司書のユングはさっきからそんな二人が気になって仕方がなかった。学生のようで、何か調べ物をしているのだろうが、本の扱いが荒っぽいのも気になった。手当たり次第に本を引っ張り出してくるのがいたずら半分のようにも見えて、いつ注意をしようかとタイミングを計っている所だった。
すると、ユングの目にもう一人の人物の動きが目立って映った。二人の座っている机の奥の方に黒っぽい服装をした男が座っていて、二人に非難の目を向けているのだ。女の子の方がそれに気づいたのか、後ろを振り返った。すると同時に、その男は机の上に広げている本の上に目を落とした。
それを合図に、ユングはカウンターを立った。
「君達、何か調べものなのかい。」ユングは小声で呼びかけた。
「あっ、はあ、そうなんですけど。」
「少し周りに迷惑になっているようだから、もう少し静かにやってもらえないかな。」
「すみません。」
「それにこの本だけど、机に出すのは読む本だけにしてもらえないかな。大切なみんなの本だからね。」
「この国の歴史を調べているんです。この本を全部みようと思って置いているのですけど、いけませんか。」
「調べるのは大いに結構なのだが、少し度が過ぎているね。これを読みたい人がいるかもしれない。」ユングは山積みされて下敷きになった本を指さして言った。
「分かりました。返します。」
エグマが答えたとき、
「おっ、カルパコ達がやって来たぜ。」とダルカンが言った。
「やあ、」四人が無言で手を挙げて挨拶を交わした。
「あっ、ユングさん、ちょうどよかったわ。」ユングを見つけてエミーが嬉しそうに言った。
「エミーじゃないか。この子達は君の友達かい?」
「そう、同級生よ。わたし達ユングさんにお願いがあって来たのよ。」
「なんだい、お願いって、」
「うん、ちょっと込み入った話なの。わたし達調べていることがあるのです。それでいろいろ聞きたくって。」
「そうかい、・・・それじゃここでは迷惑になるから司書室に入って。その前にこの本を片付けてしまいなさい。」
ユングはそう言い残してカウンターに戻り、そこから司書室に入って行った。しばらくすると、別の司書がカウンターに出て来て腰を下ろした。
エミー達は本を書棚に戻し終えると、一旦閲覧室から出て司書室の扉を開けた。
バックルパーとユングが子供の頃からの親友だということもあって、エミーはよくこの部屋にやって来た。学校の宿題をこっそりユングに教えてもらった事もあった。そんな気安さもあって、エミーは三人の友達を従え得意そうにユングの席にやって来た。
「そこに座って、」
ユングはソファーを指さし、四人を座らせた。
「話ってなんだい。宿題のことなら君の父さんに甘やかすなと言われているんだがね。」
ユングはそう言って、笑った。
「そんなのじゃありません、もっと大事な話。この三人は、カルパコ、ダルカン、エグマ。わたし達四人でアモイ探偵団と言います。」
「なに探偵団だって?」
「アモイ。」
「アモイ探偵団?」
「そう、でもそんなことはどうでもいいのです。それより、聞きたいことがあるの。」
「何を聞きたいのかね。」
「わたし達、ランバード王国の歴史を調べているの。」
「やっぱり学校の宿題じゃないか。」ユングは笑って応えた。
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