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(17)-2
「頑張って。大丈夫、今助けてあげるからね。」
「どなたか知らぬが、この矢は抜けぬ。」
白鹿は苦痛に耐えながら言いました。
「大丈夫ダす。ぴょんたはお医者さんダす。しっかりするダすよ。」
「少し痛いけど、我慢して。」
そう言ってぴょんたは刺さった矢を一気に引き抜きました。
「クオーッツ」
矢は三本、ぴょんたは手際よくその傷口に薬をぬって万能絆創膏を貼っていきました。
「キッキー、キッキー」
サルがやってきてしきりに白鹿の背中を指さします。
「反対側にも矢が刺さっていると言ってるでヤす。」
「みんなで体を返すのダすよ。」
ぐうすかが言うと大きな動物たちが集まってきました。
「白鹿さん、頑張って寝返りしようね。」
「すまない。」
白鹿は力を振り絞って首をもたげ、身を起そうとしました。動物たちが手を差し伸べ、頭で
わき腹を押しあげようやく身を返したのです。そのわき腹には折れた矢が深々と刺さっているのでした。
それでもぴょんたはひるみません。メスを取り出すと矢口を切り開き、折れた矢を引き抜いたのです。
動物たちの歓声が上がりました。止血が済むと万能絆創膏の出番です。
白鹿は足を折ったまま身を起こしました。動物たちは大喜びです。
「もう大丈夫です白鹿さん。」
「ありがとう。」
「この矢は、何があったのでやスか。」
「人間が凶暴になったのだ。仲間がたくさん殺された。我らの世界に無断で足を踏み入れている。仲間を助けようとしてこのありさまだ。私は森の王フケという。」
「人間が魔法にかけられているのダす。」
「魔法だと?」
「それを正すために我々はやって来たのだ。」
いつの間にかバリオンの王様と博士が立っていました。動物たちは引いて、中には牙をむくものも
ありました。どこからか石が飛んできて王様のマントをかすめて地に落ちました。
それを合図に一斉に動物たちが迫ってきたのです。
「クオオーン!」
森の王フケがおたけびを上げ、ふらつきながらも足を伸ばして立ち上がりました。
動物たちは一瞬その場で固まってしまったのです。
動物たちの輪の中に、森の王フケが座り、その前にスケール号の仲間たちが座っていました。
スケール号が光を発して森のドームは光の玉のように見えました。動物たちの影が放射状に延びて
森に消えています。バリオンの王様が今起こっているストレンジの危機を話して聞かせ、
森の王が動物たちに知らせるというやり方で、動物たちはすっかりおとなしくなったのです。
ストレンジの姫君を救いに来たという話を聞いて、動物たちのあちこちから歓声が上がりました。
ストレンジの姫君は動物たちに大層慕われていたのです。そしてぴょんたやぐうすか達には、
感謝の合唱が起こりました。
ストレンジでは人間と動物は互いに協力しあっていました。互いの能力を生かしあって
暮らしていたのです。森の王がそんな話を始めました。それを我々に教えてくれたのがストレンジの
姫君だった。それまでは人間との間でいさかいもあったが、姫君のおかげで共に生きる良い国と
なったのだ。その姫君の姿が城から消え、人間が凶暴になってしまった。と森の王フケが語りました。
その話はバリオンの王様の話とよく符合して大いに盛り上がりました。
魔法使いチュウスケはネズミの姿をしている。人間たちが凶暴になった元凶がネズミだと聞いて、
動物たちが口々に囁き合い、そのサワサワ声が波となって森の中に広がっていったのです。
「姫君は王宮のどこかに閉じこめられている。王は逃れて山中に潜んでいるのだ。魔法からかろうじて逃れた王軍に守られて、姫君の救出作戦を始めているという。その王を探し出し、私はこのスケール号と共に姫君の救出作戦に参加するためにやって来たバリオンの王だ。ストレンジ王の居場所を知りたい。」
バリオン王の話を聞いて、白鹿はヒューと高い鳴き声を上げました。すると動物たちが互いに顔を
見合わせてざわつき始めました。しばらくざわめきが続いていると、森の方から数羽の小鳥が飛んで
きました。そして小鳥たちは森の王の立派な角に止りました。小鳥たちは我先にさえずり始めたのです。
押し合って、落ちそうになって羽ばたいて、遠くから見ると蝶が舞っているように見えました。
しばらくして森の王がバリオンの王様に向かって言いました。
「それはこの者たちが知っている。」
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