「レディ・ジェーン 愛と運命のふたり」
16世紀のイギリス。権力を握るジョン・ダドリーは、病弱な国王エドワード6世の後継者として王族のジェーン・グレイに目をつけ、彼女に自分の息子ギルフォードとの政略結婚を強いる。はじめは反発し合っていたが、しだいにジェーンとギルフォードは深く愛し合うように。エドワード6世亡き後、ダドリーの目論見通りジェーンは女王の座に就くが…
大学生の時に訪れた憧れの街ロンドン。有名な美術館ナショナル・ギャラリーで見た恐ろしくも美しい名画「レディ・ジェーン・グレイの処刑」は、私に強い衝撃と深い感銘を与えました。以来ずっと、在位わずか9日という悲劇の女王は、私の胸に焼き付いていました。念願かなって、ジェーン・グレイをヒロインにしたこの映画を鑑賞。英国美青年ブーム真っただ中の1986年に制作された作品です。
↑「レディ・ジェーン・グレイの処刑」すごいインパクトでした…この絵に再会すべく、もう一度ロンドンに行きたい
高貴な身分に生まれながら、母親から拷問されるわ、政略結婚させられるわ、無理やり女王にされて挙句は処刑とか、もう波乱万丈どころじゃない有為転変、しかもたった17年の短すぎる激動の人生は悲劇以外のなにものでもないのですが、この映画のジェーンはナショナルギャラリーの絵画から受けるイメージとは違い、か弱くはかない乙女ではありませんでした。これはもう、ジェーンを演じたヘレナ・ボナム・カーターの個性によるものでしょう。当時18歳、「眺めのいい部屋」に先立つ初主演作です。
パートナーだったティム・バートン監督作品で、すっかり怪女優になってしまったヘレボナさんですが、若かりし頃の彼女はコスチュームプレイの姫君と讃えられたほど、英国時代劇御用達女優だったんですよね~。実際にも貴族の出で、親族にイギリス首相もいたというやんごとなきプロフィールも、ハリウッド女優にはないヘレボナさんの武器でした。
お嬢さまを気取ってるアメリカのセレブ女とは違う、モノホンの令嬢であるヘレボナさんですが、たおやかで上品というステレオタイプなお嬢さまではないところが、ヘレボナさんの魅力ではないでしょうか。とにかく彼女、気が強そう!そのへんのスケバン(死語)もたじろがせるだろう鋭い眼光。楚々とした風情でも慎ましいキャラでもなく、どこかふてぶてしく天衣無縫。小柄で華奢な見た目は可憐な少女だけど、中身は男なんじゃないかと思うほどタフで凛々しい。それでいて、隠せない育ちの良さ。そんなヘレボナさんが演じてるので、悲劇の女王ジェーン・グレイも可哀想な犠牲者で終わっておらず、過酷な運命に怯まなかった気丈なヒロインに見えました。
それにしても…権力争いの果てに非業の死を遂げた人はあまたいますが、このジェーン・グレイも本当にあったこととは信じがたいほど悲惨。彼女のたどった運命は、王族などより平凡な庶民、いや、賤のあばら屋に生まれたほうがマシ、とさえ思わるほど無情さ、非道さです。でもでも、夢見がちな凡下の身としては、ジェーンの美しい悲劇に憧れたりもしちゃうんですよね~。庶民凡人には、どんなに長生きしても決して味わえない、ギュっと歓びとか充足感が凝縮した濃ゆい太い人生。ぱっと夜空に華やかに咲いて、ぱっと消え散る花火みたいな人生。憧れれつつ、やっぱ死刑はイヤだ!とも思います
ジェーン・グレイだけでなく、その夫となったギルフォードも権力闘争の犠牲者。でも、二人が束の間ながら愛と情熱に満ちた幸せな夫婦になれたのが、せめてもの救い、かつ最大の悲劇でした。ギルフォード役は、「アナザー・カントリー」の美少年っぷりが忘れがたいケイリー・エルウェス。
美少年が美青年に成長!ギルフォード役のケイリー、そのキラキラっぷりハンパねー!サラサラなブロンド、白い肌、スラっとした長身、まるで少女漫画から抜け出したかのような王子さま!悪辣な陰謀家である父や、理不尽・不平等な社会への不満のせいで、ふてくされ飲んだくれてたダメ男ギルフォードが、ジェーンと反発し合いつつ仲良くなっていく様子はちょっとラブコメ調で可愛く、情熱的でロマンティックな関係になってからの、大胆だけど微笑ましいラブシーンでは、ヘレボナさんもケイリーも一糸まとわぬ姿を披露するなど、若さで溌剌とした初々しく瑞々しい二人がまぶしいです。
