ジルは不気味で、無愛想な男だったが、あっさり四人を通してくれた。ジルの最後の言葉は何かしら優しさが感じられて、エミーは親しみを持った。
奥の部屋には、至る所に擦り傷やはがれた所のある古びたテーブルが一つ置かれていた。パルマという名の老婆は、そのテーブルに向かって何か書き物をしていた。
「あの、すみません、」エミーが呼びかけた。
「おや、珍しいこともあるもんだ、こんな所に若い子がやって来るなんてね。どうしたんだい、」
パルマはかけていた分厚いメガネを外してテーブルに置いた。
「図書館のユングさんにきいて、おばあさんのお話しを聞かせてもらいたくてみんなでやって来ました。」
「パルマ、そう呼ぶんだね。それであんた達は、」
「あの、パルマ、ごめんなさい。わたし達学生なんですけど、」
そういってエミーは自分と三人の仲間を紹介した。するとエグマが後を続けるように言葉を継いで、簡単な今までのいきさつとランバード王国の古いいい伝えがあれば知りたいと申し出た。
「セブ王の噴水の事を知りたいと思ったのですが、本にはどこにもそんなことは書いていなくて、それに歴史書には始祖セブ王は三百年以上も生きていた事になっているんです。」ダルカンが言った。
「随分詳しいんだね。それで、それを調べてどうするつもりなんだい。」
「本当のことを知りたいのです。」
「若いのう。このセブズーにもまだこんな若者がおろうとは、の。」
「あの、お話ししていただけますか。」エグマが訊いた。
「よしよし、まずそこにかけなさい。向こうに椅子があるだろう。それを持って来てな。」
四人はパルマの前に並んで腰を降ろした。パルマは一息ついて話始めた。
「セブ王が砂漠の民を引き連れてこの地にやって来たというのは知っておろうな。しかし、当たり前のことだが、その前からこの地はあったのだよ。
その時、この地は誰のものでもなかった。天も地も、海も山も、川も畑もの。それに人も動物もそうだった。」
「人も、ですか。」カルパコが身を乗り出して訊いた。
意味はよく分からないが、パルマの話はカルパコの心をとらえていた。それは何か、宇宙の摂理の扉が開かれようとしているような、一種の引力を感じたからだった。カルパコには、歴史的なものよりも、世界のもっと根本的な原因に目を向けようとする傾向があった。
パルマはカルパコに目を向けた。その目は老人とは思えない輝きがあった。
「そうなのだ、人もまた、誰のものでもなかったのだよ。」
「人も、ですか」ダルカンが同じことを訊いた
「人だけじゃない、生と死もまた、そうだったのだよ。」
「生と死ですか。」カルパコがおうむ返しに訊いた。
「世界は、生も死も区別なく存在しておった。セブ王がこの地に王国を作る前までは、死ぬものも生きるものも、皆同じ世界にあったのだ。」
「あの、もう少し具体的に話して頂けませんか。」エグマがパルマの話しを止めた。
「それはそうだの。」パルマは苦笑いをして鼻の頭をかいた。
「それで、この国にセブ王がやって来る前には、どんな人が住んでいたのですか?」エミーが訊いた。
「この国の先住民は、グルゾといって、透き通るような白い肌をした種族だったのだ。
「すると、エグマなんか先住民の血をひいている訳だ。」カルパコがエグマを見て言った。エグマは四人の中でとびきり色が白かった。
「そうかしら、だったらカルパコは砂漠の民の血をひいているかも知れないわよ。ほりが深いし色が黒いもの。」
「そうかも知れぬの。砂漠の民は背が高くて、赤ら顔が特徴だ。種族というものは面白いものよのぅ。互いに混ざり合っても、どこかにその人間のルーツが現れておる。」
パルガは四人の顔をまじまじと眺めながら楽しそうに言った。そしてグルゾ人と砂漠の民の歴史を語り始めた。その話はおよそ次のようなものだった。
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