分のイメージと違っている部分や、はしょられている部分もあったけど、ここまでの流れはおもしろかった。
当時のソ連では犯罪が起きないことが前提だったので、警官は社会の落ちこぼれがなる職業だったのだそう。新しい上司はネステロフ将軍。本来は優秀な人物だけれど、現在は閑職にあり波風を立てずに過ごしたいと考えている。そんな中、やたらとハリキリ出した新しい部下。いい迷惑(笑) ちょっとレオが急に捜査にやる気を出した理由が分かりにくい気がしたけれど、これはやっぱり左遷されたことにより、今までのように"体制側"でいる必要がなくなったことから、もともと持っていた正義感を発揮し始めたということだったのかな? ネステロフまで巻き込んで捜査を進めることになる。妻ライーサもこれに加わり、2人でモスクワに出て密かにアレクセイに会ったりもする。この"捜査"で妻ライーサとの絆が生まれ、2人は夫婦でありパートナーとなる。この辺りの感じはちゃんと伝わった。原作でのワシーリーとライーサのことがすっかり抜け落ちているのだけど、何か関係があったんだっけ? 映画だとワシーリーが勝手に執着している印象。まぁ多分ライーサよりもレオに執着しているのだろうけれど(笑) 元上司のクズミン少佐やワシーリーの思惑も絡みつつ、反体制となったレオはMGBから追われる身となる。追っ手から逃げつつ、犯人の手掛かりを探す様子がスリリングに描かれる。ハズなのだけど、何となくこの辺りから駆け足になってやっつけ仕事的になってしまった印象。
レオはある地点を中心として、各地の駅周辺で行方不明になった子供の遺体が発見されていることに気づく。それぞれ完璧な国家であるソビエトに存在してはならない、知的障害者や同性愛者が"犯人"として逮捕さえており、すべての事件は解決済み。しかし、レオたちは犯人は別におり、定期的に移動する仕事をしている人物ではないかと考える。ある工場が候補に上がり、レオはここに潜入。原作でのここの緊迫感が印象的だったのだけど、これ夜に忍び込むんじゃなかったっけ? 操業中に忍び込んでいたっけ? あれ?(o゜ェ゜o) 工場長に接触したレオは、事件の起きた場所に最近出張した人物がいないか調べるよう依頼。1人の男が浮かび上がる。危険を察知した男は逃亡。レオとライーサが追いかける。森の中で彼を追いつめたレオは、かつて同じ孤児院で育った仲だと告白される。┏(゜ェ゜) アレ? そこに現れたのがワシーリー。ワシーリーは犯人の男を射殺。レオとライーサを追いつめる。乱闘の末、ワシーリーを殺害したレオは、駆けつけたMGB捜査官たちに、ワシーリーは犯人と格闘の末名誉の死を遂げたと告げる。クズミンは失脚し、レオはモスクワへ呼び戻される。新たな上司に殺人課を新設し、そこにネステロフ将軍を迎えたいと告げ、渋々とではあるが受領される。場面変わりレオとライーサはある施設を訪ねている。ブロツキーをかくまった両親を射殺された姉妹がいる孤児院。2人を引きとりたいと申し出る。姉妹は無反応だったが、廊下で待つ2人のもとへ歩いてくるシーンで終わる。原作もこの終わりだったっけ? この2人は続編「グラーグ57」で重要な役割を果たすので、この終わりはニヤリでありつつ、シリーズ化しようとしているのか?とも思うのだけど、やっぱり犯人の決定的な設定変更により、結果しまりのない感じになってしまった印象。
以下、原作のネタバレありです!
