大橋みつるの平和ト-ク・・世直しご一緒に!

世界の変化を見ながら世直し提言
朝鮮・韓国・中国・ロシアとの友好促進
日本語版新聞紹介

トランプ大統領を最もよく扱った外国首脳の一人として、文在寅大統領を挙げました。大統領の目から見てトランプ大統領はどのようなリーダーですか。これから韓国政府はどう対応していくべきだと思いますか。

2025-02-11 | 韓国ハンギョレ新聞
 

文在寅前大統領インタビュー(3)

「トランプ大統領は第一印象を重視…初会談がカギ」

登録:2025-02-10 10:22 修正:2025-02-10 17:38

 

【単独インタビュー|トランプ2期発足と北朝鮮】 
 
トランプ大統領はこれまでの外交文法を無視し、予測不可能 
一方、理念にこだわらず、実用的であるため、相手しやすい面も 
意図的な「大袈裟な主張」…正確な事実で反論すべき 
朝米首脳会談、すでに推進しているはず 
韓国は北朝鮮政策の基調を変えなければ自ら疎外を招くことに
 
 
文在寅前大統領が、平山村の自宅の接見室に置かれている2018年9月19日の平壌綾羅島競技場で撮った演説写真を指差しながら説明している。この写真は当時のチョ・ミョンギュン統一部長官が携帯電話で撮ったものだという=カン・チャングァン先任記者//ハンギョレ新聞社

―米国で第2次ドナルド・トランプ政権が発足するやいなや、全世界が通商戦争に巻き込まれています。在任期間中にトランプ大統領に何度も会っていますが、昨年、米国の政治専門誌「ポリティコ」は、トランプ大統領を最もよく扱った外国首脳の一人として、文在寅大統領を挙げました。大統領の目から見てトランプ大統領はどのようなリーダーですか。これから韓国政府はどう対応していくべきだと思いますか。

  「トランプ大統領は皆さんご存知のように、米国の利益を前面に掲げて非常に強く追い込むスタイルです。これまでの外交文法を全く無視したり、また予測不可能な姿を見せたりもします。しかし、一方では理念にこだわらず、非常に実用的でもあるため、相手にしやすい面もあります。私が経験したところによると、気になる事項には質問もたくさんし、その答弁に耳を傾け、自分の意見を率直に討論するため、話が通じる、対話できると、そう思いました。

 最も良かったのは、北朝鮮問題について、これまでの共和党の政治家や保守政治家とは違って、理念にこだわらず、実用的にアプローチしたことです。もともと一般的な共和党の政治家や保守的な政治家は北朝鮮を悪の勢力と捉えるため、北朝鮮との対話を信頼せず、持続的に圧力をかけて北朝鮮を屈服させなければならない、こういう考えを強く持っています。私はトランプ大統領にこう説明しました。制裁と圧迫も必要だが、果たしてこれまで制裁と圧迫を持続した結果、北朝鮮の核とミサイル問題が解決できたのか、その脅威が減ったのか、失敗したではないか、制裁と圧迫にもかかわらず、北朝鮮の核とミサイルは高度化し続け、脅威的になったではないか、だから制裁と圧迫の他にも対話の方法も同時に駆使する必要がある。もう一方で、軍事的オプションを考えるなら、それは韓米両国にとってあまりにも大きな犠牲を伴うため、それは到底選べない方法だ、だから外交的な方法を使わなければならないし、外交的な方法でも十分に北朝鮮の非核化という目標を達成できる、そう説明しました。トランプ大統領はそのような説明に全面的に同意しながら、本当にこれまでの米国の指導者とは違い、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と直接会うトップダウンの首脳会談をしました。

