秋の花ミョウガがおいしい季節である。一
度植えたミョウガは、年を越しても芽を出
して葉を茂らせ、夏から秋にかけて花ミョ
ウガをつける。刻んで卵とじしてよし、酢
漬けにしても美味である。俗説にミョウガ
を食べるともの忘れをすると言われ、いま
だにそれを信じている人もいる。
花茗荷咲くや扇子の忘れ時 隆 五
秋になって不要になる扇子は忘れやすいの
が道理だが、花茗荷を季語で出しているの
はこの俗信を詠み込んでいる。
落語に「茗荷宿」というのがある。金持ち
の宿泊客が来たので、宿の主人はこの客に
たっぷりとミョウガを食べさせた。もちろ
ん客がミョウガを食べて、大金の忘れてい
くことを期待してのことだ。客が去って、
大金を忘れていかなかったので、宿の女将
はがっかりして「さてさてミョウガもきか
なんだ」。ところが亭主は「いや、きいた
きいた」と答える。女将が「どうして?」
と問うと、「うん宿賃を払うのを忘れて行
った」。どうにも宿には大損失のミョウガ
の落ちであった。