悲運の中にあって、あまりにも純真で無邪気だったジェーンとギルフォードが哀れだけど、汚れた大人になって汚れた人生を歩むことなく、ピュアなまま運命に見苦しく抗わなかった二人の姿に、当時の英国王族はみんな常に権力と破滅は紙一重、という覚悟と誇りをもって王座争いをしていたんだな~と感心するやら戦慄するやら。
それにしても。子どもたちを断頭台へと送る両親の鬼っぷりときたら!権力のために、そこまでするか?!子どもなど、政治のコマにすぎない。ギルフォードの父ジョン・ダドリーも鬼でしたが、ジェーンの母フランセス(The Tudorsのチャールズ・ブランドンの娘!チャーリー、恐ろしい娘つくったね~…)の毒親っぷりにはゾっとしました。この鬼母、ジェーンを置いて宮廷から脱出するわ、ジェーンが処刑された後もシレっとメアリー女王に仕えてるわ、ほんま地獄に堕ちてほしいクソ女でした。でもあのすべてを犠牲にしても生きる!というサバイバル力は見習いたいです。
ジェーンとギルフォード以上に哀れだったのは、少年王エドワード6世(The Tudorsのヘンリー8世の息子!)。同じ薄命でも、ジェーンとギルフォードは、愛と情熱を味わえただけ幸せ者。エドワード6世ときたら、苦痛と孤独しかなかった人生でしたし。これは暴虐のかぎりをつくした父王、ヘンリー8世の悪行が祟ったせいとしか思えません。最終的には勝利者となったメアリー1世も、女としてはみじめで悲しかった。メアリー女王の狂信、頑なに信仰を貫くジェーン。「沈黙」もそうでしたが、宗教が重い暗い影となって、人々の人生を左右するところも怖かったです。TVドラマ「Tudors 背徳の王冠」と、有名なエリザベス1世の時代とのちょうど中間の物語で、陰謀渦巻く血塗られた英国王室ドラマのファンは必見の時代劇です。内容だけでなく、コスチュームやお城なども目に楽しい。きらびやかで華やかなフランス王宮ものよりも、質実剛健でシンプルなイギリス王宮のファッションのほうが、私は好きかも。
16世紀のイギリス。権力を握るジョン・ダドリーは、病弱な国王エドワード6世の後継者として王族のジェーン・グレイに目をつけ、彼女に自分の息子ギルフォードとの政略結婚を強いる。はじめは反発し合っていたが、しだいにジェーンとギルフォードは深く愛し合うように。エドワード6世亡き後、ダドリーの目論見通りジェーンは女王の座に就くが…
大学生の時に訪れた憧れの街ロンドン。有名な美術館ナショナル・ギャラリーで見た恐ろしくも美しい名画「レディ・ジェーン・グレイの処刑」は、私に強い衝撃と深い感銘を与えました。以来ずっと、在位わずか9日という悲劇の女王は、私の胸に焼き付いていました。念願かなって、ジェーン・グレイをヒロインにしたこの映画を鑑賞。英国美青年ブーム真っただ中の1986年に制作された作品です。
↑「レディ・ジェーン・グレイの処刑」すごいインパクトでした…この絵に再会すべく、もう一度ロンドンに行きたい
高貴な身分に生まれながら、母親から拷問されるわ、政略結婚させられるわ、無理やり女王にされて挙句は処刑とか、もう波乱万丈どころじゃない有為転変、しかもたった17年の短すぎる激動の人生は悲劇以外のなにものでもないのですが、この映画のジェーンはナショナルギャラリーの絵画から受けるイメージとは違い、か弱くはかない乙女ではありませんでした。これはもう、ジェーンを演じたヘレナ・ボナム・カーターの個性によるものでしょう。当時18歳、「眺めのいい部屋」に先立つ初主演作です。
パートナーだったティム・バートン監督作品で、すっかり怪女優になってしまったヘレボナさんですが、若かりし頃の彼女はコスチュームプレイの姫君と讃えられたほど、英国時代劇御用達女優だったんですよね~。実際にも貴族の出で、親族にイギリス首相もいたというやんごとなきプロフィールも、ハリウッド女優にはないヘレボナさんの武器でした。