 結果的にその対話が全て成功したわけではなりません。しかし、2017年に就任した当時は、北朝鮮の核やミサイルの脅威が最高潮に達しており、戦争の危機が朝鮮半島を覆いつくしていたことを考えると、トランプ大統領のそうした実用的なアプローチのため、少なくともトランプ大統領の任期中、また私の任期中、朝鮮半島の平和を維持できたと思います。それはトランプ大統領の非常に大きな業績だと思います。トランプ大統領は一方で、大規模な韓米軍事訓練や合同訓練、または朝鮮半島の戦略資産を展開することについても、非常に費用のかかる無駄遣いだ、または愚かな戦争ごっこだという実用的な考えを持っており、その価値を高く評価しませんでした。そのようなトランプ大統領の態度が朝鮮半島の軍事的緊張を下げるうえでも、大きな役割を果たしたと言えます」

―最近のトランプ大統領を見ると、自国の経済的利益を最大化しようと非常に努力していますが、大統領の在任時代にも防衛費分担金交渉で苦労されましたね。

 「トランプ大統領は自分の要求を貫徹するために大袈裟な主張をすることも多々あります。実際に対話をしてみると、トランプ大統領が朝鮮半島問題をそれほど深く知らないことが多く見られました。なぜなら、私たちにとってはあまりにも重要なので、韓米間の問題に精通していますが、米国の大統領にとっては数多くの世界問題の一つに過ぎず、時にはそれほど重要な問題ではないからです。だから、米国大統領が米国の国家利益を前面に掲げて外交を展開してくるなら、私たちも同じように私たちの国益を守るそのような交渉の原則を必ず貫く必要があります。トランプ大統領が正確でない情報の中で大袈裟な主張をしてくるならば、それを一つひとつ丁寧に説明する必要があると思います。

 例えばトランプ大統領は私に会って防衛費分担の話が出るたびに、在韓米軍は4万人だ、それでも韓国が防衛費分担を全くせずに安保ただ乗りをしている、と主張しました。しかし朝鮮半島の在韓米軍は2万8500人なんです。その2万8500人は米国議会が設定したラインです。そう説明して、その次に安保ただ乗りという言葉が事実ではないことについて説明しました。韓国の国防費がGDPに占める割合は約2.7%になります。米国の同盟国の中で最も高い割合です。当時、日本は1%余り、ヨーロッパ諸国は皆2%未満、だから2.7%なんて、こんなに高い国防費を負担した国はありませんでした。その上、私たちはベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争、朝鮮戦争以来、米国が行ったすべての戦争に参戦し、いわば同盟国の義理を果たしました。そのような国は韓国しかありません。

 それで韓国は絶対に安保ただ乗りをしているわけではなく、最も高い安保費用を負担する国であり、米国に多く助けられたが、韓国なりに米国を助けるために最善を尽くしてきたと、こういうふうに説明しました。それだけでなく、防衛費も決して少ない金額ではなく、それも韓国経済が発展するにつれて、新たに交渉するたびにいつも早く引き上げてきた、それに在韓米軍基地の敷地を無償提供していることとか、平沢(ピョンテク)米軍基地の建設費用100億ドルを韓国政府が負担したとか、こういう点まで考えると、韓国は十分に高い防衛費を分担していると、もちろんそのように説明したからといって、トランプ大統領が防衛費を5倍に一気に引き上げるとかの要求を撤回するわけではありません。しかし、そのような説明を聞くと、そこまで強くは要求できなくなります。

 米国側の交渉代表でさえも、韓国の立場を十分に理解する、だがトランプ大統領の指針があるから仕方がない、というような話をしたほどでした。そのような膠着状態が続いたため、私は交渉中断を宣言し、韓国の交渉代表団を撤収させたりもしました。それでも、トランプ大統領は何の報復措置も取りませんでした。それでトランプ政権時代は結局防衛費分担協定を妥結できず、ジョー・バイデン政権に移ってから、バイデン大統領とより合理的な金額の防衛費分担協定を、5年単位で結ぶことができました。

 そこで私は、防衛費分担協定が政治的な交渉にならないように、交渉代表を国防部や軍側の人物ではなく、企画財政部出身の財政専門家を交渉代表として送り出しました。それで、政治的な問題はすべて大統領に任せ、従来の防衛分担の枠組みから韓国がいくらの防衛費を分担するのが合理的なのか、そのような純粋に技術的な事項だけで交渉に臨むように指針を与えました。今後、新政権が米国と防衛費分担協定をもしすることになれば、その時の交渉代表団から経験談を十分聞いた方が良いという助言を申し上げたいです。

