十四、メルシアの約束
「よく帰りましたね。」
メルシアが優しく語りかけて来た。再び見るメルシアの姿は、さらに白く輝くローブに身を包んで、晴れやかな笑顔をしていた。
「メルシア、あなたの病気はよくなりました。病気のもとを退治してきました。」
艦長が胸を張って言った。
「よかった、なんとお礼を言っていいのか。・・・・それで病気のもとはなんだったのですか。」
「宇宙の悪党、チュウスケネズミのしわざだったのです。でも、もう安心です。チュウスケは自分の作った恐ろしい武器で自らくだけちりました。」
「そうでしたか。それにしても私のために、とても危険な目に合わせてしまったのですね。みなさんは大丈夫だったのですか?たいそう怪我をされていますね。申し訳ないことです。」
メルシアは、スケール号の背中のばんそうこうを見ながら言った。
「こんなものたいしたことありませんよ。」
操縦室のみんなは自分のことを言われたと思って、それぞれ大丈夫のポーズをとった。スケール号は宙返りをして前足をくの字に曲げた。ピリピリ傷口が痛んだが、ここはやせ我慢するところだと思っている。
「それよりメルシア、お体の調子はいかがですか?」
「ありがとう。わたしの体に元気が戻って来るのが分かります。子供達はわたしのおなかの中で無事に育っています。あなたがたは本当に宇宙の勇者です。心よりお礼を言います。」
「本当によかった。」艦長が言った。
「これで、あなた方には二度も助けてもらいましたね。」メルシアの心のこもった声だった。
「大事なとを聞かなくては、メルシア。」
思い出したように艦長が言った。
「二度も助けたなんて、私達には心当たりがないのです。第一私達は長老シリウスに教えを乞い、ここに初めて来たのですから、それまでに私たちが何かできるなんて、ありえないのですよ、メルシア。」
「私達は神ひと様に会うために旅をしているのです。ですから、ほかに何かをするということもありませんでした。きっとなにかの間違いですよ。それよりどうか、神ひと様のことをお聞かせください。」
「そうでしたね。今度は、私が約束を果たす番ですね。お話しましょう。」
よく通る澄み切った声でメルシアは言った。
「よく聞いてください。私達が最初、あなた方に助けられたのは、あなた方の勇気ある愛のおかげでした。」
メルシアが何を語ろうとしているのか。艦長も博士も、ぴょんたももこりんも、そしてぐうすかも、一様に緊張してメルシアの言葉に耳を傾けた。
「私達はこの宇宙に、数え切れないほどの仲間がいます。みなピンクの銀河なのです。私達が無数に集まって、この広大なエネルギーの海の中にピンクの川を作っているのです。」
「ピンクの川ですって!」ぴょんたがびっくりした声を上げた。
「ピンクの川って、まさか、あの、・・・」もこりんも、自分の思いついた事に信じられないと言うように、言葉を切った。
「そうなのです。あなた方がここにくる前に、邪悪な力によって紫色に変えられて苦しんでいた川を、元のきれいなピンクに戻してくれましたね。」
「でも、あれはおばあさんの心の世界を旅した時のことだスよ。」
遊園地で会ったピピと言う少女を助けるため、スケール号はおばあさんの心の世界に入って行った事があった。スケール号はどんどん小さくなって行って、おばあさんの体内に入り、細胞よりも小さな世界に進んで行った。そしてそこにピンクの川があったのである。
「メルシア、私達は確かにピンクの川をきれいにしておばあさんを助けたことがありましたが、・・・あれはおばあさんの心の世界のことで、とっても小さな世界だったのですよ。メルシアのいる銀河の世界とは全然違う、原子の世界の事だったのですよ。」
「大きさは関係ないのです。あなた方が見たピンクの川は細胞よりもっと小さな世界でした。でもあの時、あなた方がピンクの川の中で、もっともっと小さくなっていたら、ピンクの川を作っている私たちの仲間、ピンクの銀河に出会ったに違いありません。小さな世界では、銀河を分子と呼んでいるのかも知れませんが、名前は違っても、その銀河は私達の仲間なのです。」
