窒息死した小型イルカ「スナメリ」が伝えるメッセージ…
お腹には3センチの胎児(1)
今月初めに統営で座礁した妊娠中の個体…死因は「窒息」
解剖によってスナメリの生態、海洋汚染などの研究資料に
朝鮮半島の西南海に生息する在来のイルカ「スナメリ」の顔を私たちが詳しく見るようになったのは、せいぜいここ5年ほどのことだ。クジラにしては体格が小さく体長が2メートルしかないうえ、人間を非常に警戒するため、自然界での目撃は容易ではない。2016年に海洋保護生物に指定され、スナメリに対する関心が高まって以降は、特有のかわいらしい外見や出産、授乳の様子などが続々と公開されたが、依然として生きている野生のスナメリに会うのは難しい。
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恥ずかしがり屋のイルカの顔があらわれた
そんな恥ずかしがり屋のイルカ、スナメリの顔が近くに現れた。「スナメリは口が突き出ておらず、背中に幅の狭い隆起があります。顔はまるで笑っているかのようでかわいらしい」。 放映中の人気ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」の台詞のように、スナメリの顔はやはりかわいさがにじみ出ていた。目元に残っているかすかな血痕と整った歯があらわになった口だけが、このイルカの死を告げていた。
今月11日、忠清南道泰安郡(テアングン)にあるアンフン食品の海洋生物解剖研究施設では、今月初めに慶尚南道統営(トンヨン)で座礁したスナメリの解剖が行われた。昨年から海洋水産部が実施中の「スナメリ解剖試験研究」の一環として行われた今回の解剖は、海洋獣医師である烏山大学のイ・ヨンラン教授の主導で忠北大学、仁荷大学、漢陽大学、国立海洋博物館、全谷先史博物館の20人あまりの海洋生物の生態を研究する研究者が参加した。昨年まで泰安郡のスナメリの死骸の処理を委託されていた地元水産物加工業者のアンフン食品が、同社の施設を解剖室として提供した。この日の解剖は7月11日から15日まで行われる行事「私たちの海のスナメリ理解」の最初のプログラムだった。
午後1時40分、解剖台の上に完全なスナメリの遺体が載せられた。7月5日に慶尚南道統営の海岸に乗り上げ(座礁し)ているところを発見された個体だという。体長1.6メートルのこのスナメリは、イルカよりは小さいが「他のスナメリよりは大きい個体」だった。尾びれや胸びれに所々へこんだ傷があったが、外観上大きな傷は見当たらなかった。「背びれの部分がとてもふっくらしていますね。栄養状態が良かったようです」。イ・ヨンラン教授が、他のクジラの仲間と異なり非常に低いスナメリの背びれを指した。
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肺いっぱいの泡沫が意味するもの
約20分間の検案と身体測定の後、解剖が始まった。各種のメジャーやメス、道具が登場すると、執刀するイ教授、忠北大学のキム・ソンミン博士の手も忙しくなった。厚い背中の脂肪と筋肉がまず死骸から分離された。記録を担当する研究陣が脂肪の厚さや筋肉の比率などを記録すると、漢陽大、仁荷大の研究陣が脂肪、筋肉などを採集した。研究陣は海洋生物のサンプルを採取し、残留性有機汚染物質やマイクロプラスチックの数値などを検査する予定だ。
「スナメリは食物連鎖において人間と同じ段階にあります。クジラの仲間から汚染物質が発見され、病気になりはじめると、その危険は人間にも発生しうるということです。海の健康を知ることのできる指標になるんです。だから米国ではクジラのことを『海の歩哨兵(Marine Sentinel)』と言うんです」
解剖が進むほど「死の匂い」も濃くなった。解剖が始まって1時間あまりが経つと、主な臓器が姿を現した。この日の解剖のハイライトである死因や妊娠の有無などの解明を行う。解剖前にイ教授は、この個体は妊娠している可能性があると耳打ちした。案の定、スナメリの乳頭を押すと、薄い茶色の乳が流れ出た。
