セブ暦元年、クライン・マルトが貧しい砂漠の民を引き連れてセブズーにやって来た。草木の生えない乾燥地帯の飢えた民は、クライン・マルトの導きによって険しいランバード山脈を越えた。七月に砂漠を出て、セブズーに着いたのは十月を越えていた。その間、多くの民は命を失い、生きながらたどり着いた者は半数に満たなかった。
セブズーはランバード山脈と海に挟まれた肥沃な土地で、穀物がよく実った。飢えた民にとって、そこはまさに天国だった。
やがてそこに国が生まれ、クライン・マルトはセブの称号を与えられ、始祖セブ王として民から崇められた。国は、砂漠の民が命を懸けて山越えしたその険しい山の名を冠してランバード王国と呼ばれ、その山越えした年をセブ暦元年と定めたのである。
始祖セブ王はよく国を治め、ランバード王国は栄えた。
暦三四二年、セブ二世が王となり、初めて紙幣を発行した。また旧字体を廃し、新字体を制定した。
その後セブ五世が港を整備し貿易を行うなどして、現在のセブ十六世に至るまでおよそ二十年から三十年間隔で王が交代して来た。
歴史書をめくりながら、エグマとダルカンはノートにメモを取っていった。そこにはセブ王の噴水の事はどこにも書かれていなかった。二人は何時間も王立図書館の閲覧室に座り、王家に関する書籍や歴史書を調べていたのだ。
「これじゃ、学校で習った歴史そのままだぜ。」
「噴水の事が全然書かれていないのは変だわ。やっぱり、隠された歴史というのがあるのかもしれないわね。」
「何かが引っ掛かる気がするな。何か分からないがどうもすっきりしない。」
「よく考えてみましょう。」
エグマが横に積んだ本に手を伸ばしたとき、後ろで何かが動いたような気がした。
「えっ、」エグマは振り向いた。しかしそこには本に熱中して頭を下げている数人の姿しかなかった。
「どうした?」
「ううん、ちょっと、だれかに見られているような気がしたものだから。」
「だれかいるのか、」ダルカンも後ろを見た。
「気のせいかもしれないわ。」
「そのようだな。」
「でも、なんだか、誰かに見られているような気がして仕方がないの。」
「ちょっと気にしすぎじゃないのか。」
「そうかしら・・・。」
机の上には、分厚い本が山積みにされている。カウンターから見ると、二人は本の山に埋もれているように見えた。静かな図書館の中で、二人のいる机はかなり目立っていた
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