「すると、今度は、メルシアよりも大きな世界をに行けば、前に見た川と同じピンクの川が現れてくると言うことなのだね。」博士が確かめるように聞いた。
「そうです。」鈴の音のようなメルシアの声だ。
「もしそうなら、おなじピンクの川と言っても、ひとつは原子の大きさで、もう一つは銀河の大きさに匹敵する訳だ。それが仲間で、互いに分かり合えるというのかね」
「でも、目にも見えない世界の事を、どうして知ることが出来るんです?言葉を交わす事などとても考えられません。」
「私達は、大きさに関係なく、心の世界でつながっているのです。言葉は要らないのです。何かがあれば、その一瞬に私達は皆それを感じます。小さなものも、大きなものも、一つなのです。」
「ちょっと待って下さいメルシア、私達はおばあさんの心の世界でピンクの川を見ました。そのピンクの川は、小さな世界の銀河がたくさん集まって出来ているというのですね。つまりメルシアのような」
「そうです。その小さな世界の銀河はみな私達の仲間なのです。私たちは心でつながっているのです。」
「そうすると、その小さな銀河から出発すると考えたら、・・・」艦長は考えながら話している。
「あっ分かっただス。」ぐうすかが艦長の後を取って言った。
「つまりこういうことだスね。スケール号が今、メルシアではなくて、その小さな世界の銀河にいるとしたらだスね、・・・そこから大きくなってピンクの川に行けるんだスね。もしそうなったら、ピンクの川からおばあさんに会うのは、簡単だス。前に通った道筋をたどればいいのだスからね。」
「そうです。よく分かりましたね。小さな世界の銀河はおばあさんの体内でした。そして同じように、ここは神ひと様のからだの中なのです。」
「そうすると、神ひと様に会うためには、ここからさらに大きくなって、メルシアの言うピンクの川の世界に行けばいいんですね。そしてそれから先は、ぐうすかが言うように、おばあさんの心の世界に行った時と同じ道をたどればいいと言うことですね。」ぴょんたが言った。
「そういうことだ」博士が確信するように答えた。
「すると、神ひと様と言うのはおばあさんのことでヤすか。」もこりんが目を白黒させて聞いた。
「そういうことじゃないんだもこりん。今言っているのは、神ひと様に会うための道順の事を言っているんだよ。」
艦長はもこりんにそう答えたが、本当のところ、もしかすると神ひと様っておばあさんだろうかと思うのだった。ピンクの川からどんどん大きくなって神ひと様に会ったらおばあさんだったなんてことになったらとても複雑な気分になるだろう。・・・・その時、
「艦長の言う通りだ。」
博士がいつの間にか授業の時の口ぶりで話し始めた。
「我々が行ったピンクの川はおばあさんの心の世界だったが、それはたまたまの事だったんだ。つまりピンクの川は誰の心の世界にもあるんだよ。もこりん、君の心の世界にだって、ピンクの川が流れているんだ。もちろん艦長や、ぴょんたやぐうすかの心の世界にもピンクの川はあるんだ。」
「すると博士、メルシアはぁ、・・・神ひと様のぉ、心の世界のぉ・・・ピンクの川をぉ、つくっているぅ・・・銀河のぉ・・・ひとりだと言うのでヤすか。」
もこりんは一言づつ確かめるように話した。
「・・・こんな大きなメルシアが、ほかにもっとたくさんいて、ピンクの川が出来ているということでヤすね!・・・天の川みたいでヤすなぁ」
「そうなんだよ、もこりん。少しは分かって来たかな。この宇宙空間はつまり、神ひと様の意識そのものなのだよ。」
博士は半分自分に言い聞かせるように話した。
「はい、なんとなく分かったような気がするでヤす。」
もこりんの場合、本当はなんとなく分からなかったのだけれど、みなの顔をみて、自分も分かったような気がしたのだ。
「あなた方がここからピンクの川に進めば、すべてが分かるでしょう。宇宙の秘密がきっと説き明かされるに違いありません。」
メルシアが再び語りかけて来た。
つづく
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