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(16)
「ゴロニャーン」
バリオン星の王宮から金色の猫が鳴き声と共に飛び立ちました。前足で空をかき、後ろ足を大きく蹴りだすと猫は軽々と空中を走り続けるのです。
王宮の前庭に集まった民衆が手を振っています。そびえ立つ物見の塔を巻き込むようにスケール号が上昇すると、物見台にはバリオン王国の主なる重臣たちが幾重にも並んでいるのが見えます。スケール号が正面にやってくると、皆が一斉に右手を左肩に置いて出陣の敬礼をしました。スケール号はくるりと宙返りをしてそのまま空高く舞い上がったのです。
一方、バリオンの軍船が隊列を組んで飛び立ちました。
空をおおうように浮かぶ巨大な猫が反乱軍に攻撃されました。その猫を救うべく王様が発射した黄金の槍の一撃で反乱軍の艦隊は壊滅。かろうじて残った船は這う這うの体で逃げ帰ったのでしょう。その後バリオンの空は平静を取り戻したのです。黄金の槍の威力はさることながら、あっけない反乱軍の崩れ方に安堵したものの、タウ将軍はここぞとばかりに強硬策を奏上したのです。
「ストレンジの反乱軍がバリオンに攻めてきた、この事実を見過ごすことはできません。第一波はあっけなく王の槍によって撃退されましたが、ここで安心してはなりません。この機を逃してはならないのです、王様。ここはすかさず戦線をストレンジに押し戻し一気に反乱軍を鎮圧して王宮を取り戻しましょうぞ。」
バリオン軍の全権を賜ったタウ将軍は出撃のためにその日のうちに兵舎に戻りました。兵を出すのは今しかない。最強の軍を編成し、この機を利用して兵を出すのは、総司令官としての誇りでもあったのです。
軍備が整い再び王の間に謁見したタウ将軍は青いマントをまとい、太陽の飾り物のついた杖を携えていました。作戦を指揮官たちに伝えるための、バリオン軍総司令官の軍杖なのです。互いに姿が見えなくても、軍杖が意志を伝えてくれるのです。
「タウ将軍、引き合わせたい者がいる。」
そう言って王様がスケール号とその乗組員たちを王の間に招き入れました。
「この者たちは?」
タウ将軍は怪訝な面持ちで奇妙な一団を見ました。白い安物のコートを着た年寄。揺りかごの赤ちゃんとそれを取り囲むぬいぐるみのような動物たち?。中でも目を引くのが金色の猫でした。
「あの折、反乱軍に襲われた猫たちだ。」王様は意地悪そうに笑って言いました。
「あの折?あの時の、空に現われた巨大な怪物のことですか・・」
「まあ、そういうことだ。」
「しかしあれは、反乱軍の攻撃で死にましたぞ・・」
タウ将軍の驚く顔を面白がって王様はその後のいきさつを話して聞かせました。王様の話なので信じない訳には行きませんが、タウ将軍は半信半疑で話が先に進みませんでした。
そこでスケール号が自分の身体を王の間が一杯に成るほど大きくしてみせました。タウ将軍が驚いたのは言うまでもありません。
スケール号が静かにしゃがみ込むと、ゆっくりあごを床に付けました。口髭の先が床に付いてしまって、木の幹のように登って行けそうです。するとその額が開いて階段が降りてきたではありませんか。博士が丁重に手を差し伸べ王様とタウ将軍をスケール号に案内しました。一見は百聞に如かず。そう言って博士はのぞみ赤ちゃんの姿を見てもらおうと王様に提案していたのです。
スケール号が巷の猫の大きさに戻るとそのまま王の間を走り去り、天空に身を躍らせると、グングンと身体を拡大しはじめました。スケール号はやって来た道筋を一気にさかのぼって行ったのです。スケール号はのぞみ赤ちゃんの宇宙空間を原子の大きさからハエの大きさにまで拡大してきたのです。艦長の命令はますます冴えわたり、その移動に時間がかかりません。艦長が目的地を思い描くだけで瞬間に移動できるようになりました。ジイジが長い間かかって習得した技術を北斗はあっという間に吸収していきます。
素粒子星のつくる無数の銀河を越えると、銀河は光を放つ樹林滞のような細胞となり、スケール号はその隙間をすり抜け、サンゴのような岩肌にある無数の洞穴を潜り抜け、やがて泉の底に顔を出すのです。汗の泉を上昇して水面を出ると、もうその上は大きな空が広がっています。その空に向かって前足をかき後ろ足をけると、スケール号は空に舞い上がりました。泉はみる見る小さくなり泉の点在する荒野の広がる大地に変って行きます。スケール号がハエの大きさにまで膨らむと、その大地の全体像が見え、一つの塊りであったということが分かるのです。それは痛々しい赤ちゃんの姿でした。
保育器の内側から見るのぞみ赤ちゃんは、スケール号が出発したときより小さく、赤い皮膚は今にも破れそうに見えました。それを見た王様とタウ将軍はしばらく言葉がありませんでした。自分達の目の前で起こっていることがあまりにも異常で考えがついていけないのです。
「あの痛々しい赤子が、バリオン系の星々が集まって出来ている宇宙の姿だというのか。。」王様がうなるようにつぶやきます。
「信じていただくしかありません。王様、これが真実なのです。」博士が厳粛に答えました。
