(2)
ある日、珍しく温かい陽射しがカーテンを通して部屋に差し込んできました。
ジイジは意味なく心がうきうきしてカーテンを開けたのです。ピンク色の花びらが一枚とんでいました。近所の梅の花が満開なのかもしれません。
その時、北斗のかわいい力み声が聞えてきました。そして泣き出したのです。
窓際に置かれた小さなベッドに寝かされた北斗の顔が輝いていました。
「おうおう、すまなかったな、眩しかったね。」
ジイジが反射的にカーテンを閉めて、北斗に謝りました。
その時だったのです。
「ゴロニャーン」
ジイジには聞き覚えのある猫の声でした。
「艦長、迎えに来たでヤす。」
「艦長、お迎えに上がりました。」
「艦長、お迎えに参りましたダすよ。」
ジイジが声の方を振り返ると、三匹の勇士の姿がありました。その後ろに銀色に光る猫がうずくまっていたのです。
「もこりん、ぴょんた、それにぐうすかじゃないか。」
ジイジはなんだか胸が熱くなってしまいました。
モグラのもこりん。ウサギのぴょんた。ナマケモノのぐうすか。みんな昔のまんまです。
「忘れないで会いに来てくれたのだね。まだ艦長と呼んでくれるのだね、夢じゃなかったのだ。私は信じていたよ。みんなあの時のまんまじゃないか。」
「私達は艦長を迎えに来ただけですよ、おじいさん。」
ウサギのぴょんたが言いました。
「おじいさん、そこを退くでヤす。」
モグラのもこりんも言いました。
「おいおい、私は艦長だよ。ほら、一緒に神ひと様にも会いに行ったじゃないか。もこりん、忘れたのか、艦長のケンタだよ。」
「おじいさんなんかしらないでヤすよ。」
もこりんがほっぺたをふくらませて言いました。
「おじいさん、じゃまはなしダす。」
もこりんが両手を上げて見かけだおしの技を出しました。相手を怖がらせるもこりんの得意技なのです。
「しかし君たちは今艦長と呼んでくれたじゃないか。」
「そうです、私達は艦長を迎えに来たのです。」
「だから私が艦長だよ。忘れたのかね。」
「ゴロニャーン」
スケール号の声、そう思ったとたんジイジの耳にネコの鳴声が言葉になって聞こえてきました。
「艦長はそこに寝ている北斗です。」
「北斗が艦長?まだ生まれたばかりの子だよ。スケール号、お前も私のことを覚えていないのか。」
「覚えていますよ、ケンタ。あなたはとってもいい艦長でした。おかげで私達はとってもいいパートナーでしたね。」
「スケール号、覚えていてくれてありがとう。」
「でもあなたはもう艦長ではありません。」
「しかし北斗はまだ赤ちゃんだ、それがどうして艦長に?」
「北斗はまだ宇宙の子です。その力が必要なのです。」
「しかしそれは無茶な話だ、スケール号。北斗は動けない。」
「大丈夫ですよ。これに北斗を寝かせてください。」
スケール号が言うと、音も無く揺りかごが浮かんで飛んできたのです。
「ほぎゃー、ほぎゃー」
北斗の泣き声がジイジの耳に届いてきました。
「おーおー、怖くないぞ北斗、お腹すいたのかなぁ。母さん帰ったらおっぱいいっぱいもおらおうね。」
あやしながらジイジは抱きあげました。
「さあ、北斗をその揺りかごに。」
スケール号の声です。
ジイジは、いつまでもぐずっている北斗を揺りかごに寝かせました。すると不思議なことが起こりました。弱々しくて不安そうに泣く北斗の顔が明るく輝いたのです。先ほどジイジがカーテンを開けた時、びっくりして眩しそうに輝いていた北斗の顔でした。
その顔がにこりと笑ったのです。
北斗はすぐに満足したように眠りました。とても静かにです。
ジイジは嬉しくなりました。
「スケール号、ありがとう。」
「安心してください。北斗は大丈夫です。」
「どうしても連れて行くのだね。」
「はい。そしてあなたもです。ケンタ。」
「私も?」
びっくりしてジイジは聞き返しました。
「あなたは北斗に必要な人なのです。博士。」
「のしてんてん博士はスケール号を作ったすごい方でしょう。でも私は単なるジイジだよ。」
「あなたはもっとすごいものをつくったのですよ。」
「何のことだか、さっぱりわからない。」
ジイジは驚きましたが、スケール号の言葉は決して疑いません。自分の何がすごいのか、そんなことはどうでもいいことでした。そんなことよりまたスケール号と一緒に冒険できると思うと嬉しくなってきたのです。
そのためだったら、博士と呼ばれてもかまわない。
ジイジはそう考えたのです。
「おじいさんは博士だったのでヤすか」
「あの有名なのしてんてん博士でしたか。ごめんなさい。」
「脅かしたりして悪かったダす。」
もこりんもぴょんたも、そしてぐうすかもジイジの前で頭を下げました。
「もこりん。ぴょんた。ぐうすか。これからよろしくな。」
「はいでヤす、博士。でもあんまり難しい話はいやでヤすよ。」
もこりんがさっそく皆を笑わせました。
こうして、ジイジと北斗を乗せたスケール号が宇宙の彼方へ、音も無く飛びたったのでした。
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