 おそらく米国が防衛費分担金交渉の再交渉要求をしてくるかもしれませんが、実は私たちは2026年から2030年まで防衛費分担協定をすでに締結しています。これは私たちには国会の同意まで経た一種の条約の性格を持っているため、その有効期間内に新たに交渉をしようというのは一種の国際ルール違反なのです。米国が防衛費分担の引き上げを要求するなら、新たな協定が満了する頃に、新たな協定を締結する時に要求すべきことです。そのような点を強く掲げながら、米国の防衛費分担再交渉を強く拒否する姿を見せる必要があり、もしやむを得ず再交渉に臨むとしても、最大限交渉の時期を遅らせ、日本やドイツの再交渉が先に行われた後に、その結果を見ながら韓国が交渉に乗り出す態度が望ましいと思います」

 
 
文在寅前大統領が7日、慶尚南道梁山市平山村の自宅でハンギョレのインタビューに応じている=カン・チャングァン先任記者//ハンギョレ新聞社

―もし、次の政権が発足し、次期大統領が「トランプの扱い方」を大統領に聞くとしたら、どのような話をするか、もう少し話していただけますか。

 「まずは先ほど言った韓国の外交の原則、韓国が大韓民国の安保のためにも経済的側面でも韓米同盟を最大限重要視するということは誰もが知っていることなので、そのような原則のもと、韓国の国益を守る原則を確実に守っていく必要があります。ですから、受け入れるべきことは受け入れながらも、そうでない部分ではないと明確に線を引く必要があります。

 よく(米国が)強く追い詰めて要求してきたら、面と向かって断るのは難しく、その瞬間は曖昧に取りつくろってから帰ってきて実務的に他の道を模索をすることを考えがちですが、実は米国はそのような態度を最も嫌っています。ノーと言うべきことは面と向かってノーと言わなければならず、その時は何も言わず、まるで同意しているかのような姿を見せ、後になって他のことを言い出すことが最も嫌われるのです。むしろ同盟国の間で意見の相違があるのは当たり前のことで、相違を明らかにしたうえで同盟国間で協議していくのが最も健全な同盟だ、米国はその点を常に強調します。韓国の大統領と外交当局も常にそのような態度を持つ必要があります。

 首脳会談に臨む方々は、少なくとも朝鮮半島問題、あるいは韓米間の問題、いずれにしても米国との首脳会談で問題となり得る問題については、完全に熟知する必要があります。トランプ大統領が私と初めて対面した時、普通の首脳会談は互いに議題別に対話する内容をあらかじめ整理して順番にやりとりする、いわゆる約束組手で行われることが多いのですが、トランプ大統領はそのような外交の正攻法を完全に無視して、自分が気になる部分をやたらと質問するのです。時には攻撃的な質問をしたりもします。しかし、幸いにもその質問は私がすべて十分に分かっている問題だったので、十分うまく答えることができたし、そうした過程を経て、場が和み、その後は和気あいあいとして残りの日程を終えることができたのです。私の経験からすると、トランプ大統領は第一印象を非常に重要視する人に見えました。最初の会談がかなりうまくいったので、任期中ずっとトランプ大統領と良好な関係を維持することができたと思います」

ー大統領が今おっしゃった同盟間にも意見の相違は当たり前のことだというのは、とても良いお話だと思います。ところが、韓国の保守メディアは韓米間に少しでも意見の相違があれば、「韓米間に意見の相違がある」として1面トップ記事として掲載するなど、大きな問題であるかのように報じます。

 「例えば米国の省庁間でも意見の相違が多いんです。朝鮮半島問題について国務省と国防部も違うし、または大統領安保室の話も違うし、米国内部で異なる意見があるのは戦略的なものだ、『良い警官、悪い警官』というような戦略的なアプローチだと言いながら、韓国内部の意見の相違や韓米間に見解が違うと、まるで大変なことが起きているように、分裂しているかのように思うのは大きな弊害です。政府が外交を行う人々により多くの信頼を与え、十分に力を発揮できるよう後押しする必要があります」

