嵐が去って、何事もなかったように朝が来
た。我が小さな生は、片隅の蒲団のなかで
眠りにつき、昨日の続きのページを開いた。
空には青空と降り残った雨に日が当たって
虹がかかった。吹き返しの風が、台風の余
波を物語っている。
虹見るやこころの虹はいつか消えし 林翔
睡魔とたたかいながら読み継いできた井本
農一の『良寛』がやっと終章を迎えた。こ
の本は、良寛を悟りを開いた聖僧と見るの
ではなく、傷つき、悩み、諦めといった人
間本来の悩みを抱えながら、高みに届いた
ことに焦点を当てている。文政11年の11月
には、良寛は三条で起きた大地震に遭遇し
ている。
うちつけにしなばしなずてながらへて
かかる憂きめをみるがわびしき 良寛
手紙には、この歌に添えて、災難を逃れる妙
法として、
災難に逢う時節には、災難に逢うがよく候。
死ぬ時節には死ぬがよく候。
と記している。晩年、良寛を慕い、和歌の
教え乞うて訪れた貞心尼に贈った良寛の歌が
忘れられない。
きみやわするみちやかくるるこのごろは
まてどくらせどおとづれのなき 良寛