朝日新聞の特集記事で紹介されていた、伊藤計劃×円城塔の'12年作品『屍者の帝国』を読みました。「プロローグ」を伊藤計劃さん、「第一部」「第二部」「第三部」「エピローグ」を円城塔さんが書いた作品です。
「プロローグ」 わたし、ジョン・H・ワトソンは友人のウェイクフィールドとともにセワード教授の講義に出席し、教授が疑似霊素書込機(スペクターインストーラ)とそれを動かすルクランシェ電池を使って、死者に霊素を注入しようとしているところへ、セワード教授の恩師ヘルシング教授が招待されて現れます。私はヘルシング教授の質問に答え、『霊素』の思想的な根拠は、前世紀のメスメル医師が唱えた『動物磁気(アニマル・マグネティズム)』説にまで遡り、フランケンシュタイン氏が最初の『被造物(クリーチャ)』を生み出す前に、この理論はメスメル氏によってまとめられた、と語ります。疑似霊素書込機からは無数のコードが死者の頭につながれいて、疑似霊素が書込まれると、死者は蘇りました。「インストールした制御系は、ごく標準的な汎用ケンブリッジ・エンジンだ。実際にフランケンを社会で運用するときは、更にこの上に状況に応じたプラグインをインストールする。御者プラグインだったり、執事プラグインだったり、特に工場労働に関してはその職業ごとのプラグインが用意されている――立ち上がりたまえ」とヘルシングが言うと、死者は解剖台から下りて直立不動の姿勢で立ちました。動きはぎこちなく、「フランケンシュタイン氏が最初のフランケンを生み出してから百年経とうというのに、我々はここまでしかたどりつけていない。生者にそっくりに動く死者など、今のところ夢のまた夢だ」とヘルシングは言います。授業が終わると、セワード教授はヘルシング教授とともに自分の研究室に来るように言うのでした。
わたしは貿易会社と看板がかけられている建物の中へ連れられていき、迷路のような廊下を通って、陸軍フランケンのセキュリティに守られた部屋に入っていくと、そこでMと呼ばれている男に引き合わされました。Mは自分たちは女王陛下の諜報機関で、首相直属で動いていて、その名前を知る者は政府部内でも少ないと言います。その名前は〈ウォルシンガム機関〉。ヘルシングは自分もその一員だと言い、「吸血鬼や怪奇など民間伝承の研究でわたしは度々ヨーロッパを旅する。ドラキュラの研究ではルーマニアなど東の方も訪れた。そう、ロシア皇帝が虎視眈々と国境の拡大を狙っている東ヨーロッパを旅し、同時にブリテンのために東欧の軍用地図を作成したり、ロシア人の動向を探ったりする」 Mがヘルシングのあとを引き継いで、「ロシア帝国は基本的に拡大政策をとり続けている。その柱は2本、東欧への西進と中央アジアへの南進だ。西進に関してはクリミア戦争で厳しくお灸を据えてやったが、我々は終戦の後もヘルシング教授のような優秀な人材を派遣して東欧に諜報網を張り、ロシア人の動向を警戒している。皇帝の秘密警察は世界中にいるから油断できないのだ。そして南進はといえば――アフガニスタンが今どういう状況になっているかは言うまでもないな」
ここまでが「プロローグ」です。この後、ワトソンは〈ウォルシンガム機関〉の一員としてアフガニスタンを訪れ、そこで屍者兵同士の闘いを見、南北戦争で大量に発生した屍者兵を世界中に売り歩く〈新興アメリカ〉の機関ピンカートンのレット・バトラーとリリス・ハドラーと出会います。やがて最初にフランケンとなり言葉が話せる〈ザ・マン〉の存在が知らされ、その秘密を榎本が持ち去ったという日本にワトソンは向かいます。そこには滑らかな動きをし、ワトソンとともに旅をする士官バーナビーとも互角の戦いをする屍者兵がいました。〈ザ・マン〉とその秘密が印された〈ヴィクターの手記〉を求めて、ワトソンはアメリカのプロヴィデンスを訪れ、最後にはロンドンに戻り、〈ザ・マン〉が花嫁を製造するのを目の辺りにし、その直後にハドラーの妨害でロンドンの時計台内部に建設されていた情報集積機は破壊されます。そしてワトソンと常に行動を共にした屍者の筆記者の言葉とともに、400ページを越える小説は終わります。
抽象的な議論が多く、やっと最後まで読み終えることができました。「プロローグ」は良かったと思います。