―トランプ大統領は米国の大統領選挙の過程で、「自分は金正恩委員長とうまくやってきた」とよく言っていました。1期目の時のようにトランプ大統領が金正恩委員長と朝米首脳会談を再び進めるとみていますか。もしそうなら、私たちはどのように対応すべきでしょうか。

 「進めるでしょうし、すでに今進めていると思います。北朝鮮が対話の場に出てくるように誘導する言葉を使っているではありませんか。かなり多くの専門家が、トランプ大統領はウクライナ戦争の即時終息を約束しているため、その問題にまず取り組み、北朝鮮との対話はウクライナとロシア戦争が終わってからになるだろうと予測していますが、私はそうではないと思います。北朝鮮との対話は金正恩委員長側が呼応さえすれば、ウクライナ戦争の終息前にも実現する可能性があると思います。

 トランプ大統領としては1期目に外交を通じた北朝鮮の核問題の解決を目指しましたが、それは米国の歴代大統領ができなかったことなんです。やり遂げることができるなら素晴らしい業績になります。(トランプ大統領には)その手前で立ち止まった経験があります。それも自身の意志ではなく、本人は交渉する意思があったにもかかわらず、周りのネオコンに強く足を引っ張られ、最後までたどり着けなかったため、2期目には必ずそのような交渉目標を達成し、非常に大きな業績を残そうとする政治家としての野心を持っていると思います。

 ところが、私たちが今のように北朝鮮を敵視し、対話をしない政策基調を持ち続ければ、韓国は朝米対話から疎外され、パッシングされることを自ら招くことになるのです。ですから、韓国が早く北朝鮮との政策基調を対決から対話を進める方向に転換する必要がありますし、実際に朝米間で向かい合ったとしても、韓国がその対話を促進するうえで非常に重要な役割を果たさなければなりません。南北関係の進展なしに朝米間だけで何か問題を解決することはできないんです。仲裁者、促進者の役割を果たすためにも、韓国政府は速やかに対話基調に変えなければなりません。そしてそのような対話を通じて、北朝鮮の核やミサイルの脅威を完全になくしたり、減らしたりするトランプ大統領の努力を積極的に支持し、歩調を合わせていく必要があります」

―ところが、北朝鮮の金正恩委員長はハノイでの2回目の朝米首脳会談の結果にあまりにも失望し、交渉のテーブルにつくのは難しいだろうという分析もあります。大統領は北朝鮮も結局は朝米の対話に乗り出すとみていますか。

 「その代わり、もっと厳しい条件を掲げるでしょう。このかん北朝鮮の核とミサイルがはるかに発展したので、今では核保有国の地位を主張しているではありませんか。交渉の場には出てきても、これまでより厳しいことを求めるでしょうし、その点で朝米間の対話に入るための、神経戦のようなものが繰り広げられるでしょう。おそらく北朝鮮は核保有国の地位を主張しながら、過去のように非核化ではなく核凍結または核軍縮といった方向で交渉対話の目標を設定する可能性が高いと考えます」

―韓国では保守勢力を中心に、韓国も核を持つべきではないかという「核保有論」がますます高まる可能性も大きいと思いますが、これについてはどうお考えですか。

 「韓国独自の核武装だけでなく、一部で折衷案として提示した戦術核を再び韓国に配備することまでも、米国は絶対に同意していません。前回の韓米間の核問題交渉でも、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が独自の核武装論を手放す代わりに、核運用に関する協議をするということで、いわば核の傘を強化する方向で合意したことがありました。おそらく米国はそのような対応をするでしょう。現実的に私たちが独自に核武装をすることは不可能です。独自の核武装のためには、NPT体制から脱退しなければならず、そうすると、韓米同盟に非常に大きな亀裂が生じ、また国際社会から多くの制裁を受けることになります。韓国が核武装をすることになれば、日本、台湾も核武装の方に乗り出し、東アジア地域で核ドミノ現象も起こり得ますが、それは米国にとっては決して受け入れられない要求だと思います。しかし、米国側も韓国の要求をただ無視するわけにはいかないため、「完全な非核化」という最終目標を私たちが手放さないと言えば、米国もその点まで拒否したり否定したりすることはできないでしょう」

