常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

モームの掌篇

2020年11月09日 | 読書
アメリカ大統領選挙で現職のトランプ氏が敗れた。バイデン氏が新しい大統領に就く見通しとなったが、この人のエネルギー政策に期待したい。石油から再生エネルギーへの転換は、地球環境の危機にとって希望の光といえる。昨日、立冬を迎えたが、九州や沖縄で真夏日の気温が出ている。。今年、日本に近づいた台風の勢力は、初めて経験するような大きさで、その恐ろしさを実感させられた。海水温の異常な上昇が、台風に大きなエネルギーを供給する。地球の温暖化の根源は、石油の排気ガスによる環境汚染である。世界中がこの問題では、一致して環境の改善に取り組まなければ、地球の未来はない。

イギリスの作家サマセット・モームの掌篇小説を読んでいる。モームと言えば、1919年に『月と六ペンス』で人気作家となったが、劇作家としても知られる。今でも語り継がれる名言に「イギリスでよい食事をしようと思うなら朝食を三度とればよい」という皮肉をこめたのがある。今読んでいる掌篇は「コスモポリタンズ」と名付けられているが、1924年頃から雑誌「コスモポリタン」にする。連載された見開き2ページの読み切り短編である。文庫本で6ページほどの短編なので、寝入る前の読み物として丁度いい分量だ。どの篇にも、作者の面白いと感じた人物の行動や話が語られている。

「ランチ」は、まだ売り出し前の貧乏なパリに住む作家の前に現れる婦人の話だ。ある日、作家のもとに発表した作品の読んだ婦人から一通の手紙が来た。その手紙には作品のすばらしさを褒め感動した旨が認めてあった。作家はその手紙にお礼の返事を書いた。ほどなくしてその婦人から2度目の手紙が来る。近々、近くの美術館に行くので、昼の軽いランチでもご一緒できないか、という誘いの手紙であった。断るにも、こんな機会はめったにないので、誘われるまま会いに行った。作家はその時80フランを持っていた。この金額は、作家のひと月の生活費になるほどの額であった。入ったレストランは高級店であった。メニューをみても、驚くほど高い料理が並んでいる。婦人は、「私ランチは何もいただきませんの」お話をするだけでよろしいですわと控えめである。

そう言わずに何か、と作家がすすめると、「私は一品だけ少しだけ」と言いながら要望したのは鮭の料理であった。ボーイは今朝上がったばかりの立派な鮭だと言う。料理が出来上がりまで時間がかかるので、何か食べませんか。婦人はまた私は一品のほかは食べませんと言いながら、「キャビアを少しなら反対しませんわ」と言う。注文しないわけにはいかないが、それが高価なものであることを知っているので、支払いがいくらになるか、生活費はいくら残るかと、作家を苦しめる。さらに、この店の一番の売りであるアスパラの名物料理も注文する羽目になった。そしてデザートのアイスクリーム。とうとうボーイに少なめのチップを払って、作家の財布には3フランが残ったのみであった。

作家がその婦人に再開したのは、そのランチから20年も経った時である。劇場で芝居を見ていると、前の方の席で手を振る婦人がいる。その席へ近づくと「あなた覚えていらっしゃる?あなたランチにお誘いくださいましたわ」
作家は婦人のあまりに変わった様子に、驚きもし、あの時のランチの怨みを晴らすことになった。婦人は300ポンド(130㌔)もの体重になっていたのである。
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