→「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
「プロローグ」 わたし、ジョン・H・ワトソンは友人のウェイクフィールドとともにセワード教授の講義に出席し、教授が疑似霊素書込機(スペクターインストーラ)とそれを動かすルクランシェ電池を使って、死者に霊素を注入しようとしているところへ、セワード教授の恩師ヘルシング教授が招待されて現れます。私はヘルシング教授の質問に答え、『霊素』の思想的な根拠は、前世紀のメスメル医師が唱えた『動物磁気(アニマル・マグネティズム)』説にまで遡り、フランケンシュタイン氏が最初の『被造物(クリーチャ)』を生み出す前に、この理論はメスメル氏によってまとめられた、と語ります。疑似霊素書込機からは無数のコードが死者の頭につながれいて、疑似霊素が書込まれると、死者は蘇りました。「インストールした制御系は、ごく標準的な汎用ケンブリッジ・エンジンだ。実際にフランケンを社会で運用するときは、更にこの上に状況に応じたプラグインをインストールする。御者プラグインだったり、執事プラグインだったり、特に工場労働に関してはその職業ごとのプラグインが用意されている――立ち上がりたまえ」とヘルシングが言うと、死者は解剖台から下りて直立不動の姿勢で立ちました。動きはぎこちなく、「フランケンシュタイン氏が最初のフランケンを生み出してから百年経とうというのに、我々はここまでしかたどりつけていない。生者にそっくりに動く死者など、今のところ夢のまた夢だ」とヘルシングは言います。授業が終わると、セワード教授はヘルシング教授とともに自分の研究室に来るように言うのでした。
わたしは貿易会社と看板がかけられている建物の中へ連れられていき、迷路のような廊下を通って、陸軍フランケンのセキュリティに守られた部屋に入っていくと、そこでMと呼ばれている男に引き合わされました。Mは自分たちは女王陛下の諜報機関で、首相直属で動いていて、その名前を知る者は政府部内でも少ないと言います。その名前は〈ウォルシンガム機関〉。ヘルシングは自分もその一員だと言い、「吸血鬼や怪奇など民間伝承の研究でわたしは度々ヨーロッパを旅する。ドラキュラの研究ではルーマニアなど東の方も訪れた。そう、ロシア皇帝が虎視眈々と国境の拡大を狙っている東ヨーロッパを旅し、同時にブリテンのために東欧の軍用地図を作成したり、ロシア人の動向を探ったりする」 Mがヘルシングのあとを引き継いで、「ロシア帝国は基本的に拡大政策をとり続けている。その柱は2本、東欧への西進と中央アジアへの南進だ。西進に関してはクリミア戦争で厳しくお灸を据えてやったが、我々は終戦の後もヘルシング教授のような優秀な人材を派遣して東欧に諜報網を張り、ロシア人の動向を警戒している。皇帝の秘密警察は世界中にいるから油断できないのだ。そして南進はといえば――アフガニスタンが今どういう状況になっているかは言うまでもないな」
ここまでが「プロローグ」です。この後、ワトソンは〈ウォルシンガム機関〉の一員としてアフガニスタンを訪れ、そこで屍者兵同士の闘いを見、南北戦争で大量に発生した屍者兵を世界中に売り歩く〈新興アメリカ〉の機関ピンカートンのレット・バトラーとリリス・ハドラーと出会います。やがて最初にフランケンとなり言葉が話せる〈ザ・マン〉の存在が知らされ、その秘密を榎本が持ち去ったという日本にワトソンは向かいます。そこには滑らかな動きをし、ワトソンとともに旅をする士官バーナビーとも互角の戦いをする屍者兵がいました。〈ザ・マン〉とその秘密が印された〈ヴィクターの手記〉を求めて、ワトソンはアメリカのプロヴィデンスを訪れ、最後にはロンドンに戻り、〈ザ・マン〉が花嫁を製造するのを目の辺りにし、その直後にハドラーの妨害でロンドンの時計台内部に建設されていた情報集積機は破壊されます。そしてワトソンと常に行動を共にした屍者の筆記者の言葉とともに、400ページを越える小説は終わります。
抽象的な議論が多く、やっと最後まで読み終えることができました。「プロローグ」は良かったと思います。
→「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)