のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
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第 二 部 六、新月の夜 (カルパコ)

2014-12-07 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

 

カルパコ

 

 苛立った心を押さえ切れずにカルパコは通りを歩いていた。カルパコは衝動のまま目茶苦茶にセブズーの町を歩き回っていた。どこをどう歩いて来たのか、自分でも覚えがなかった。気が付くとカルパコは王城の門の前に立っていた。堀に釣り橋が渡され、門の番兵が両側に槍を立てて立っていた。カルパコが動くと番兵は顔をそのままにして目だけでカルパコを追って来た。カルパコはその視線を感じて門の前を横にそれていった。

 この高い城壁の向こうにエミーは王子と共にいるのだ。カルパコの心はエミーの事で一杯になっていた。何度も何度もエミーはカルパコの心の中に現れ、その度にカルパコを苦しめるのだった。

 或るときは、エミーは悲痛な顔をしてカルパコの助けを求めていた。そう思うと、牢に閉じ込められて死線をさまようエミーの姿がカルパコの心に浮かび上がってきた。

 また或るときは、ウイズビー王子が執拗にエミーを求め、エミーをもみくちゃにする姿が浮かんで来た。エミーは泣き叫び逃げられない自分の身を呪っていた。カルパコ!エミーは苦しみの中でカルパコの名を呼び続けた。カルパコは張り裂けるような思いでエミーの名を呼び返した。何としても助け出さねばならない。カルパコの心はじりじり焦げ付くように痛んだ。

 そしてまた或る時には、エミーは幸せそうに花園の中で踊っていた。お后と笑いながら花に水をやり、花を摘んでいるのだ。そこに王子が現れた。エミーは摘んだばかりの花束を王子に差し出し、王子はそれを受け取った。二人は互いに見つめ会い、そして抱き合った。心の中でカルパコはエミーの名を呼んだ。しかしいくら呼んでもカルパコの声はエミーには届かなかった。それでもカルパコはエミーを呼び続けた。王子の胸の中でエミーはカルパコを見た。そのエミーの目は冷たく光り、その口元はカルパコを笑っているようだった。

 エミー!

 カルパコの心はずたずたに引き裂かれた。

 するとまた一方で、カルパコの助けを呼ぶエミーの悲しげな姿が現れた。カルパコの心の激しい動揺はもはや何ものも押し止めることは出来なかった。体は勝手に動いていた。

 すべては城壁の中に閉ざされたままだった。真実が見えないだけに、カルパコは心の中で様々に変化するエミーの姿に苦しめられるばかりだった。

 城門を横にそれて大きく城を回ると、カルパコはようやく番兵の目から解放された。堀が城を取り囲んでいて、そこから向こうには渡れそうになかった。やがてその堀が垂直に伸びる高い城壁で遮られていた。その城壁の向こうは切り立った崖になっていた。その下にはセブズーの町が扇形に広がっていた。ゆるやかな起伏が緑で覆われ、コンクを栽培する畑が延々と広がり、町を取り囲むように優しいカーブを描いているのだった。

 しかしそのはるか向こうの山は、赤茶けていて山肌がむき出しになっている痛々しい姿が目立っていた。荒廃が進んでいるのだ。赤い怪物がじわじわとセブズーに迫り、今にも飲み込もうと身構えているように見えた。それはカルパコの心そのもののようにも思われた。

 「エミー!」カルパコは思いの限りを言葉に乗せて叫んだ。カルパコの声はセブズーの空に消えた。そのとき、岩肌に生えるハイマツがカルパコの目に入ってきた。切り立った崖に、点々とハイマツが自生していた。カルパコはそのハイマツの株を目で追った。それは崖を横切って、城壁の後ろまで続いている。途中ハイマツの途切れる所もあるが、そこを伝って行けば城の中まで入れそうだった。そう思うとカルパコはもうそこから崖を横に這い、ハイマツを辿り始めていた。

 カルパコはエミーの事だけを考え続けていた。立ちはだかる危険の事は頭になかった。動物的な本能だけが、カルパコの体を動かしているようだった。ハイマツを手と足で追いながら、カルパコは岸壁を這い登っていった。ハイマツの手掛かりのないところは岩肌を指先でとらえて体を支えた。足を滑らせればそれで終わりだった。下を見れば目がくらむばかりの絶壁なのだ。カルパコはそんな岩場に長い間張りつていた。しかしカルパコはついに城壁の壁に取り付き、その壁を登り切った。城壁の上に設けられた通路は城の周囲を巡っていた。カルパコは身をかがめて進んだ。城壁の下にはパルマが描いた王城の地図どおりに建物が配置されていた。城の中庭に王宮が見えていた。カルパコは身を隠しながら城壁の階段を降り、中庭に向かって進んで行った。

