新月の夜
パルマとパルガを先頭に、ジル、ダルカン、エグマ、バックルパーが城門の前に立っていた。城門は大きく開かれ、松明の炎が夜空を焦がしていた。城門の内側には王子と宰相ゲッペルが一行を出迎えるために出向いていた。それは一行が重んじられていることを意味していた。それは逆から言えば、魔物に対する王子の追い詰められた心を表していた。パルマはそんなふうに王子の心を読んだ。
「よくおいで下された。」王子がパルマとパルガに向かって丁寧に頭を下げた。
「丁重なお出迎え、ありがたい事じゃ。わしがパルガ、横の者はパルマという、わしの姉様じゃ。」パルガが言った。
「これは、」王子はパルマに向かって改めて頭を下げた。
「後ろの者は、わしの弟子じゃ、ジル、バックルパー、ダルカン、エグマと申す。」
「ささ、何より、まず中へ。」
「いや、まずここで話がある。」
「ここでですと?」
「そうじゃ。」
「おい、あまりに無礼なしぐさ、許さぬぞ。」ゲッペルが剣を引き寄せて詰め寄った。
「よい、申せ。」王子はゲッペルを片手で制してパルマに言った。
「よい心掛けじゃ。わしがここに入るには条件が有るのじゃ。」
「条件だと、お前の弟子を随行させるという条件、すでに聞き入れたはずだ。」宰相ゲッペルが挑戦的に言った。
「その通りじゃ、それが聞き入れられねば、ここを通る訳には行かぬ。」
「その弟子はその後ろに控えておるではないか。」王子が訊いた。
「いかにも、しかしすでにこの城内に二人が入っておるのじゃ。その者をここに連れて来てもらいたい。わしの随行員として必要な力なのじゃ。その者達がいなければ、わしがここに入ったとて、何の役にも立つまいて。」
「すでに二人もこの城内にだと。」
「して、その者の名は何と申すのだ。」
「一人はエミー、ソウルの歌手じゃ。」
「今一人は?」
「カルパコと申す若者じゃ。今この地下牢にいるはずじゃ。王子に対して大変無礼なことを致した。わしはあの者の師として、まず王子に謝らねばならぬ。申し訳ないことを致した。」
「何だと、あ奴は大逆罪だぞ、お前があ奴の師だと申すなら、その責任を問うてそなたの首を切らねばならぬ。」ゲッペルがいきり立った。
「このババの首を切るかえ。」パルガは落ち着いてゲッペルを見た。
「あ奴はいずれ首を切る罪人、城ではこれまで、そのような罪人を許して牢から出した例はない。」王子が言った。
「しかしそれが条件じゃ、王子。」
「図に乗りおって!」ゲッペルが身を乗り出した。
「待てゲッペル。」
「しかし王子様、」
「そのカルパコという者、どうしても必要と申すのか。」王子は真っすぐパルガを見て言った。
「カルパコはわしの弟子じゃ。」
「しかし危険な男だ。」
「あれは行き違いじゃった。カルパコにそれを詫びさせよう。」
「分かった。」しばらく考えて王子は答えた。
「しかし王子様。」
「構わぬ。二人を連れて参れ。」王子は衛兵達に命令した。
「はっ、ただ今。」
衛兵が二人、その場を立ち去った。パルマとパルガは何事もなかったように静かに佇んでいた。松明の灯りが二人の顔に揺れていた。
やがて衛兵がエミーとカルパコを連れてやって来た。パルガがカルパコに近づいて言った。
「ばかなことをしてくれたの。」
「すみません。」カルパコは素直に謝った。
「王子様も許して下さった。お前からも丁寧にお詫び申し上げるのじゃ。」パルガがカルパコに言った。
カルパコは王子の前に進み出て、座り込んだ。そして頭を地面に付けて、王子に詫びを入れた。
「もうよい。さあ、改めて、パルガ殿の入城を願おう。」
「心得た。」パルガとその一行は城門をくぐった。
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