ひと雨ごとに秋が深まる。紅葉も次第に高山か
ら里山へと下りてきている。明日は、移動性の
高気圧に覆われて、行楽日よりとなる。しばら
くぶりに山行、飯豊の天狗山。
散歩道には、もう紅葉した桜の葉が散り敷いて
いる。こんな光景を見るたび、秋は淋しい気持
ちを抱かせる。故郷を飛び出すように離れ、一
縷の希望を抱いて上京した石川啄木には、秋は
ことさら悲しい季節であった。
かなしきは
秋風ぞかし
稀にのみ湧きし涙の繁に流るる 啄木
上京して、金田一京助に下宿を世話してもらった
ものの、啄木のポケットには、5銭銅貨が4枚とい
う悲惨な状況であった。それだけに寒さに向かう
秋は啄木を悲しませた。自分が書いた原稿を出版
社へ持ち込み、それで大金を得て家族を呼び寄せ
る、それが啄木が抱いた一縷の希望であった。し
かし、そのような希望がかなわぬまま秋が更けて
いった。親交のあった北原白秋が雑誌「心の花」
に詩を寄せた。「見るとなく涙ながれぬ。かの小
鳥 在ればまた来て、茨のなかの紅き実を啄み去
るを」。白秋の詩でも秋はものがなしく、憔悴す
る啄木の心を一層沈ませた。