のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

ジイジと北斗12(新スケール号の冒険)

2021-03-29 | 物語 のしてんてんのうた

(12)

「こんなところにいたチュウか。」

重苦しい闇の中から、憎悪に満ちた低いうめき声が聞こえてきます。この世のものとも思えないほどおぞましい声が闇の底を震わせているのです。それはニュートと呼ばれる遊星が雨のように降り注ぐ暗黒の空間でした。

原子の世界では、太陽族のように王様をいただいていくつもの電子と呼ばれる星が集まる王国があります。けれどもそんな王国を捨て、仲間を持たないで放浪する星もいます。その星はニュートと呼ばれ、原子の宇宙を勝手気ままに飛び回っているのです。

「ニュートは王国を死に誘う」という。

似たような神話がどの王国にもあって、ニュート星は命を終えたものが棲む場所として嫌がられていました。

その星を根城にしているのがネズミのチュウスケでした。チュウスケはこの宇宙を闇の支配する世界に戻すという野望を持っていました。けれどもその野望は、いつも邪魔者によって失敗させられてきたのです。その邪魔者こそ今、目前にいる銀色のネコ、スケール号でした。

スケール号のことを思い出すたびにチュウスケは胃に溶岩を流し込まれたように熱くなって、悲鳴を上げてしまうほどです。悔しさが悔しさを呼んで、いまやチュウスケはスケール号への復讐の鬼となってしまっているのでした。

そんなある日、闇に潜むチュウスケが、四肢を巧みに動かして宇宙を駆けている銀色の猫を目にしたのです。原子系の光を受けてリズミカルに輝く姿はスケール号に違いありません。

それはたまたま、のことでした。

ストレンジ星の占領に成功すると、チュウスケの欲望はさらに膨らみ、この原子宇宙を支配しているバリオン星の征服を考え始めたのです。

バリオン星の王は原子界の王と呼ばれ、太陽族の王でもあるのです。実の名前はだれも知らない宇宙で最高の権威でした。何よりその持てる力の象徴は神の光を司り、無限の力を持っている光の槍を賜っているということでした。その力は強大で原子世界ばかりか、地球や太陽の世界にまでその名を馳せているのです。実際にチュウスケはその力が地球にまで及んでいるのを見たことがあります。その爆発が一瞬にして何十万もの命を奪う光景を見てチュウスケは自分の魔法をはるかに超えているのを知ったのです。

しかしどこかに付け入る隙があるに違いない。チュウスケはそれを探るために闇に潜んでいました。そこにやって来たのがスケール号だったのです。

「こんなところで会えるチュのはありがたいだチュな。」

「ここで何をしようとしているのですかねポンポン。」チュウスケの忠実な子分、タヌキのポンスケです。

「どうやら親分、奴はバリオン星に向かっているようです。」カラスのカンスケがチュウスケに進言しました。

「これはバリオンの力を測るのに好都合です。」

「どうするんだ、カンスケ。」

「なに、バリオンとスケール号を戦わせるだけですカウカウカウ。」カンスケは胸を張って言いました。

「そんなことが出来るのポンポン。」

「うまい方法がある。」

「言ってみろカンスケ。」

「バリオンは光を扇のように広げている。スケール号が近づいたので、警戒しているのは明白ですカウカウ。」

「それでどうするポン。」

「あの光の武器を利用するのです。」

「なるほど、光の武器のにせものを作ればいいのだな。それはいい考えだチュ。」

チュウスケはカンスケの考えがすぐに分かりました。それでもポンスケには分からないようです。

「どこがいい考えなのか分からないポンポン。」

呑み込みの悪いポンスケにカンスケが説明した悪だくみは大変なものでした。さすがチュウスケの第一の子分で策士。親分に褒められたカンスケはもう有頂天です。

バリオンが警戒の光を広げているというのは、スケール号とは互いに知らない者同士だということを教えているようなもの。そしてバリオンが警戒しているのは、ストレンジを占領したチュウスケの力だということ。これを利用すればいいと言うのがカンスケの作戦でした。