パク・チャンス大記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
 
 

文在寅前大統領インタビュー(4)

「尹錫悦政権、中ロに背を向けたのは大きな過ち」

登録:2025-02-10 14:05 修正:2025-02-10 18:27

 

【単独インタビュー|韓日米軍事協力と北朝鮮】 
 
盧泰愚政権以来の韓国外交の伝統的な方向性が崩れた 
中ロとの関係悪化で国際的な「北朝鮮核抑止体制」が瓦解 
北朝鮮の「敵対的二国論」、金日成主席の遺訓も破って遺憾 
南北関係が悪化しても平和維持のための安全弁が必要
 
 
文在寅前大統領が7日、ハンギョレのインタビューで、パク・チャンス大記者の質問に何かを考えながら答える準備をしている=カン・チャングァン先任記者//ハンギョレ新聞社

―尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足から2年半の外交政策をどう評価しますか。特に韓米日軍事協力の強化が主軸でしたが、これに対する大統領の考えを聞かせてください。

 「尹錫悦政権が後退させた韓国外交は、他の国内政治のいかなる後退よりも(その影響が)はるかに長く続くかもしれません。まず朝鮮半島は世界で類を見ない、地政学的に米国、中国、ロシア、日本の4大強国に囲まれています。そのため、4大国いずれとも良い関係を維持してこそ、韓国の安全保障を守っていくことができます。4大国のうちどれか一方に味方し、どれか一方を敵に回した瞬間、韓国の安全保障は危うくなるのです。

 韓米日3カ国の軍事協力を強化するというのは、今や北朝鮮の核とミサイルの脅威がどんどん高まっているため、その対応として必要だというなら、一応理解できます。ところが、韓米日軍事協力を強化するにしても、他方では中国や北朝鮮との友好関係を維持していかなければならないのに、韓米日軍事協力を強化しながら、中国、ロシアに背を向け、逆に北朝鮮と中国、ロシアの三角協力体制を作ってしまったのです。そうやって互いに対立する関係になりました。韓米日の三角軍事協力が必要な理由は北朝鮮の核とミサイルを抑止するためなのに、それで抑止ができたでしょうか。むしろ、尹錫悦政権時代に北朝鮮の核とミサイルの能力はさらなる発展を遂げました。

 前政権では中国とロシアが韓国政府の朝鮮半島非核化政策を積極的に支持し、北朝鮮の核とミサイル挑発を抑止する役割を果たしていましたが、今や中ロと北朝鮮の三角協力が強化され、北朝鮮にとってはむしろ外交における風穴を開ける結果となりました。特に、ICBM発射のような挑発は前例のないものでしたが、以前なら国連安保理の制裁があってしかるべきでした。しかし、国連安保理の制裁は実際に追加されたでしょうか? 制裁に向けて一歩も踏み出せませんでした。なぜなら、ロシアと中国が拒否権を行使するからです。これまでは北朝鮮への追加制裁に対し、ロシアや中国が常に同意しており、制裁に加わっていました。このような国際抑止体制が完全に瓦解してしまいました。これは尹錫悦政権が自ら招いたことです。

 このような政治安全保障の側面だけでなく、経済的な面でも、米国と日本は中国と政治的に対立しているように見えても、政治面ではそうかもしれませんが、経済面ではむしろ過去よりはるかに交易が増え、非常に活発に協力しています。そうやって政治と経済を明確に区別しています。しかし、韓国は中国と経済的な面でも距離を置いて、経済的な面でもはるかに損をしました。ロシアとの関係でも同じことが言えます。私たちが伝統的に展開してきたバランス外交、このバランス外交というのは前政権で掲げたものではありません。盧泰愚(ノ・テウ)政権の北方外交以来、歴代のすべての政権、さらには保守政権でさえも、米国との同盟関係を重視しながらも、中ロとの関係を非常に重要に扱い、良好な関係を維持しようと多くの努力を傾けてきました。それが前政権にも受け継がれてきましたが、尹錫悦政権がバランス外交という韓国外交の伝統的な方向性そのものを崩してしまいました。

