睡蓮の咲く頃 ~モネが愛した風景
池には睡蓮が浮かび、いくつかの日本風の太鼓橋がかかっていた。
その画家のアトリエは外界とは隔絶された水の世界だった。
「やあ、よく来たね。わがガーデンにようこそ。」
その画家は柔和な笑顔で迎えてくれた。
老いたりといえども、鋭く光る眼光に飽くなき探求心が宿っている。
「こんにちは。素敵な庭園ですね。」
「ありがとう。日本の方じゃな。
ワシは今、睡蓮に凝っていてな。
それも日本庭園の池に咲く睡蓮を描きたくてな。
とうとう、自分で日本庭園を造ってしまったんじゃ。」
「印象派の大家と云われた貴方が、何故、睡蓮ばかりを描くようになったんですか?」
「それはな・・・」
モネは生前に認められた画家である。
信じられないような価格で絵が売れ、数々の展覧会にも出品された。
しかし年老いたモネは決して幸福ではなかった。
長年ともに過ごしてきた画家仲間、妻、子供達に先立たれた。
その上、白内障を患い、失明の不安を常にかかえていた。
「わしは睡蓮に人生の意味を見出したんじゃ。」
「人生の意味?」
「わしは朝から夕方まで、移動式イーゼルに載せたキャンバスに向かっておる。
時とともに移り変わる池の様子、水面の反映と鮮やかな花の美しさをここに捉えようとしているんじゃよ。」
「そこに人生の意味があるのですか?」
「その通りじゃ。じゃがな。ワシの一番の作品はこの庭園、そのものなんじゃよ。」
画家はそう言い残したまま、突然、止まってしまった。
どうやら、時間が来たようだ。
彼はロボットだった。
しかし、その画家の魂は確かに、ここにある。
睡蓮を見ていると、そう思えてきた。
(撮影場所:ガーデンミュージアム比叡、大山崎山荘美術館。)
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