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佐藤多佳子『夏から夏へ』

2008-09-15 15:33:45 | ノンジャンル
 佐藤多佳子さんの最新刊「夏から夏へ」を読みました。佐藤さんが初めて書いたノンフィクションです。
 2007年の世界陸上大阪大会で7年ぶりにアジア記録を塗り替えた4×100mのメンバー、塚原直貴、末續慎吾、高平慎士、朝原宣治について書かれています。著者が見た世界陸上大阪大会のレースぶり、スタート前の4人の様子、予選の様子、予選から決勝までの様子、決勝の様子が第一章の内容。第二章は、4人のこれまでのプロフィールが紹介され、リザーブの小島選手についても紹介されています。
 書かれている内容の大部分が選手たちの精神的なものについてであり、また佐藤さんがミーハー的であるとご自分でも認めているように、4人の賛美に終始してしまっているので、今一つの面白さでした。ただ、佐藤さんの取材は綿密で、末續選手が大学入学時に両親が離婚し、2年生の時のシドニーオリンピックに出場できなかったら大学を辞め就職しようと考えていたことを知れたことや、スプリンターの奥深さに触れられたことは収穫でした。本を出すのがもう少し遅くて、北京オリンピックでこのメンバーがメダリストになるまでで書かれていれば、もっと盛り上がっただろうと思うと残念です。めちゃくちゃ盛り上がった「一瞬の風になれ」のように、ドラマチックな北京オリンピックのノンフィクションをこの本の続編として佐藤さんが書かれることを期待したいと思います。


レイモン・ブルマンタール監督『エディット・ピアフ 愛なしでは何の価値もない』

2008-09-14 16:33:28 | ノンジャンル
 WOWOWでレイモン・ブルマンタール監督のドキュメンタリー「エディット・ピアフ 愛なしでは何の価値もない」を見ました。有名なシャンソン歌手エディット・ピアフの一生を描いた映画です。
 生まれてすぐに母親に去られ、その母は酒とドラッグで'45年に死んでしまいます。父は売春宿を経営する祖母に娘を預け、売春婦たちから可愛がられる一方、居酒屋のテーブルで歌い始めます。7才で曲芸師の父に引き取られ、芸に合わせて歌わされ、暴力を振るわれます。15才で家出、パリの路上で暮らし、モモーヌという少女と友達になり、バーを根城にして不良少年たちと付き合い、路上で歌って金を稼ぎ始めました。仲間のリーダー格として活躍しますが、不良仲間の一人と恋に落ちて妊娠し、店の売り子になりますが長続きはせず、生まれた子も死にます。再び路上で歌い始め、一人の兵士と恋に落ちますが捨てられます。そしてキャバレーの支配人ルイ・ルブレと知り合い、彼女のキャリアが始まります。彼のキャバレーで歌い始めると、たちまち人気を博し、スター街道を歩きだします。ところがルブレは殺されてしまい、ピアフは悲しみにくれます。そこで同じ町に住む作詞家のレイモン・アッソーが力になり、声にも落ち着きが出てきて、歌手を一生の仕事にする決心をします。すべての曲はマルダリット・モノーが作曲しました。アッソーが徴兵されると、資産家のポール・ムーリスと付き合うようになり、ジャン・コクトーとも知り合いますが、ムーリスが兵役に取られて2人の仲は終わります。そしてイヴ・モンタンを育て、アメリカ・ツアーを成功させ、ニューヨークに長期滞在。ジョン・フォードなどアメリカの文化人とも交流し、ディートリッヒから英語を習います。そしてボクサーのマルセル・セルダンと恋に落ち、セルダンが不在の時の気持ちを歌って「愛の讃歌」が生まれます。しかし、セルダンは飛行機事故で死んでしまい、その夜のステージでは「愛の讃歌」を歌うところで倒れてしまいます。その後、大量の薬を飲み、食事もせずに数日を過ごしますが、モモーヌの助けで立ち直り、多くの友人たち(シャルル・アズナブール、エディ・コンスタンティーヌも含む)に支えられ、活動を再開させます。ブリューノ・コカトリクスと知り合い、彼の演出でキャリアの頂点を極めます。そしてディートリッヒの介添えのもと、古い友人のジャック・ビルスと結婚。しかしすぐに離婚。今度は20才年下の歌手サララギと結婚しますが、自動車事故、胃潰瘍による2度の大手術で体力が衰えていき、それにもかかわらず限界まで舞台に立った結果、モノーの死後、2年で後を追います。'63年10月10日、47才でのことでした。
 映画は、写真、フィルム、関係者へのインタビューで構成され、文字通り波乱万丈の人生、恋と歌に生きた人生を追いかけていきます。今までは写真だけでしか知りませんでしたが、フィルムから見た彼女はとてもチャーミングで、しかもエネルギーの固まりであり、常に全力を尽くし、その結果47才で死んでしまったのかなあ、と思われてしまいました。この映画を見ると、ピアフの歌を今までとは違った聞き方で聞くことができると思います。あまり見る機会がないかもしれませんが、もしそういう機会に恵まれるようでしたら、是非ご覧ください。オススメです。