 中庭に出ると、白い王宮の前にバラの花が咲き乱れている花園があった。パルマが言っていた花園に違いなかった。カルパコは花園に近づいた。よく刈り込まれたバラの株の向こうに人影が見えた。ベンチに身をもたせ掛けて泣いている女だった。エミーかもしれなかった。

 「エミー、」カルパコは心の中で叫んで、花園の茂みに身を隠した。顔を伏せているのでその女がエミーかどうかは分からなかった。カルパコはしばらくその様子を伺っていた。すると王宮の方から新たな足音が聞こえて来た。そのリズミカルな足音はやがて花園に姿を現し、ベンチに伏せている女の所にやって来た。その姿は王子に違いなかった。

 王子が声をかけると、ベンチの女は涙を拭きながら起き上がり王子の方に顔を向けた。  「エミー!」カルパコは思わず声を上げそうになった。

 エミーはなぜ泣いているのか。王子が無理強いをしているに違いなかった。王子が強引な事をしようとしたら、カルパコは飛び出していってエミーを助けようと思った。たとえここでエミーを助け出したとしても、二人で城を出ることなど不可能に違いなかったが、今のカルパコにそんな考えは及びようもなかった。

 エミーは泣いていた。王子が声をかけると、エミーは懸命に何かを謝っているようだった。しかしそのうちに、エミーの顔は喜びの表情に変わっていった。王子がエミーの手を取った。エミーは拒む様子もなく、王子の顔を見上げた。二人は顔を見つめ合った。それはまるで恋人同士のように見えた。カルパコの心は激しく引き裂かれ、メラメラと燃え立つ炎に焼かれるような痛みを覚えた。

 「うおおおっ!」

 カルパコは大声で叫び、茂みから身を踊らせた。その瞬間、エミーと目が合った。エミーはカルパコを見て、一瞬目の前が真っ暗になったように感じた。引きつった顔と、崩れ落ちるエミーの姿がカルパコの心に張り付いた。

 カルパコは王子に駆け寄り、短刀を抜いて躍りかかった。

 「カルパコ、やめて!」エミーの悲痛な声が聞こえた。しかしカルパコの心にその声は届かなかった。

 「よくもエミーを、」カルパコは王子に短刀を振りかざした。王子はとっさに身をよじってカルパコの攻撃を避け、腰の刀を引き抜いた。

 「何奴。皆のもの、賊だ、出会え!出会え!」

  王子は王宮に向かって叫んだ。そしてカルパコと向き合った。カルパコは肩で息をしていた。

 「カルパコ、お願い、やめて。王子様は悪くないのよ。」エミーはカルパコに駆け寄った。 

 「どけ、」カルパコは王子をにらみつけたままエミーを振り払った。

 その瞬間に王子の剣が真っすぐカルパコに向かって来た。カルパコは短刀でその切っ先を払った。その刃先を返してカルパコは攻撃に転じた。王子は後ろに引いた。カルパコはそのまま押していった。カルパコは二の太刀、三の太刀を王子に浴びせかけた。王子は退きながら刀身で短刀を受け止め、跳ね上げた。

 「やめて!」エミーが叫んだ。

 二人は双方に飛びのいてにらみ合った。

 「賊だ、出会え、出会え。」

 横合いから男の声がした。刀を抜いたゲッペルが駆けつけて来たのだ。その後を何人もの衛兵が続いた。

 「畜生!」カルパコは身を翻して逃げようとした。その足元に、衛兵の投げた長棒がからんでカルパコは転倒した。

 その上に何人もの衛兵が折り重なってカルパコを取り押さえた。

 「王子様、お怪我はありませぬか。」

 「大丈夫だ。」

 「そいつを引っ立てて連れてこい。」ゲッペルが衛兵に命令した。

 カルパコは三人の衛兵に羽交い締めにされて、王子の前に引きずり出された。王子は剣先でカルパコの顎をすくい上げ、その顔をにらみつけた。

 「なにゆえの狼藉だ。どこから来た。」

 「畜生、エミーを返せ!」

 「王家に刀を向けた者は生かしてはおけぬ。」

 王子は剣を振り上げた。

 「お願いです、カルパコを助けて下さい。」エミーがカルパコの前に走り寄り、カルパコを背にしてひれ伏した。

 「ならぬ。」王子は激しい声で言い切った。

 「カルパコは決して賊ではありませぬ。どうかお許しを。」エミーは泣きながら懇願した。

  「どけ!」

 王子が声を震わせた。

 「いやです。カルパコを切るなら私もここで切って下さい。」

 エミーはカルパコにしがみついて懇願した。

 王子はしばらく二人を見下ろしていたが、やがて口を開いた。

 「そなたに免じて、命だけは助けてやろう。こ奴を牢にぶち込んでおけ。」

 「はっ、直ちに。」衛兵がカルパコを引っ立てて花園を出た。

 「カルパコ!」エミーはカルパコの名を呼んだ。

 「カウ、カウ、カウ」カラスが驚いて飛び立った。      

                          

 

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