冷たい雨。計画していた山行は中止。家の
なかでじっと読書で暮らす。来年の山行計
画を考えながら、山のリストアップ。それ
にしても寒い。冬のセーターを取り出して
着る。外を眺めると、近くの里山、上山の
三吉山、西山が紅葉に染まっている。
芥川の短編を三つ、水川隆夫『漱石と落語』
を読む。芥川は「温泉だより」「海のほと
り」「死後」の3篇だが、最後の「死後」は
夢の中で見る死後の話だ。隣で寝ている妻
の傍で本を読みながら、眠りに落ちるが、
死んだ自分の夢を見る。死んで住んでいた
家の前を通るが、表札が変っている。そこで
自分が死んだことを確認する。不思議なこと
に死んでいながら、妻と会話を交わす。再婚
の相手について、一緒になって大丈夫なのか、
と問いただしているうちに目が覚める。芥川
にしては他愛のない小説だと思いながら読ん
でいると、自分も寝転がって眠りに落ちた。
『漱石と落語』は面白い。この時代の文士た
ちは、しきりに落語の語りを文体を作り上げ
る参考にしている。同輩が集まって「山の会」
なるものを作って、文章づくりの練習をする。
ひとつの文のなかに山をつくること、その山
は落語の滑稽が一つの見本になっている。
自分の作った文を集まった面々の前で読み上
げ、それを批評しあうのが会の方法であった。
永き日や欠伸うつして別れ行く 漱石
松山を去る虚子を送くる送別の句だが、作者
はこの句に、落語の「あくび指南」を意識し
たものと指摘する。近所に「あくび指南所」
なるものができたので、いやがる友人を無理
に誘って教わりに行く。あくびの師匠は、あ
くびの種類を数え上げ、船中でのあくびはこ
うだと見本を示し、男にまねをさせて教える。
男が不器用でなかなかできないのに退屈した
友人が思わずあくびをする。それを見た師匠
が、「お連れの方は実に器用だ。見ていて覚
えた」という落ちの落語だ。