高山の紅葉は足が速い。週一度の程度の山行
では、最高に美しい紅葉に出会うのは難しい。
絶品の紅葉が記憶のなかに焼き付いているの
は、ある意味で不幸なことであるかも知れな
い。山のなかで、せっかく美しい紅葉に出会
いながら、つい去年はもっとよかったと比較
したりしている。これは、ないものねだりの
悲しい人間の性であるとも言える。
今日、笹谷峠の紅葉を見に行って発見したこ
とがある。もう山の紅葉は終わりに近づき、
淋しい気持ちで山を歩いていた。たまたま午
後の時間帯に出かけたので、日が落ちない内
にと、下山を急いだ。登山道の下の方に色づ
いていた樹々の紅葉が、夕日に照らされて、
一瞬かがやきを増した。長い人生で初めて味
わう感動であった。
奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の
声聞くときぞ秋はかなしき 古今集