牛山隆信『秘境駅へ行こう!』

2008-09-13 16:13:55 | ノンジャンル
 高野秀行さんが推薦する牛山隆信さんの「秘境駅へ行こう!」を読みました。無人駅で、周りにほとんど人家がなく、乗降客もほとんどいない駅を探して歩いた記録です。
 実際に記載されている秘境駅は、外界から隔絶された室蘭本線・小幌駅、電車は停まらないが時刻表には載っているので、冬に徒歩で行こうとして遭難しかかった函館本線・張碓駅、周囲が牧場の私有地で降りても行き場がない宗谷本線・上雄信内駅、原野のど真ん中にある根室本線・初田牛駅、廃屋に囲まれ山奥にある山田線・浅岸駅(岩手県)、トタン板の掘っ建て小屋が駅舎である只見線・田子倉駅(福島県)、山の中に地下鉄の入り口のようなものがあるだけの野岩鉄道会津鬼怒川線・男鹿高原駅(栃木県)、周囲に人家が全くない新幹線駅の長野新幹線・安中榛名駅(群馬県)、山の中でホームが土の大井川鐵道井川線・尾盛駅(静岡県)、断崖絶壁の途中にある飯田線・田本駅(長野県)、神戸から10分なのに山奥にある神戸電鉄有馬線・菊水山駅、夜になると野性動物に囲まれる土讃線・坪尻駅(徳島県)、日本唯一のループ線上のスイッチバック駅である肥薩線・大畑駅(熊本県)などなどです。駅ができた経緯から、その駅に至るまでの筆者の旅の様子、そして駅および駅周辺の描写、そして駅へ行くためのガイドが書かれています。
 筆者は好んで駅寝(無人駅で夜を越すこと)をし、また北海道の秘境駅には夏に行けばいいものを、わざわざ厳冬期に行くなど、チャレンジ精神旺盛です。写真も多く、一部は本当にビルマの奥地のような秘境を思わせる写真です。ただ、ところどころに散見するゴシック体のつっこみが面白くないのが気になりました。それを除けば楽しめると思います。オススメです。

中島京子『TOUR 1989』

2008-09-12 18:24:20 | ノンジャンル
 高野秀行さんがファンだという中島京子さんの'06年作品「TOUR 1989」を読みました。
 「エピソード1 迷子つきツアー」は、今は結婚している凪子のもとにノンフィクションライターもしているというセールスマンがやってきて、2年前に預かったという手紙を渡します。それは13年前に行なわれた迷子ツアーに参加した男の手紙で、ツアー中に一人の参加者がいなくなり他のツアー参加者に余韻を与えるという迷子ツアーで迷子になった人たちの中で唯一日本に帰ってこなかった男のものでした。男は凪子が銀行窓口で働いていた時に毎日会っていたと書いていましたが、凪子の記憶にはなかった、という話。
 「エピソード2 リフレッシュ休暇」は、引越しの準備をしていて昔のアルバムを見、日記を読んでいるうちに、会社のリフレッシュ休暇で参加させられた香港ツアーでいなくなってしまった若い男性の客のことを思い出す話。
 「エピソード3 テディ・リーを探して」は、ツアーコンダクターをしていた時の恋人である、香港のカメラマン、テディー・リーの名前で検索をかけてみると、自分しか知らないことが書いてあるブログに辿り着きますが、そこには若い男性のツアー客をテディーと共に誘拐するという私の知らない計画のことなどが書いてあったので、正しい内容のブログを新たに立ち上げる話。
 「エピソード4 吉田超人」は、2年前に香港で見知らぬ男から、13年前に迷子ツアーで迷子にされた男から出された手紙を受け取り、セールス先で偶然宛先の女性を見つけると、差出人の男性を探すために旅行代理店に行き、そこの紹介で香港へ行くと、差出人が迷子になった同じ年に香港で迷子になり、中国語でウルトラマンを表す吉田超人と呼ばれる反中国政府ゲリラになった男がいることを知り、バンコクへ行ってその男に会うと、その男は確かに手紙を出した男でしたが、迷子ツアーや手紙での凪子との話は男が作った創作であり、吉田超人についての話もデマだと男から言われる話、です。