 これをかならず復元しなければなりません。米国との同盟を重視しながらも、中国との関係を修復する努力を傾けるべきですし、ロシアとの関係においても、ウクライナに対する軍事的支援協力などはもはやできなくなくなりました。ドナルド・トランプ大統領がウクライナ戦争の早期終息を公約したではありませんか。これからはウクライナ戦争の早期終息を進めるトランプ大統領の努力を支持し、歩調を合わせていく必要があります。ですから、おそらくウクライナ戦争が終息したら、その次に米国とロシアの関係、ロシアとヨーロッパとの関係も改善されるきっかけになると思いますが、韓国もそれを機にロシアとの関係を修復できるように準備し、努力していかなければなりません」

―南北関係は常に対立と緊張の関係でしたが、1991年の南北基本合意書の採択以降は南北ともに「統一を目指す特殊関係」という共通認識を持っていたと思います。ところが昨年、北朝鮮が「敵対的な二つの国家論」を打ち出したことで、南北関係に根本的な変化が訪れるのではないかとする見方もあります。北朝鮮の態度の変化についてどうお考えですか。

 「本当に残念なことです。韓国と北朝鮮が国連に同時加盟した当時、北朝鮮は非常に消極的でした。いわば、分断を固着化する恐れがあるという懸念を示したので、それを払拭するために南北間で『我々はたとえ国際法的には二つの国であっても、内部的には統一を目指すという特殊な関係にある』と誓い、それを国際社会に明言しました。だから、例えば南北間の商品交易で関税を課さないとか、開城(ケソン)工業団地で生産された製品に対してFTAを適用することなどに、国際社会の了承が得られたのです。このように韓国と北朝鮮が統一を目指す特殊関係というのは、北側では金日成(キム・イルソン)主席の時から受け継がれているほぼ遺訓のようなものです。

 ところが、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が今になってその遺訓も破り、統一を至上課題として考えていた基調もすべて捨て、これからは韓国は相手にせず背を向けると宣言したのです。私たちにとっては本当に残念なことです。北朝鮮が再び同じ民族の精神を強調しながら平和と統一を目指す、そういう基調に戻ることを願っています。

 でも一方で考えてみると、統一を目指す特殊関係というのは南北双方が互いに平和統一を目指して努力していく時だけ成立するものです。尹錫悦政権のように互いに敵視して対決する、そのようなスタンスを取りながら統一を目指す特殊関係だと主張するのは、それこそ偽善であり、空言なのです。尹錫悦政権の非常に強硬な対北朝鮮敵対政策のためにそのようなことが起きた、それもやはり尹錫悦政権が自ら招いたことだ、そう言えると思います。

 韓国と北朝鮮は国際法においては厳然たる二つの国に違いありません。北朝鮮がそのように主張する以上、韓国が二つの国であるという事実を否定することはできません。国連にもそれぞれ加盟している主権国家ですから。しかし、同じ民族からなる国で、互いに隣り合っている国ではありませんか。敵対関係の中で背を向けてしまうと、韓国にとっても、北朝鮮にとってもそれは悲劇です。二つの国であっても、互いに平和で仲良く暮らす、そんな良い隣国になるべきです。そのためには、少なくとも今の板門店(パンムンジョム)の連絡チャンネルとか、軍事ホットラインのような最小限の南北間の窓口を早く復元しなければなりません。さらに、9・19軍事合意も早急に復元して、たとえ南北関係が少々悪化しても、少なくとも平和は維持できる最後の安全弁のようなものは確保しておく必要があると思います」

 
 
