山梨県北杜市、瑞墻山荘駐車場から富士見平小
屋への山道を尾根筋まで来ると、瑞墻山の頂上
の岩峰が見えてくる。
人はその存在感の大きさに圧倒されて、あの頂
を極めるという想像力を奪い去られる。果たし
て、あの奇岩の山頂へ、この足で到着できるの
か、ふとそんな不安が頭をかすめる。
瑞墻山荘の駐車場に車を停め、準備を終えて登り
始めたのがほぼ11時。富士見平小屋へ着いたのは
12時。小屋前のテーブルで昼食。この山旅への参
加者はリーダーを含め5名。内2名が女性である。
まず驚いたのは、小屋前の広場に憩う人の多さだ。
小屋の前がテン場になっていて、若者たちの多さ
も目をひく。若者の山離れなどいうのは、ここで
当てはまらない。
谷筋にある登山道を階段状に切られたふたつの坂を
登りきると、 ゴツゴツとした石のある道になる。多
くの人が登っているだけに、登りやすい道になって
いる。ただ隘路では、登りと降りの人たちが交差し
て、渋滞が起きる。皆が道を譲りあって、礼儀正し
い挨拶がうれしい。
谷筋の登山道には視界はない。石の間から、すっく
と立ち上がるシラビソの樹々。高度をかせぐに従っ
て、露出した巨大な花崗岩が目につくようになる。
花崗岩は堅牢なものとして認識されている。そ
して火山岩と並んで、日本の景観のシンボルとし
てその存在意義は大きい。『日本風景論』を記述
した志賀重昂は、その書の中に記している。
「もしそれ流水の勢威に侵食せられ、竟に摧け
ざるべからざるに到れば、自ら自己の分条、裂
理に依りて大塊に摧け了る。その痕跡や、堂々
として大丈夫漢の本色あり」
我々が目撃しているのは、志賀の説く、日本風景
の原型である。
瑞牆山岩立ち上がり秋の暮 水野 博子
ほぼ1時に小屋を出て、登り始めて2時間で
頂上に着く。最高峰へは鎖や梯子をつかうこ
とで、頂上に立てる。チーム一同が不安を払
拭してはじける笑顔になる瞬間だ。
尾根道から鋭く屹立する岩峰から、目を他の
岩にそそぐと、岩にへばりつくセミのような
クライマーの姿が見えた。小屋からは1.6㌔
往復3.2㌔の道のりである。
特筆すべきことがある。この急坂をストック
を使わず、自分の手と足のみで歩ききった。
しばらくぶりに履いた革靴は、足へのダメー
ジをやわらげ、筋肉痛もない。
5時、小屋着。すぐに夕食になる。鹿と猪の
ソーセージが5本。冷えたビールで喉を潤す。