 エピソード1から3までで謎が語られ、4でその答えが明かされます。真実というのがいかにあやふやなものなのかが語られているのだと思います。
 今回中島京子さんの小説を初めて読みましたが、あまり好きにはなれませんでした。話自体があまり面白くなく、語り口もとてもオーソドックスで退屈するものでした。先日読んだデビュー作のエッセイが面白かったので、少しがっかりです。しかし、高野秀行さんがファンだということなので、まだ何冊か読んでみようと思っています。次の本に期待です。

高橋秀実『からくり民主主義』

2008-09-11 16:30:17 | ノンジャンル
 道路工事で、最近敷いたばかりのアスファルトを剥がしていたりするのを見て、何て無駄なことをと思っていましたが、今日発行のフリーペーパー「R25」で、'99年にリサイクル法ができて以来、アスファルトのリサイクル率は約99%に達していると聞き、これからは同じ光景を見ても少しイライラせずに済むようになるかもしれないと思いました。

 さて、高野秀行さんがエンタメ・ノンフ界の横綱と呼ぶ高橋秀実さんが'02年に出した「からくり民主主義」を読みました。日本での様々な状況について、調査し、その結果を知らせてくれています。
 親切しそうにない人が親切している話を表彰することによって、やくざや障害者を差別してしまっている親切運動、反対されると信仰の喜びを得るという統一教会信者、世界遺産に登録されることにより不便な生活を強いられて、登録されたことに憤慨している白川郷合掌造の住民たち、諫早湾干拓事業の前からある農民と漁民の対立と、有明海の汚れが全て諫早湾に集まってくることにより、昔から諫早湾の農民が受けている被害、オウム真理教の施設のために土地を売って儲けた住民と、オウムの来る前からひどい臭気を放っていた肥料工場と、オウム施設のおかげで観光客が集まり儲けた住民たちの存在で、オウム施設への反対など実はほとんどなかった上九一色村、米軍基地に土地を収容されている住民が国からもらう莫大な借地料と、基地反対運動が盛り上がる度にその借地料が上がるので、反対運動を歓迎する住民と、戦火で戦前の土地の所有者および境界線がはっきりしていないので、いざ基地返還となった時起こるであろう混乱のため、本気で基地反対など思っていない沖縄県民、原発反対運動が盛り上がるとそれだけ補償額が増えるので、反対運動を歓迎する若狭湾の原発周辺の漁民たち、アホでスケベを売りにしていた横山ノックを強制わいせつの罪で訴えたので、今一つ説得力に欠けた女子大生、自殺死体の発見が常態化しているので、せめて人に迷惑をかけずに自殺しろと言う青木ヶ原樹海の村人たち、メンバー間の差別意識が激しい、頚椎損傷の身体障害者で作るバスケットチーム。以上の話がなされます。
 これらの話でびっくりするのは、これまでマスコミで定説となっていることが、実は違っていたという事実です。一つや二つなら驚きもしませんが、これだけ揃うと壮観です。そしてさらに驚くのは、これらの取材の際に著者が読んでいる本の数が半端ではないこと。これだけの本を読んでいると、著者があとがきで書いているように、実際に取材するのが事件の発生から1年以上遅れてしまうのもうなづけます。しかしこれだけの本を読んでいるからこそ、実態を正確に把握することが可能なのでしょう。
 ルポルタージュとしても知識本としても面白い本です。文句なしにオススメです。