原作では犯人は生き別れたレオの実弟という設定。物語自体の始まりがホロモドール大飢饉による飢餓で、2人が食料を探しに森に入り生き別れてしまうところから始まるので、2人が対峙する際に運命がハッキリと別れてしまったやりきれなさがある。シリーズを通じて"家族"のために闘うことがレオの切なさだったりするのだけど、設定を変えてしまったため犯人像がボヤけてしまったあげく、直後に夫婦そろって泥まみれになってのワシーリーとの格闘で、すっかり影が薄くなってしまった。むしろ犯人どうでもいい感じに・・・ スターリン政権下の異常さをメインで描きたかったのかもしれないけれど、物語を動かしていたのはあくまで児童連続殺人だと思うので、犯人がこんなにどうでもよくなってしまうのはどうかと(´ェ`)ン-・・ そのわりスターリン政権の恐ろしさも、前半は分かりやすかったけど、後半は事件の捜査のじゃまになる程度になってしまったし、クズミン少佐にいたっては何故失脚したのかも不明だし、レオが中央復帰できた理由もよく分からない。原作未読で映画だけ見た人はこれで伝わるのかな? むしろ、未読で映画だけ見た人の方が楽しめるのかな? このくらいの情報量の方が見やすい? サスペンス映画だと思って見たら物足りない気もするけどな(´ェ`)ン-・・ あと、個人的にはロシア語訛りの英語に違和感があった。原作も英語で書かれているのだし、普通に英語で話してもよかったのでは?
なんだかダメ出しばかりして申し訳ない でも、キャストの演技は良かったと思う! お目当てのゲイリー・オールドマンは思ったより事件に絡まなくて残念。本来は優秀で正義感もある人物だけど、生き残るために封印している。それがレオに刺激されて目覚めていく感じは出ていたと思うのだけど、生かし切れていなくて残念 そもそもネステロフ将軍の地位も分かりにくいし、結局何したんだっけ?という感じになってしまっている印象。クズミン少佐のヴァンサン・カッセルも利己的で嫌な上司を好演したけど、よく分からないまま失脚してしまっていたのが残念。ワシーリーのジョエル・キンナマンはサイコパスっぽいキャラのワシーリーを好演。ちょっと機械的な容姿も合ってた。この演出で一番得をしたのはワシーリー役のジョエル・キンナマンだったかもしれない。
原作既読者としては一番イメージが違っていたのはライーサのノオミ・ラパス。ノオミ演技上手いし好きなのだけど、ライーサってちょっと冷たい感じの知的美女というイメージだったので・・・ まぁ、ノオミなので大失敗にはならないだろうと思っていたけどさすが 美女かどうかはさておき(←失礼)女性らしい魅力も出ていたし、夫を恐れて良い妻を演じていたけれど、レオと共に事件を追ううちに、彼を愛するようになる感じもちゃんと出ていたと思う。原作ではあんなアクションシーンがあったっけ? 強い女性ではあるけれど、そういう風に強いわけではないので、原作のイメージどおりのライーサだとすると、この格闘シーンは違和感なのだけど、ノオミのライーサなら違和感なし。ただ、女性らしい弱さもあって良かったと思う。
正直に言うと、トム・ハーディーのレオもイメージと違っていた。表面上はもっと冷たそうなイメージ。ソビエト時代のロシア人を冷たいと思い過ぎ?(笑) 原作の中でどう描写されていたか忘れてしまったけれど、背が高くてがっちりとしたというか、いかり肩の体型をイメージしてて、トム・ハーディーの鍛えられた体型は素敵だけど、ちょっとイメージとは違っていた。イメージとしては感情をあまり見せないという印象だったけど、思ったより感情を出している印象。この辺りはトム・ハーディーの演技によるものなのか、演出によるものなのかは不明だけど、レオが当時のソ連では異端であるという描写なのだと思うし、それはとっても良かったと思う。まぁ、あくまで個人的なイメージだし(笑) シリーズ化するのか不明だけど、トム・ハーディーのレオ・デミドフ像はできていたと思う。
サスペンス映画は見たいけど、ちょっと怖いの苦手という方は、残虐シーンはほとんどないのでオススメかも? 原作に思い入れが強いとどうなのかな~? ゲイリー・オールドマン目当てだとやや肩透かし、ノオミ・ラパス好きな方オススメ! トム・ハーディー好きな方是非
『チャイルド44 森に消えた子供たち』Official site