7日午後、慶尚南道梁山市平山村の平山本屋で働いている文在寅前大統領の姿=カン・チャングァン先任記者//ハンギョレ新聞社

―今後、韓国が北朝鮮に対して南北和解政策を展開すれば、今のような北朝鮮の敵対的な対南政策が変わる可能性があると予想されますか。

 「当然そうだと思います。なぜなら、北朝鮮も国内の経済成長を最優先課題にしなければならないため、特に金正恩委員長はそれを最優先課題にしてきたのに、国際社会に背を向けて自分たちだけで自力競争の形で経済を成長させるというのは限界があるわけです。北朝鮮も国際社会における普通の国として国際社会と開放的な関係を持ち、また米国との関係や日本との関係を正常化していくというのは、経済成長のためにも欠かせないことです。金正恩委員長流に表現すると、北朝鮮人民の生活の向上のためにも必要なことです。北朝鮮が前政権のときに非核化への対応に乗り出した理由もそのためです。

 非核化する代わりに、国際社会の制裁の解除とともに経済成長に対する支援を受けられるなら核も放棄できる、そうして非核化対話に乗り出したわけですから、北朝鮮としては環境が整えば、またそういう保証さえあれば、いつでも韓国と再び対話する関係に戻ってくると思います。

 先ほど韓米日軍事協力の話をしましたが、実に虚しい結果であるのが、韓米同盟を最高に重視して他のすべてを犠牲にする態度をとったのに、トランプ大統領が米国の国益のために様々な圧力をかける政策を展開している今、韓国には例外を認めていますか? 全くそうではありません。それはそれで、また韓国は韓国として、また厳しい現実に直面しなければなりません。日本と関係が良くなったということをを大々的に掲げていますが、実際に日本から得たものは何でしょうか。実際、関係に何か変化がありましたか。本当に虚しい外交と言わざるを得ません。北朝鮮との関係も北朝鮮を打倒すべき対象であるかのように主張し、強硬な主張を並べて、向こうが挑発してきたら、それより百倍千倍で報復する、そうすれば、気持ちの面では国民もすっきりするかもしれませんが、それが国の安全保障を損ねる道であるのは言うまでもありません。それは国際的に韓国外交の地位を落とすことでもあります。

 覚えている方もいらっしゃると思いますが、前政権の時、トランプ大統領がG7体制の拡大を目指し、最初の拡大の対象に掲げた国が韓国でした。私たちにそれを打診してきました。他の加盟国が同意しなかったため、実現しませんでしたが、なぜ韓国が最初の対象国になったのかというと、日本はアジアで最も米国と近い国でもあり、大国ではありますが、アジア太平洋地域諸国の利益を十分に代弁する位置にいないと考えられていたからです。アジア太平洋地域でまた別の国を探しており、それが韓国だったのです。ところが、今のように私たちが自ら米国と日本の下位パートナーになってしまえば、国際社会で韓国外交の独自性を認め、尊重してもてなす理由は何もなくなるのではないでしょうか。

―大統領は在任中に3回にわたって北朝鮮の金正恩委員長と首脳会談を行い、史上初の朝米首脳会談への道も開きました。ところが、ハノイでの2回目の朝米首脳会談の失敗後は、朝米間、南北間の関係も非常に悪化し、今ではその時の成果はほとんど痕跡すら見当たらなくなりました。在任中の対北朝鮮政策を振り返るとしたら、どんな点が不十分で不足だった、残念だったと思いますか。

 「結果的に残念です。もっと進めることができていればと思います。ですが、先ほどもちらっと話しましたが、2017年の就任当時に高かった戦争危機を考えると、このように南北対話、そして朝米対話を通じて戦争危機を解消し、北朝鮮を平昌(ピョンチャン)冬季五輪に参加させ、また南北間で3回首脳会談をし、朝米間でも2回も史上初めての首脳会談を行い、そして5年間を通して朝鮮半島の平和を維持していったことは非常に大きな成果だと思います。

 特に今私たちが直面している朝鮮半島の安全保障の不安に比べると。当時の平和がどれほど大切だったかがよく分かると思います。今の状況では、当時のことがすべて水の泡のように感じられるかもしれませんが、しかしそうではないのが、先ほどのトランプ大統領と金正恩委員長の間の首脳会談をもし行うことになれば、それは先に2回の首脳会談があったからこそ可能なことです。その時立ち止まった線から一歩進むことができるのです。それはすでに大きな一つのマイルストーンとして残っていると思います。

