夏になると冷たい水が恋しい。冷蔵庫には冷やした水やお茶が常備してある。その上汗をかいて帰宅した時のためにアイスクリームもある。ある人は、冷たい水は胃によくないと、一度沸かした水を冷まして飲んでいる。だが、水は冷たくないと何故か飲む気がしない。朝起きて、コップ一杯の冷たい水が、一日の元気を保証してくれような気がする。
心強いのは外国の医師のこんな言葉だ。「冷たい生水を多く飲むことを怠らななければ、肌を美しくし、血液の循環もよくなり、腎臓病や結石、胃腸病にかかる率も少なくなる」。また、日本の養生訓に、「冷水には酸素といえる自然の精気ありて人の血気を清涼にするの効あり。もし一度湯に混ずれば、この精気蒸発して清涼の効力を減損す。」という記述も見える。汗をかいて喉を潤すとき、氷を入れた冷水は、一気に身体を元気にしてくれる。ペットボトルの水を氷らせて山に持参し、溶けていく水を飲みながら飲むと、足の疲れもすぐに忘れる。
ところで、「年寄りの冷水」という諺がある。年寄りが自分の身体を考えずに無理をするのを、非難めいて言う言葉だ。その前提には、年寄りは冷たい水を飲むのはよくない、という考えがあるのであろう。若いときと同じように、冷水をがぶ飲みするを注意する言葉なのかもしれない。自分のように80歳を過ぎてもなお高い山を目指すなどというのは、まさしくこの言葉が戒めているのであろう。
しかしこの俚諺がみえる「ことわざ事典」には、全く反対の記述がある。「老人大いに冷水を飲むべし。前の晩に水道水を汲み置いて、冷蔵庫に収め、冷たくしてから起きぬけに飲むと効果てきめん」そしてその冷水の温度は8℃ほど、冷えたビールの飲みごろと同じ温度と書いてあった。