お嬢さまを気取ってるアメリカのセレブ女とは違う、モノホンの令嬢であるヘレボナさんですが、たおやかで上品というステレオタイプなお嬢さまではないところが、ヘレボナさんの魅力ではないでしょうか。とにかく彼女、気が強そう!そのへんのスケバン(死語)もたじろがせるだろう鋭い眼光。楚々とした風情でも慎ましいキャラでもなく、どこかふてぶてしく天衣無縫。小柄で華奢な見た目は可憐な少女だけど、中身は男なんじゃないかと思うほどタフで凛々しい。それでいて、隠せない育ちの良さ。そんなヘレボナさんが演じてるので、悲劇の女王ジェーン・グレイも可哀想な犠牲者で終わっておらず、過酷な運命に怯まなかった気丈なヒロインに見えました。
それにしても…権力争いの果てに非業の死を遂げた人はあまたいますが、このジェーン・グレイも本当にあったこととは信じがたいほど悲惨。彼女のたどった運命は、王族などより平凡な庶民、いや、賤のあばら屋に生まれたほうがマシ、とさえ思わるほど無情さ、非道さです。でもでも、夢見がちな凡下の身としては、ジェーンの美しい悲劇に憧れたりもしちゃうんですよね~。庶民凡人には、どんなに長生きしても決して味わえない、ギュっと歓びとか充足感が凝縮した濃ゆい太い人生。ぱっと夜空に華やかに咲いて、ぱっと消え散る花火みたいな人生。憧れれつつ、やっぱ死刑はイヤだ!とも思います
ジェーン・グレイだけでなく、その夫となったギルフォードも権力闘争の犠牲者。でも、二人が束の間ながら愛と情熱に満ちた幸せな夫婦になれたのが、せめてもの救い、かつ最大の悲劇でした。ギルフォード役は、「アナザー・カントリー」の美少年っぷりが忘れがたいケイリー・エルウェス。
美少年が美青年に成長!ギルフォード役のケイリー、そのキラキラっぷりハンパねー!サラサラなブロンド、白い肌、スラっとした長身、まるで少女漫画から抜け出したかのような王子さま!悪辣な陰謀家である父や、理不尽・不平等な社会への不満のせいで、ふてくされ飲んだくれてたダメ男ギルフォードが、ジェーンと反発し合いつつ仲良くなっていく様子はちょっとラブコメ調で可愛く、情熱的でロマンティックな関係になってからの、大胆だけど微笑ましいラブシーンでは、ヘレボナさんもケイリーも一糸まとわぬ姿を披露するなど、若さで溌剌とした初々しく瑞々しい二人がまぶしいです。
悲運の中にあって、あまりにも純真で無邪気だったジェーンとギルフォードが哀れだけど、汚れた大人になって汚れた人生を歩むことなく、ピュアなまま運命に見苦しく抗わなかった二人の姿に、当時の英国王族はみんな常に権力と破滅は紙一重、という覚悟と誇りをもって王座争いをしていたんだな~と感心するやら戦慄するやら。
それにしても。子どもたちを断頭台へと送る両親の鬼っぷりときたら!権力のために、そこまでするか?!子どもなど、政治のコマにすぎない。ギルフォードの父ジョン・ダドリーも鬼でしたが、ジェーンの母フランセス(The Tudorsのチャールズ・ブランドンの娘!チャーリー、恐ろしい娘つくったね~…)の毒親っぷりにはゾっとしました。この鬼母、ジェーンを置いて宮廷から脱出するわ、ジェーンが処刑された後もシレっとメアリー女王に仕えてるわ、ほんま地獄に堕ちてほしいクソ女でした。でもあのすべてを犠牲にしても生きる!というサバイバル力は見習いたいです。
ジェーンとギルフォード以上に哀れだったのは、少年王エドワード6世(The Tudorsのヘンリー8世の息子!)。同じ薄命でも、ジェーンとギルフォードは、愛と情熱を味わえただけ幸せ者。エドワード6世ときたら、苦痛と孤独しかなかった人生でしたし。これは暴虐のかぎりをつくした父王、ヘンリー8世の悪行が祟ったせいとしか思えません。最終的には勝利者となったメアリー1世も、女としてはみじめで悲しかった。メアリー女王の狂信、頑なに信仰を貫くジェーン。「沈黙」もそうでしたが、宗教が重い暗い影となって、人々の人生を左右するところも怖かったです。TVドラマ「Tudors 背徳の王冠」と、有名なエリザベス1世の時代とのちょうど中間の物語で、陰謀渦巻く血塗られた英国王室ドラマのファンは必見の時代劇です。内容だけでなく、コスチュームやお城なども目に楽しい。きらびやかで華やかなフランス王宮ものよりも、質実剛健でシンプルなイギリス王宮のファッションのほうが、私は好きかも。