スナメリの子宮からは指の第二関節ほどの長さの胎児が発見された。体長3センチ、重さは370グラムと非常に小さかったが、すでに肋骨が形成されていた。スナメリの子宮を調べた研究陣は、この個体は過去に3回妊娠しており、今回が4度目だろうと推定した。個体の年齢も自然に計算できた。スナメリの性成熟期は4~5歳なので、妊娠可能な時期になって毎年妊娠したと仮定すると、最低でも9歳になる。
続いてすぐさま肺の解剖が行われた。「肺の中は泡沫がいっぱいですね。窒息死です」。イ・ヨンラン教授が学生たちと取材陣に泡でいっぱいになった肺を広げて見せた。混獲の被害が予想される解剖結果が出たのだ。混獲とは、漁業中に狙ったものと一緒に狙っていない海洋生物が漁の網にかかることをいう。
(2に続く)
窒息死した小型イルカ「スナメリ」が伝えるメッセージ…お腹には3センチの胎児(2)
(1の続き)
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「漁師との共生が切実に求められている」
これまで政府、環境団体、イ・ヨンラン教授は、世界的な絶滅危惧種であるスナメリの保護の重要性を訴えてきた。海洋水産部は2016年にスナメリを海洋保護生物に指定し、2019年にはスナメリが生息する慶尚南道固城(コソン)の周辺海域を海洋生物保護区域に指定している。イ教授が海洋保全チーム長として在職していた世界自然保護基金(WWF)は、混獲被害を減らせる脱出網を漁師と一般市民に知ってもらうキャンペーンを展開してきた。しかし、依然としてスナメリ研究のインフラや大衆の認識などは期待にはるかに満たない。
イ・ヨンラン教授は「国内でクジラの解剖や研究ができる公的機関はクジラ研究センターだけ。斃死(へいし)するスナメリは1年で1100頭あまりに達するが、クジラ研究センターはこのすべての個体を解剖・研究する予算や人材が不足しており、だからほとんどのスナメリはなぜ死んだのかも分からないまま廃棄される」と述べた。
国立水産科学院の調査によると、朝鮮半島近海に生息するスナメリの数は2005年時点で3万6000頭あまりだった。しかし沿岸の開発、環境汚染、混獲などの被害によって個体数は急激に減り、2016年には1万7000頭に。斃死するスナメリの数は年間で1000頭あまりと推定されているが、漁業者の推定はその数を何倍も上回る。
アンフン食品のチョ・ハンオ代表は「届け出があるのは1000頭だが、漁業者の推定では5000~7000頭にはなると思う。2017年から鯨肉の流通が禁止されているため、漁師は混獲を届け出ずに海に捨ててくる。政府の集計は正確ではない」と説明した。
研究者たちが正確なデータや生態研究、クジラ保護のために漁業者との共生を強調する理由もここにある。イ教授は「政府が混獲を低減する道具を普及させるとしても、漁師にそれを強制することはできない。韓国の漁師は比較的混獲を積極的に届け出ているが、届け出の手続きが難しく、複雑なのも問題」だと語った。このため、今回の解剖は学術だけが目的ではなく、住民懇談会の開催などのネットワーキングも強調された。
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スナメリの死が発する警告
スナメリの死を惜しむのは研究者や一般市民ばかりではない。意図せずクジラやイルカを捕ってしまった漁師たちも同じだ。水産加工業を営んできたチョ・ハンオ代表は、スナメリの解剖は何度も見たが、この日はいっそう気持ちが重いと語った。「この世に生まれてくることもできず、母親の腹の中で赤ちゃんが死んでいたのが不憫」。同氏は解剖の間中、依然として多くの人は知らないと述べつつ、スナメリがどれほどかわいいか、どれほど神秘的な動物なのかを説明した。
なぜ私たちはスナメリを守り、研究しなければならないのか。イ・ヨンラン教授は、スナメリだけのためではないと語った。「私たちの周辺の生物が一つ、また一つといなくなるということは、生態系のバランスが崩れているということです。スナメリに危険が迫っている、それは私たちに発せられる警告である可能性が高いのです。私はスナメリを愛していますが、結局のところ私が守りたいのは海であり、自然なんです」(了)