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高橋秀実『不明解日本語辞典』

2017-07-19 04:53:00 | ノンジャンル
 昨日BS日テレで、「スター感動秘話!我が心の師 作曲家いずみたく×今陽子 “ピンキラ”と♪恋の季節裏話」という番組をやっていました。そこで初めて「見上げてごらん夜の星を」や「夜明けのスキャット」、「太陽がくれた季節」の作曲者がみな、いずみたくさんであることを知りました。

 さて、高橋秀実さんの’15年作品『不明解日本語辞典』を読みました。『波』の2012年1月号~2014年9月号に掲載された「とかなんとか言語学」及び『熱風』(スタジオジブリ)2012年1月号掲載の「問答無用の『健康』印」に加筆修正してできた本です。
 「あとがき---不明解の理由」から引用させていただくと、
「実をいうと、本書は当初「ヘンな日本語」をテーマにする予定でした。意味不明の流行語、日本語のあきらかな誤用などを、ひとつひとつ取り上げて批判するつもりでいたのですが、調べているうちに、あれもヘンこれもヘンという具合に次々とヘンな言葉に気がつき、やがて、どれもこれもヘン、言葉そのものがヘン、しまいにはヘンだと思う私自身がヘンなのではないかと不安になり、あらためて「あいうえお」順に発声してみることから日本語を吟味してみることにしました。「あ」から始めて(途中順不同ですが)最後に「私」の「わ」に至り、「ん」と呻くように「ヘン」の理由がわかったような気がします。
 おそらく、それはひとつの思い込みに由来しています。
 言葉には意味がある。
 ということです。「はじめに」に書いたように、当初私はこの「意味」のほうに着目したわけですが、原因は「ある」のほうなのです。意味が「ある」などと言われると、何かが言葉に常在しているようで、つい「どこに?」と思ってしまいます。例えば『岩波国語辞典 第七版新版(前出)』によると、言葉には「根底にひそむ根本的な意味」がある。「ひそむ」というくらいですから、それはちょうど常在菌のように隠れている。言葉の中なのか裏なのかわかりませんが、それを「明確に記述」するのが辞書の役目とのこと。そこで私たちは辞書を引くことになるのですが、そのひそんだ意味も言葉です。その言葉にも「根底にひそむ根本的な意味」があるわけで、そこにも意味がひそんでいる。その意味もまた言葉でそこにも意味がひそんでおり、という具合に意味はいつもひそんでおり、それは決して明らかにならない。意味を明らかにすると言いながら、実はひそむこと自体を意味としているようなものなのです。それに意味といっても、よく読むと「愛国」の意味が「自分の国を愛すること」とされているように、言葉を読みくだす、あるいは別の言葉で言い換えているだけです。明確に意味を記述できるというのは完全に言い換えられるということで、いうなればその語は不要だという宣言です。辞書を引いてわかったような気がするのは、実はその言葉を消し去ってスッキリするからではないでしょうか。
 私は「言葉には意味がない」と言いたいのではありません。あくまで「言葉には意味がある」のではない。そうでなく、
 言葉は意味をなす。
 のではないかと思います。言葉に意味がひそんで「ある」のではなく、言葉は発することで意味を「なす」のではないでしょうか。そこに「ある」のではなく、これから「なす」。意味は未来に向かっているのです。(中略)辞書に掲載されている「ある」意味は、過去になされた意味のひとつにすぎず、それが実際に「なる」とは限らない。言ってみなければわからないわけで、わからないからこそ私たちは会話するのではないでしょうか。(中略)
言葉の意味は不明確にして不明解。不明解だからこそ話すのです。「話す」は「放つ」で、解き放すことですから。そして意味が「なす」ものだとすると、漢語や文字や語法まで取り入れ、さらには次々と諸国語をカタカナで自分のものにしていく日本語は、
なせばなる、どうにかなる。
という言葉なのかもしれません。あえているならそれこそが日本語全体の意味。外国語が苦手な人が多いのも、日本語で「どうにかなる」と感じているからではないでしょうか。日本人、日本語は曖昧だとよくいわれますが、曖昧というより「どうにかなる」と楽観している。少なくとも私自身はそのように考える次第です。(後略)」
 ここで取り上げられている言葉は【あ】、【いま】、【うそ】、【えー】、【きく】、【ちょっと】、【ちがう】、【っていうか】、【なに】、【意見】、【リスク】、【社会】、【普通】、【適当】、【論理的】、【存在】、【才能】、【出世】、【景気】、【健康】、【秘密】、【信】、【つかれ】、【つまらない】、【スッキリ】、【すみません】、【すき】、【こころ】、【しあわせ】、【バカ】、【日本】、【私】の32語。辞書に頼ると、いかにして同語反復に陥るかが語られていました。