 ただ、残念なのは、あまりにも期間が短かったことです。70年間戦争まで繰り広げた敵対関係を平和体制に切り替えるのは1〜2年、2〜3年でできることではありません。首脳同士で1、2回会ったからといって、それが実現するわけではありません。実際、南北間、朝米間の首脳会談があったのは2018年、2019年の2年でした。その後はすぐに米国が大統領選挙の局面に入り、対話を持続することが難しくなり、またコロナ禍が重なり、北朝鮮が非常に徹底した封鎖体制ですべての国境を封鎖する体制になったため、北朝鮮とのいかなる接触も難しい状況になりました。

 そのようにしばらく息を整える過程があっても、対話を再び続けなければならなかったのに、米国も政権が変わり、韓国も政権が変わり、その変わった政権がこれまでの北朝鮮政策を完全に覆すような政策を掲げてしまいました。これが一番残念なことです。南北関係、対話の持続のためにも、民主党が政権を維持しなければならなかったのに、それができなかったのが最も残念です。未練が残るのは、その中でも何とか開城工業団地や金剛山(クムガンサン)観光だけはよみがえらせることができていればと思っています。

 当時としてはハノイ会談の見通しは明るいと考えていたため、それが成功すれば制裁問題が部分的にでも解決され、これで開城工業団地や減価償却問題は自動的に解決できるため、その流れに任せてしまい、開城工業団地や金剛山観光については特に力を入れていませんでした。しかし結果からすると、国連安保理制裁に対する例外の承認を強く主張し、何とかしてそれを引き出して実現していれば、南北関係が完全に破綻するのを防ぐ最後の砦の役割を果たせたのではないかという未練は残ります」

 
 
7日、慶尚南道梁山市平山村の文在寅前大統領が運営する平山書店で、市民たちが本を買って記念写真を撮るために並んでいる=カン・チャングァン先任記者//ハンギョレ新聞社

―それと関連し、大統領在任期間の2020年に北朝鮮が開城の南北共同連絡事務所を爆破しました。韓国国民にとってはショックでしたが、その時はどうでしたか。

 「あの時は言葉では言い表せないほど、衝撃を受けました。裏切られたと思いました。北朝鮮も板門店会談後に世界に、いわば金正恩委員長が世界の舞台にデビューしたと言われるほど、正常国家の姿を見せるために努力してきたわけですが、その一度の爆破で再び三流国家、ならず者国家のような姿に戻ったと思います。北朝鮮にとっても深刻な自傷行為だったわけです。今後、南北が再び対話を続けるなら、それはきちんと指摘して、北朝鮮から謝罪を受けるべき問題だと思います」

―最後の質問です。フェイスブックにて、大統領府で演説秘書官として大統領を補佐していた詩人のシン・ドンホ氏の著書『大統領の読書』を勧める投稿をしましたね。「政治をする人たちは本をたくさん読まなければならない」とおっしゃいましたが、在任中にかなり多忙だったと思いますが、本はどれくらい読みましたか。

 「もともと本好きで、大統領在任中もコツコツと読んで、本を勧めたりもしました。ただし、読書の方向性が変わりはしました。それまでは自分の好きな歴史分野とか、文学、そういったものをたくさん読んできましたが、大統領になってからは国政運営に何か役に立つような、いわば国家が進むべき未来を洞察できる体系とか、また当時新型コロナウイルスが広がっており、気候危機が深刻だったため、それに関連する本を主にたくさん読みました。大統領だけでなく、政治をする人々は本をたくさん読まなければなりません。本をたくさん読んだからといって、必ずしも良い政治をして良い大統領になるわけではないでしょう。ですが、本を読まないと洞察力や分別力を養うことができません。世の中があまりにも早く変わるので、学生時代に読んだ読書がすべてなら、その後変化する世の中を理解し、追っていくのは難しいでしょう」

パク・チャンス大記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 国民が思い描いた「責任ある... | トップ | 習主席がウ議長との接見で「... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

韓国ハンギョレ新聞」カテゴリの最新記事