「すまなかった、許してくれ芹里奈」
予想もしなかった自分自身の言葉だったが、それと同時に私はその言葉の意味をも一瞬の内に理解していた。
10年前からその思考は私の中にありながら、今この時に初めて気付いたかのようだった。
私は芹里奈を恨んでいたのだ。
芹里奈が幸せになることだけを願ってきたとも言える私のこれまでの生は、自分を犠牲にすることで彼女を苦しめようとする、芹里奈への呪詛だったのだ。
そう気付いたとき芹里奈があの夜ベッドの上で泣いていた、あの涙は私のために流したものだったのだと思い至った。
そしてこの靴は、いまだに私への憐憫と罪悪感に苦しむ芹里奈を象徴していた。
「すまなかった・・・」
私は靴の前で深々と頭を下げた。
すると、涙に潤んだ目に芹里奈の靴がステップを踏んだように見えた。
カモメになった芹里奈が白亜の砂原で舞ったあのステップに違いなかった。
靴は軽妙に踊り始めた。
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