のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

二、セブ王の噴水(目覚め一)

2014-10-13 | 小説 黄泉の国より(ファンタジー)

うなされて、バックルパーは目を覚ました。全身に汗をかいていた。甘酸っぱい悲痛な気分が今も続いている。夢だったのか。汗で濡れた首筋を手で拭きながら、バックルパーは生々しい夢の感触に浸っていた。

 夢にしてははっきりし過ぎていると思った。細かいところまではっきり覚えている。こんな経験は今までなかったことだ。ヅウワンが死んで、相当まいっているのだろう。それに可哀想なエミー、自分がヅウワンを殺したのだと思い込んでしまって、自分を責め続けているのだ。それをどうすることもしてやれない自分に胸が痛む。そんな思いが、夢になったのだろう。

 それにしても、現実感の強い夢だった。槍で胸を突き刺された。その痛みの記憶が今も生々しく背中から胸にかけて残っている。死んだと思った瞬間目覚めていた。一体あれは何だったのだろう。今、こうしている自分を見れば夢には違いないのだけれど。

 昨夜、しこたま酒を飲んだ。それがいけなかったのかもしれない。

 つい一ヶ月前にユングが死んだ。突然死だった。何が原因か分からなかったが、突然多量の血を吐いて、心臓が止まったのだ。それから半月後にヅウワンが事故で死んだ。最愛の親友と妻を失ったバックルパーの心は、耐え難い痛みで満ちあふれていた。二人の葬儀の酒が残っていたのだ。

 バックルパーは頭を大きく振って、ベッドから下りた。朝食の用意をしてエミーを起こさなければならない。

 台所に立ってフライパンを火にかけた。やがてバックルパーは底に煮立った湯の中にヤクの干し肉を引きちぎって投げ込み、卵を落とした。 

 

 

        次を読む

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 夢(わが家)3 | トップ | 二、セブ王の噴水(目覚め二) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

小説 黄泉の国より(ファンタジー)」カテゴリの最新記事