あかつき打ち上げ成功
金星探査機、正常に飛行
(写真)H2Aロケット17号機から分離される「あかつき」(写真中央四角い物体)=21日午前(宇宙航空研究開
発機構提供・テレビモニターより)
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日本初の金星探査機「あかつき」など合計6機の探査機・小型衛星を搭載したH2Aロケット17号機が21日午前6時58分22秒、鹿児島県の種子
島宇宙センターから打ち上げられました。6機は、太平洋上空で次々とロケットから分離されました。あかつきは正常に飛行しています。H2Aで惑星間空間に
探査機を打ち上げたのは初めてです。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発したあかつきは、金星の高度300~8万キロメートルの楕円(だえん)軌道を周回しながら大気の動きを観
測し、地球と異なる金星の気象の謎を探り、雷や火山活動の有無を調べます。金星到達は、12月上旬。逆噴射で減速して周回軌道に入ります。
周回軌道への投入は、地球との通信に数分かかる遠方の探査機の位置や姿勢を把握し、逆噴射のタイミングなど精密に決定する必要があり、最大の難関
です。
JAXAが世界に先駆けて開発した小型ソーラー電力セイル実証機「イカロス」は、14メー
トル四方の帆を広げて太陽光の力を受け惑星間空間を航行する“宇宙ヨット”です。半年間かけて、帆の展開や航行技術を実証します。
全国の大学・高専が開発した1辺約40センチの深宇宙衛星は、宇宙環境での機器の性能実証を実施。3大学による1辺10センチの小型衛星3機は、
地球を周回しながら動画撮影や水蒸気観測などを行います。
打ち上げ成功後の記者会見で、あかつき責任者の中村正人JAXA教授は「チームの若い人たちの努力が実を結んだ」と感想を述べました。
太陽帆 イカロスも発進
太陽光を帆に受けて進む「イカロ
ス」の想像図(©JAXA)
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イカロスは、太陽光の力(太陽光圧)を帆に受けて宇宙空間を航行する「ソーラーセイル」(太陽帆)の史上初の実証をめざします。ソーラーセイル
は、燃料のいらない夢の宇宙船。着想は100年前からあったものの、軽くて丈夫な帆がなかったために実現できませんでした。
イカロスの本体は直径1・6メートル、高さ1メートルの円柱形。本体に、髪の毛の太さの10分の1の超薄膜の帆がまきつけられています。約2週間
後、回転する本体の遠心力を利用して帆を展開する予定。イカロスの実証試験の最大のヤマ場となります。
JAXAは、将来構想として、ソーラーセイルと電気推進による木星圏の探査をめざしています。イカロスには、帆の一部に薄膜太陽電池が張り付けら
れており、電気推進も併用するための実験も行います。イカロスが深宇宙への扉を大きく開くことができるか、期待されます。
解説
金星版の“気象衛星”
謎の暴風・火山追う
あかつきは、謎の多い金星の気象現象の徹底解明をめざす金星版の“気象衛星”です。
金星と地球は、約46億年前に誕生した当時はよく似た“双子の惑星”でした。しかし現在、金星は大気の量が地球の100倍あり、その96%が温室
効果ガスの二酸化炭素。そのため地表は、90気圧、460度の灼熱(しゃくねつ)地獄です。空一面が硫酸の雲で覆われ、海はありません。なぜ、金星と地球
が異なる運命をたどったのかを探ります。
最大の謎は「超回転」(スーパーローテーション)と呼ばれる大気の高速回転現象です。金星の自転速度(赤道上)は人が歩く程度。自転が遅い惑星で
吹く風は遅いと考えるのが従来の常識でした。ところが金星のほぼ全球で、上空の大気が新幹線よりも速い速度で、地面を追い越すように回転しています。
あかつきは搭載するカメラ5台で、地表面から高度90キロメートルまでのそれぞれ異なる高度の対象を同時観測し、大気の動きを立体的にとらえ、謎
に迫ります。
このほか、研究者の間で長年論争になっている雷や火山活動の有無に決着をつけます。(中村秀生)