時には喧嘩もしながら、私達の生活は幸せなものだったと思う。
これから先のことはだれにも分からないが、一つだけ確かなことが私にはある。
それは私達に子供が生まれたということだ。女の子だった。
そしてそのことが、平穏で幸せな生活に唯一の険悪な事態を引き起こしたのだった。
すべての原因は私にあるのだが、子供にセリナと名づけた私に対して、まだ前妻に未練があるのかというA子の悲しげな非難からそれは始まったのだ。
彼女は私の顔を見るのを避けて俯き、二人の間に気まずい空気が付きまとって離れなかった。
そんなことはお構いなしに、生まれたばかりの子は元気に手足を振り上げて早くから笑顔を見せた。
A子のわだかまりはすぐにそんなセリナの無邪気な笑いにほだされたようだった。
3日もしないうちに、セリナは本当のセリナとなって皆の顔をほころばせるようになったのだ。
私の心はA子にさえ説明不可能なところにあった。
それはいわば私と神とをつなぐ窓のようなものとでも言えばいいだろうか。
正しく伝えたければ黙るしかない。
ともあれ、セリナの物語はこうして始まったのだ。
<終わり>
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