バリオンにはチュウスケが攻めてきたと思わせ、スケール号にはバリオンが攻撃してきたと思わせれば、互いに戦い始めるというのです。

「で、どうするのだチュ。」

チュウスケは乗り気十分です。カンスケはますます得意になって自分の策を悦明し始めました。

まず光の武器のにせものをつくる。それを使ってスケール号を攻撃すればいいというのがカンスケの話しでした。

「にせものを作るのは簡単だが、それではスケール号を倒せないチュ。」

「バリオンに攻撃されたと思わせるだけでいいのです。それでスケール号に敵意を持たせるのですカウカウ。」

カンスケの話はまだ半分でした。

残りの半分はバリオンにスケール号が攻めてきたと思わせる作戦です。それは簡単なことでした。スケール号の背後に大艦隊の幻を作るだけでいいのですから。これで間違いなくバリオンの王は攻撃をうけていると考えるでしょう。スケール号が攻撃すれば必ずバリオンは全力で応戦するに違いありません。バリオンが勝てばスケール号への恨みがはれますし、スケール号が勝てばバリオンとの戦いが楽になるのです。どちらに転んでもチュウスケには良いことしかありません。カンスケの策謀は完ぺきでした。

 

こうして策士カンスケの計画が、誰にも気づかれず静かに進んでいったのです。

スケール号の背後に潜み闇の中でチャンスを伺っていたチュウスケ達に好機がやってきました。スケール号がバリオンの発する扇形の光を前にしてひるんだように見えたのです。バリオンの武器に目を奪われているに違いありません。

「今です、親分!」カンスケが言いました。

「おのれ見ておれ、スケール号」

チュウスケは金色に染めた黒い槍を何本もスケール号めがけて放ったのです。

その時、カンスケの策にたった一つの見落としがあることには誰も気づいていませんでした。

そうです。まさにその槍でした。いつもならだれにも見えないチュウスケの黒い槍です。その槍を金色に塗ったために、チュウスケの闇の動きが光にさらされてしまったのです。

しかし幸いにもスケール号には気付かれませんでした。それどころか、スケール号は逃げようともしません。意外なほどあっけなく槍はスケール号の背中を串刺しにしたではありませんか。

「ぎゃニャおおおお-ん!!」スケール号の大きな悲鳴が響き渡りました。

「やったでチュ。でかしたカンスケ。」

「命中ですポン」

「強いと思っていたが期待外れのスケール号め、思い知ったかカウカウ。」

金の槍を背中に受けて、のた打ち回るスケール号を見て大喜びしたチュウスケ達です。けれどもその喜びがバリオンの一瞬の動きを見落としてしまったのです。

その時、バリオン星から出ていた扇形の光芒が中空で一つに束ねられ、無数の光の槍となって一本残らず同じ方向に打ち出されました。槍は光の速さで飛びますから、一瞬の油断は命取りなのです。

勝ち誇ったチュウスケがスケール号にとどめを指そうと身構えた時、そのスケール号は身体を硬直させて断末魔の悲鳴を上げました。そして次の瞬間、忽然と姿を消したのです。

その時、スケール号の消えた空から黄金の槍が降り注ぎました。

光速で飛ぶ槍を防ぐ手だてもその余裕もありませんでした。チュウスケ達は槍に襲われて命からがら逃げだしていったのです。

 

ストレンジの王宮には三台のベッドが並んでいました。

チュウスケは肩を射抜かれ、目にも包帯が巻かれています。カンスケは羽根に大きな穴が開いていますしポンスケは布にまかれた足を吊あげられているのです。

憎きスケール号を仕留めたものの、バリオンの黄金の槍には勝てないと思い知ったチュウスケでした。けれどもこのままで引きさがる魔法使いチュウスケではありません。ベッドの上で痛みに襲われながらバリオン王への復讐を誓うのでした。

直接対決で勝てる相手ではない。そう察したチュウスケは民の力で王を倒そうと考えたのです。

槍で襲われた肩の痛みをこらえながら、憎しみを力に変えて行く。それがチュウスケの魔法を強くしているのです。

牢に捕えている姫の心さえつかめば、ストレンジの民はすべてこちらのものになる。同じようにバリオンを巡る星の民を惑わせれば強大な反乱軍の連合艦隊が出来るだろう。いかに王の力が巨大でも、民がいなければ王の意味もなくなる。戦わずして勝てるのだ・・・。

チュウスケの頭に壮大な計画が浮かび、やがて勝ち誇ったように眠りにつくのでした。

「カウカウ」

「ポンポン」

カンスケもポンスケも共に夢を見ているのでしょう。どちらも寝言で話をしているようです。

 

 

 

 

 

 

 


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