強風の羽越線から新潟に戻ったのは17時半を回ったところ。1時間遅れの特急「いなほ10号」から同じホーム上で上越新幹線への接続を取っていたが、私はここで宿泊のため駅の外に出る。
この日の宿泊は駅近くの「新潟第一ホテル」。シングル料金でダブルルームに宿泊できるお得なプランを見つけた。他にも大浴場があるし、同じ建物の1階にローソンもある(宿泊客は部屋着で利用可)。
さて新潟で年越しなのだが、夕食は駅前でいただくとしてその後どうするか、年が変わる瞬間をどうやって迎えるか、実はここに至って決めかねている。
旅のプランニングをする中で目についたのが、越後の一ノ宮でもある弥彦神社への二年参り。これに便利なのが快速「行く年令和元年」と帰りの「来る年令和二年」という初詣列車。「行く年」は新潟を21時54分に発車して越後線~弥彦線と走り、23時23分に弥彦着。「来る年」は弥彦を1時32分に発車して2時32分に新潟着。弥彦滞在は約2時間。弥彦神社にはかなり以前に一度お参りしたことがあるが、駅から徒歩10~15分くらいかかったと思う。ただ二年参りはかなり混雑するのではないかと思う。拝殿前に並んだはいいが帰りの列車に間に合わないというのは困る。
対抗は、弥彦まで列車で行かずに新潟市内の中心部の神社。新潟でもっとも初詣客が多いという白山神社がある。こちらは1000年の歴史を有する由緒ある神社。また市内にはもう一つ新潟県護国神社がある。創建は明治と新しいが、日付をまたいで「年越神輿渡御」の行列があるという。翌日1月1日は朝から列車に乗って移動してしまうので、お参りするなら二年参りである。いずれも駅から距離はあるが、まあ歩けない距離でもない。
この辺りを決めかねたまま、とりあえずこのまま日付が変わってホテルに戻ってもいいように支度をして外に出る。向かったのは駅前の「越後番屋酒場」。この店を予約していたために、遅れての運転となった(であろう)「海里」の指定席を放棄した。
店は民芸風の構え。わざわざ予約したのは、1年前に新潟に来た時に満員で入れなかったからである。訪ねたのが元日の夜で、営業している居酒屋というのが限られていた。そこに年始の客が集中したものだからどの店も軒並み満席。この店も秒殺で断られた。だからというわけではないが、グルメサイトからでも予約が可能だったので決め打ちしていた。果たして訪ねた時は同じように「満席」の札が出ていた。
さて畳敷きで椅子が並ぶカウンターに通される。まずはお通しということでエイヒレ(自分で七輪であぶっていただく)と豚肉の陶板焼き(火をつけて、頃合いを見て店員がふたを取る)が出る。そして刺身の三種盛り。三種だったがサービスとしてもう二種が追加で出てきた。
「ここ一軒で新潟県・土産土法」というのが店の売り文句だが、新潟県は広い。本土ではなく佐渡まで含まれるものだから食材の幅は実に広く、メニューを見てもどれを注文すればよいか迷ってしまう。後になっては(マグロ、カンパチ、サーモンのような大阪の居酒屋でもいただける)刺身盛り合わせよりも郷土料理をもっと注文すればよかったかなと思うし、こういう時に一人旅の限界を感じる。誰か相手がいればシェアしながら幅広く注文できるのだが・・。
前日は長岡でも郷土料理はいただいたということで、それにないものをいただくことにする。それでも栃尾揚げ(納豆入り)は二夜連続での注文となった。
あんこうの竜田揚げ。あんこうと言えば茨城や福島のイメージだが、新潟も佐渡や糸魚川では名物なのだという。そういえば一昨日に糸魚川に泊まった時、食べることはできなかったが市内の料亭やドライブインではあんこう料理のキャンペーンをやっているというポスターがあった。
幻魚の干物。日本海にすむ深海魚で、実物は見た目がヌルヌルしてちょっと抵抗があるが、干物にして焼くと実に美味い。それと氷頭なます。鮭の頭の軟骨の酢の物で、コリコリした食感がいい。
いつしか、店員の一人がカウンターの向こうに立ち、笠をかぶる。そこに流れてきたのは佐渡おけさのメロディ。なかなか仕草がサマになっている。この実演は毎日行われているとのこと。
日本酒は新潟の地図とともにこれでもかと並ぶ。メニューには各酒蔵のレギュラー銘柄で100種類くらいあったのではないか。正に「ぽんしゅ館」状態だが、店での注文なのでいずれも1合790円均一。さらに特別なものとなると1合だけでなく4合瓶での提供もあるが、そうなると価格も4ケタになる。今回は「越後鶴亀」、「峰乃白梅」をいただく。
郷土料理、酒のアテということでまたメニューを見る中で目に留まったのが、メダカの佃煮。別名はウルメの佃煮ともいうが、あの絶滅危惧種とされるメダカを食べちゃっていいのかと思う。
そこは郷土料理。雪の多い新潟、特に中越地区では田んぼや水路にいるメダカは冬の貴重なタンパク源で、佃煮にしたり味噌汁の具にしていたという。今でも見附市あたりでは食べる風習があるそうだが、最近は高級食材として郷土料理店のメニューになったり、瓶詰が売られるようになったという。ちょっとした苦味がメザシの味にも通じて、ウルメというのも言い得ているなと思う。これが酒によく合う。なお天然のメダカは絶滅危惧種とされているが、佃煮のメダカは厳密には種類が違うもので、かつ食用に養殖したものとのことで、その辺りは問題ないようだ。
水族館の大きな水槽で海の魚が泳いでいると「刺身にすると美味いんだろうな」とイメージすることがあるのだが、今後は水槽でメダカが泳いでいるのを見ると「佃煮にすると美味いんだろうな」という新たな想像を働かせることになる。今回の旅ではいろんな食材をいただいたが、インパクトではメダカの佃煮がMVPである。
締めはへぎそば。これで年越しそばということにする。これも歯ごたえがよく美味かった。
新潟県の各エリアから代表させるように注文したが、このあたりでお腹、財布の両面でお開きにする。他にももっといただきたいものはあったが、店そのものにはすっかり満足して後にする。もしまた新潟の夜を楽しむことがあれば続きを楽しみたい。最後は店員が火打石を鳴らして送り出してくれる。
さて時刻は21時前。これから弥彦神社なり白山神社なり行くことができるのだが、結局は「もういいか」とそのままホテルに戻ってしまった。この日は移動が続いたからか、最後は部屋でゆっくりしたいという気持ちが勝ったようである。まあ翌日も初詣の機会はある。
テレビだが別に紅白もダウンタウンも格闘技も見るつもりはなく、持参のパソコンにて旅行記の続きを書く。ただそのうち眠くなり、ベッドに入る。日付が変わり新たな年になった時には、すっかり夢の中だった・・・。