大学を卒業してからも、私は小さな実験劇場や商業演劇を観る事が多かった。
商業演劇といってもマイナーなものに限られていたが、たまたまその年、前売りから大評判になったチケットが手に入ったので、珍しく大掛かりな芝居を観にいったのだった。
チケットの交換窓口に並んでいると、後ろからそっと肩をたたかれたのだ。
何気なく振り返ると、ドキッとする美人が立っていた。一瞬なんだか分からなかったが、「芹里奈です」といわれて私の心はあっという間に大学時代に飛んでいった。
私達は懐かしさと奇遇の驚きで興奮して、芝居が終わってからも喫茶店に居座って昔話に興じたのだ。そしてさりげなく訊いた問いの答を聞いて、私は芹里奈が今も独り身であることを知った。
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