「。。。。」
「しかし王様、あの子は痛々しくとも健気に生きております。それは王様の強さのおかげなのです。あの子を助けられるのも王様なのです。」
「あの子を私が守っていると。。。」
「はい王様。しかし時間がありません。」
博士はのぞみ赤ちゃんの衰弱した様子を見て、焦りを隠せませんでした。これはもう一刻の猶予もありません。
「艦長、バリオンに戻ろう。」
「はふはふ ウっキャー」
こうしてスケール号は身体のスケールを今度は逆に縮小させながらのぞみ赤ちゃんの額に飛び移り、再びバリオン星に戻ったのです。
そのスケール号の中で、ストレンジ星の反乱軍討伐の作戦が話し合われたのでした。
一つ、タウ将軍はバリオン軍を率いてストレンジを目指し、大気圏外に結集して反乱軍の動きをけん制する事。
しかしそれは簡単に決まったわけではありません。大気圏に突入して一気に反乱軍を壊滅させるというタウ将軍の強硬策と王様の考えが真っ向から対立したのです。二人は共に譲らず決着がつきませんでした。そこで博士が代案を出して仲裁しました。それはスケール号が作戦に参加するという提案でした。王様の作戦を軍から切り離すためにスケール号が王様と共に行動するという提案が、ようやく二人の合意を生みだしたのです。
王様の作戦はまずストレンジの王軍と合流し、姫君の救出を優先させ、チュウスケの魔法を解く方法を探る。というものでした。それは軍の行動を遅らせるばかりか、指揮に乱れが生じるとタウ将軍が異議を申したてたのです。けれども、隠密性の高い王様の作戦をスケール号が負うとなると話は別です。スケール号の力を目の当たりにした王様もタウ将軍も反対する理由はありませんでした。
こうして軍による侵攻を保留にしたうえで、スケール号が作戦に参加するという合意が生まれたのです。
二つ、スケール号が密かにストレンジに侵入して山中に潜む王軍と合流し、ストレンジの姫君救出作戦に参加する。
この作戦に合意するにあたっては、王様が一つの条件を付けました。それが王様自らがスケール号に同乗するということだったのです。もちろんスケール号の乗組員たちは王様を大好きになっていましたので皆大賛成です。こうして作戦会議は決着したのでした。
タウ将軍は大気圏上空から反乱軍の動きを監視し、王軍を助けるために必要な援軍を随時派遣することになりました。目指すはストレンジの自立なのです。
軍議が終わるころにはスケール号は金色の恒星バリオンを視野に入れました。王様がスケール号の窓からバリオンを回る惑星たちを教えてくれました。バリオンの惑星は六個ありました。ストレンジ星はその六個の惑星の中の三番目の軌道を回っている星でした。バリオンの光を受けてオレンジ色に輝いています。一番内側に青色の星、二番目が黄色でした。四番目が緑色、一番外を回っているのが赤い星です。六つの惑星がそれぞれ独自の軌道を回っているのです。
博士がバリオンに一番近い星を指さして言いました。
「わが地球は、あのように青いのです。」
「そこにはあのような赤子がたくさんいるのか。」
「ふつうはありえません。あの子も元気に育てばこのような体になります。」
「艦長を見ているとそれは分かるぞ。」
その北斗艦長は、小さな握りこぶしを盛んに舐めています。人差し指を折ってその上に親指を重ねて口に入れているのです。しゅばしゅばしゅばしゅば、艦長の握りこぶしをなめる音が時々ウエッとなります。口の中で曲げた人差し指を伸ばして喉をついてしまうのです。その声でもこりんはコックさんに変身します。そろそろミルクの時間なのを知るのです。もこりんがコック帽をかぶって哺乳瓶を暖め始めました。グウスカはいつもそれをうらやましがります。ぐうすかの食事はスケール号が王の間にたどり着いてからの話し。まだまだ先なのですね。
こうしてストレンジを救うために姫君の救出作戦が始まったのです。
王様を乗せたスケール号はバリオンの民と王宮の重臣たちに見送られて旅立ちました。目の前にバリオンの惑星ストレンジがオレンジ色に輝いています。それがスケール号の位置によって丸く見えたり半分に見えたりします。さらに進むとストレンジ星は三日月型になり、折れるような光のリングとなって、ついに見えなくなりました。けれどももちろん、闇の中に見えなくなっただけで、無くなったわけではありません。スケール号は完全にストレンジ星の影に入ったのです。
ストレンジ星から言えば、真夜中なのです。スケール号は隠密裏に真夜中の密林に降り立ったのでした。
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新スケール号の冒険はいよいよ中盤に差し掛かりました。
早く終えたいものの、物語が勝手に動き出すのです。
今しばらくお付き合いください。
この先どうなるのか私にもわかりませんが、頭の中でスケール号が
動き出すとワクワクが止まりません。
皆様にも同じ体験がありましたら幸いです。 和
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