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第一次世界大戦で顔に重傷を負ったエドゥアールは、戦友のアルベールの助けを借りて戦死を装いパリに戻る。国、そして確執のあった父親から大金を巻き上げる大がかりな詐欺を、お人よしのアルベールに協力を強いて実行するエドゥアールだったが…
「その女アレックス」など、トリッキーでエグい犯罪小説で人気を博したピエール・ルメートルが、路線を変更して発表したピカレスクな歴史小説の映画化。原作小説も映画も本国フランスでは大絶賛され、多くの賞を受賞しました。ちょっと前に私もカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズにハマってたので、この映画すごく楽しみにしてました。期待通り、すごく面白かったです。チャップリン映画を華やかに流麗にした印象を受けました。
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主人公はどちらかといえばアルベールのほうで、彼の風貌とキャラはかなりチャップリンを彷彿とさせます。他人や社会にバカにされ利用されても、優しさを失わず自分を犠牲にするアルベールの滑稽で悲しいピエロっぷりといい、サーカスのようなマジカル風味といい、非情かつ人情的なユーモアのある悲喜劇といい、まるでチャップリンへのオマージュみたいでした。
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顔の半分を失ったエドゥアールが(はっきり見せないのですが、正視できないほどの無残さであることが判るような演出)、お人よしのアルベールを操って大がかりな詐欺を計画し、国と父親に復讐するという話なのですが。復讐というより、顔同様精神も深刻なダメージを受けたエドゥアールが、周囲を巻きこんでの自暴自棄な憂さ晴らしに狂奔、みたいな感じでした。詐欺が成功しようが失敗しようがどうでもいい!みたいだったし。残酷な現実からの逃避、自分だけの楽しいサーカスの世界に耽溺してるエドゥアールでした。隠れ家でエドゥアールとアルベール、仲間の少女ルイーズの3人が踊るシーンや、エドゥアールがホテルで開いたパーティーのシーンなど、楽しそうだけど絶望と隣り合わせの虚無も濃厚で、ああ人生ってお祭りみたい…と悲しくなってしまいました。
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詐欺じたいは、ハリウッド映画みたいにトリッキーでもビッグスケールでもなく、日本でよく起きるオレオレ詐欺とそんなに変わりはないので、騙し騙されなスリリングなコンゲームを期待すると、あれれ?と拍子抜けします。お話よりも、エドゥアールの天才的なアーティストっぷりに感嘆。あの才能、彼にとっては幸であり不幸でした。地獄を経験して絶望の中で生きることを強いられ、正気でいることを拒絶したことが、彼の才能を開花させたみたいでした。平凡で平穏な人生だったら、きっとあそこまで情熱的になれなかったでしょうし。エドゥアールと父親の確執も、才能に磨きをかけていたようですが、そこまでパパを憎む?よくある父子関係だったので、もうちょっと二人の愛憎を深掘りしてほしかったかも。解かり合うこと、許し合うことが遅すぎたラストが切なかったです。
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エドゥアールが次々と作りだす仮面が、どれも美しく独創的!欲しい!口をVで笑顔、ヘで不機嫌な気持ちを表すマスクがオチャメだった。あのアイデアと技術があれば、詐欺なんかしなくても大金を稼げそうだったけど。戦争がなければ、きっと世界的な天才デザイナーとかになってたでしょうに。エドゥアールを熱演したのは、「BPM ビート・パー・ミニット」で脚光を浴びたアルゼンチン出身の若手俳優ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート。ラミ・マレックをほっそりしなやかに、よりいっそう繊細にした感じ?顔見せと台詞はほとんどないけど、エキセントリックで躁鬱なほとばしるパワーに圧倒されました。躍動感あふれる動きも圧巻。ダンスシーンがカッコよかったです。
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アルベール役は、この映画の監督と脚本も兼ねた才人アルベール・デュポンテル。チャップリンな好演のみならず、めくるめく展開ながらも悲しみもにじむ演出が秀逸でした。「エル ELLE」のローラン・ラフィットが、卑劣な悪人プラデル中尉を快演。ひとでなし!クズ!最低最悪のゲス野郎役なのですが、どこか憎めない笑える演技が元々はコメディアンである彼の面目躍如。エドゥアールの父役は、「預言者」「真夜中のピアニスト」などの名優ニエル・アレストリュブ。重厚かつ悲哀あふれる存在感。ラストの息子との再会シーンでは、ほぼ無表情なのに喜びと痛みがヒリヒリと伝わる名演でした。
20年代パリのファッションや街、車、エドゥアールの隠れ家や実家の内装など、製作費がかかってそうな衣装や美術も目を楽しませてくれます。原作小説は三部作らしく、第2部はエドゥアールの姉、第3部はルイーズが主役だとか。小説も読んでみよっかな。