
準 備
新月の夜が近づいていた。バックルパーとアモイ探偵団は何度かパルガの祭壇のある部屋で秘密の会合をもっていた。テーブルの上には、パルマがカラスを使って調べた王城の地図が乗っていた。
「よいか、ここが王の寝室だ。この真下に地下室がある。新月の夜、おそらくこの地下室で黄泉の国への入り口が開くのだ。」
「しかしパルマ、どうしてそんなことが分かるんだ。」バックルパーが訊いた。
「王城に異変が起こっている。夜になると、この地下室から奇妙な音が聞こえて来るのだ。これは間違いなく黄泉の国から聞こえる魔物の声なのだよ。」
「我ら魔道師には、新月の夜に二つの世界がつながるといういい伝えがあるのじゃ。」 パルガが話を引き継いだ。
「魔道師は心のエネルギーを扱う法師なのじゃが、我らは、生の国と死の国のエネルギーは表と裏のような関係にあると見るのじゃ。この二つに分かたれたエネルギーは普段はつながる事がない。もしこの二つのエネルギーが出会えば、瞬間に二つのエネルギーは消えてしまうのじゃ。しかし太陽と月が重なるとき、ある限られた空間では二つのエネルギーは互いに壊れる事なくつながることが出来るのじゃ。」
「難しいですね。」エグマがため息をついた。
「要するに、新月の夜に王城の地下から黄泉の国への入り口が開くってことさ」ジルが適当にまとめてしまった。
「しかしどうやってこの地下室に降りるのです。王城に入ったとしても、勝手に地下に入ることは出来ないでしょう。」ダルカンが訊いた。
「王子を説得するのだ。我らの計画は、王子が最も望む事、それに宰相ゲッペルを仲間に引き込むのだ。」
「ゲッペルだと、ゲッペルと言えば、黄泉の国に将軍と名乗るゲッペルがいたが、何かつながりがあるのではないかな。」
「宰相の祖先だよ。セブ十世の時代に将軍になった。グンター・ゲッペルといったかの、軍を率いて何度も外敵を撃退した名将と言われておったのだが、晩年になって自らの栄光を守ろうとして悪魔と手を結んだと言われている。」
「すると逆に、そんな宰相を味方に加えるのは危険じゃないのですか。」ダルカンが言った。
「わしの調べた所、王子とゲッペルは大丈夫だ。それに知将と言われたゲッペル将軍と対等に渡り合って、その策謀をうち破る者は、宰相ゲッペルをおいていないだろう。」
「しかし、そんなにうまく行くだろうか。」
「うまくやらねばならぬのだよ。」パルマが言った。
「黄泉の国に入ると、我らは二手に分かれる。一隊はセブ王の噴水に据え付けられている赤い玉を手に入れるために動く。そしてもう一隊は黄泉の王城のどこかに隠されている青い玉を捜し出すのだ。」ジルが説明した。
「なるほど、」
「城の方は、王子とジル、それにエミーとカルパコがよいだろう。噴水の方はゲッペルとバックルパー、それにエグマとダルカンに働いてもらいたいのじゃ。」
「パルマはどうするの。」エグマが訊いた。
「わしとパルガは、セブ王に取り付いているヴォウヅンクロウゾと対決する。その間にお前達は二つの玉を集めるのだ、我らはそれを打ち壊して封じられた力を解放する。お前達が二つの玉を手に入れれば、わしとパルガは必ずその玉の封印を解こう。」
「私達は元の国に戻れるんでしょうね。」エグマが心配そうに訊いた。
「大丈夫だ。世界が自然のままの状態に返るのだからの。そうすれば我らはすでにそのとき元の国に戻っているのを知るじゃろう。山も川も、すべてが生き生きした世界に生まれ変わっての。」パルマが力を込めて言った。
「ところでパルマ、城にいるエミーはどうしている、何か分かった事はないのか、あれからもう一週間以上たつが、何の音沙汰もない、心配なんだが。」
「エミーの事なら大丈夫じゃよ。王と面会したかどうかは分からぬが、王宮の花園に入って、お后と毎日のように花の手入れをしているようだ。」
「花の手入れだと。」バックルパーはちょっと解せないという顔をして聞き返した。
「詳しいことは分からんがの、楽しくやっているようだ、心配はいらぬだろう。」
「それならいいのだが、」バックルパーは曖昧な気持で言葉を濁した。
「どうしたんだカルパコ、さっきから黙りこくって、なんだか変だぞ。」ダルカンがカルパコを見て言った
「エミーの事を心配するのは分かるけど、あまり考え過ぎちゃだめよ。」エグマが言葉をついだ。
「人事だと思って、気楽なものだ。」カルパコは感情を害した口の利き方をした。
「ごめん、気に障ったら謝るわ。」エグマが言った。
「カルパコ、あまり考え詰めるなよ。もうすぐ城で会えるんだ、心配する事はないさ。」 ダルカンが続けた。
「悪いが俺はこれで帰るよ。」カルパコはそう言うと、誰の止めるのも聞かずにパルガの部屋を一人で飛び出して行った。
「カルパコ、大丈夫かしら。」
「困ったものだ。」パルマがため息をついた。
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