(17)
キイキイ、キャッキャッ、コロコロ、
ジャングルの夜はこんなに賑やかなのかと思うくらい動物たちの鳴き声が聞こえます。
「この星は豊かなのですね。たくさんの動物がいる。」
博士が王様の方を見て言いました。
「ストレンジは水が豊かなのだ。甘い河、苦い河、いろいろあって動物たちは好みの水によって棲み分けが出来ている。確かに動物の種類は多いかも知れぬ。」
ギャーギャー、キーッツ、クオーツ、
「でもなんだか悲しそうでヤすよ。」
「泣いているのダす。悲しいことがあるのダすよ。」
キーッツ!キーッツ!!ギャー、ギャー、ギャー、
「確かにおかしいです。助けを呼んでいる鳴き声です。ぐうすかの言うように、泣いているものもいます何かあったんだ。」
ぴょんたが耳を立てて不安そうに言いました。
「艦長、動物たちの鳴き声のする場所を探せないか。」
「ハブハブ、」
艦長は右手を肩の上に伸ばして自分の握りこぶしをみているところでした。
「どんなものがいるか分からない。気をつけて動こう。」
スケール号は闇の中でも外を見る事ができます。
ジャングルはうっそうと植物が茂っていました。背の高い木が枝を広げて空を覆いつくしています。昼間でもここは薄暗いでしょう。いたるところでツタが垂れ下がっています。そのツタが揺れて、何かが飛び立ちました。その黒い塊を目で追うと、ツタからツタへ飛び移り、枝を走っているのです。
それに気づくと、同じような動きがあちこちで見つかりました。皆同じ方向に進んでいるように見えました。動きは木の上だけではありません。茂みが揺れて飛び出してきたのは立派な角を持った鹿ではありませんか。
「ウサギでヤすよ、ぴょんた。」
もこりんが指さして言いました。その先にピョンピョン飛び跳ねていくウサギがいました。一匹だけではありません。明らかに皆同じ方向に向かっているのです。
スケール号はその動物たちに交じって、走りました。いつの間にかスケール号の横にはクロヒョウが並走しているのです。走るにしたがって、動物たちの数が増えているようです。
ギャーギャーギャー、キーッツ、クオーツ、キーッツ、
泣いているような動物の声がさらに大きく聞こえました。動物たちは明らかにその声に向かって急いでいるようなのです。
「何か異変があったに違いない。」
「あの奇妙な声が動物たちを呼んでいるのでしょうか。」
「ストレンジには、世界の最後に動物たちは皆同じ方向に走って海に飛び込むという話があるのだが。」
「世界の最後・・・今がそれなのですか。」
ピョンタは自分と同じウサギの姿を見てから、必死で走っている動物たちに特別の思いを持ったのでしょう。心配でならないという気持ちが自慢の耳に現れて片方が折れ曲がっています。
ギャーギャーギャー、ギャーキーッツ、クオーツ、キーッツ、クオーツ
声がすぐそばで聞こえました。
密林の籔が途切れて、ジャングルの中に大きな樹木のドームが現れたのです。空は木の枝と絡まったツタで覆われた広い空間になっています。その中央に動物たちが大きな輪を作っていました。周辺の木の枝には鳥が押し合いながら止まっています。スケール号は迷わず動物たちの輪の中に入っていきました。足の隙間をぬって進んでいくと、その中央に真っ白な動物が横たわっています。その背中やわき腹に何本も矢が刺さっているのです。痛みに耐えながら立ち上がろうともがき、頭をもたげました。その頭には枯れ枝のような角をいただいているではありませんか。それは大きな白い鹿だったのです。
まわりの動物たちはみな心配そうに眺めています。サルが露のついた大葉を矢の刺さった傷口にあてて清めていました。リスが木の実を食べさせようとしていますが、鹿は口を開けようともしません。
クオーッツ!!、口から泡を吹いて白鹿は悲鳴を上げました。
ギャーギャーギャー、動物たちの鳴き声が感染して森に広がります。
「艦長、行きます。」ピョンタがもう薬箱を持って立っていました。
「助けに行くでヤすよ。」
「ほっておけないダす。わたスも手伝うダす。」
動物たちを刺激しないように、博士はぴょんたたちだけをスケール号の外に出しました。
ぴょんたが 駆け付けた時には、白鹿はもうぐったりとしていました。ぴょんたは迷わずカンフル剤を肩に注射しました。白鹿はピクリと身体を震わせ、目を開けました。
「頑張って。大丈夫、今助けてあげるからね。」
「どなたか知らぬが、この矢は抜けぬ。」
白鹿は苦痛に耐えながら言いました。
「大丈夫ダす。ぴょんたはお医者さんダす。しっかりするダすよ。」
「少し痛いけど、我慢して。」
そう言ってぴょんたは刺さった矢を一気に引き抜きました。
「クオーッツ」
矢は三本、ぴょんたは手際よくその傷口に薬をぬって万能絆創膏を貼っていきました。
「キッキー、キッキー」サルがやってきてしきりに白鹿の背中を指さします。
「反対側にも矢が刺さっていると言ってるでヤす。」
「みんなで体を返すのダすよ。」
ぐうすかが言うと大きな動物たちが集まってきました。
「白鹿さん、頑張って寝返りしようね。」
「すまない。」
白鹿は力を振り絞って首をもたげ、身を起そうとしました。動物たちが手を差し伸べ、頭でわき腹を押しあげようやく身を返したのです。そのわき腹には折れた矢が深々と刺さっているのでした。それでもぴょんたはひるみません。メスを取り出すと矢口を切り開き、折れた矢を引き抜いたのです。動物たちの歓声が上がりました。止血が済むと万能絆創膏の出番です。
白鹿は足を折ったまま身を起こしました。動物たちは大喜びです。
「もう大丈夫です白鹿さん。」
「ありがとう。」
「この矢は、何があったのでやスか。」
「人間が凶暴になったのだ。仲間がたくさん殺された。我らの世界に無断で足を踏み入れている。仲間を助けようとしてこのありさまだ。私は森の王フケという。」
「人間が魔法にかけられているのダす。」
「魔法だと?」
「それを正すために我々はやって来たのだ。」
いつの間にかバリオンの王様と博士が立っていました。動物たちは引いて、中には牙をむくものもありました。どこからか石が飛んできて王様のマントをかすめて地に落ちました。それを合図に一斉に動物たちが迫ってきたのです。
「クオオーン!」
森の王フケが雄たけびを上げ、ふらつきながらも足を伸ばして立ち上がりました。動物たちは一瞬その場で固まってしまったのです。
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動物たちの輪の中に、森の王フケが座り、その前にスケール号の仲間たちが座っていました。スケール号が光を発して森のドームは光の玉のように見えました。動物たちの影が放射状に延びて森に消えています。バリオンの王様が今起こっているストレンジの危機を話して聞かせ、森の王が動物たちに知らせるというやり方で、動物たちはすっかりおとなしくなったのです。
ストレンジの姫君を救いに来たという話を聞いて、動物たちのあちこちから歓声が上がりました。ストレンジの姫君は動物たちに大層慕われていたのです。そしてぴょんたやぐうすか達には、感謝の合唱が起こりました。
ストレンジでは人間と動物は互いに協力しあっていました。互いの能力を生かしあって暮らしていたのです。
森の王がそんな話を始めました。
それを我々に教えてくれたのがストレンジの姫君だった。それまでは人間との間でいさかいもあったが、姫君のおかげで共に生きる良い国となったのだ。その姫君の姿が城から消え、人間が凶暴になってしまった。と森の王フケが語りました。その話はバリオンの王様の話とよく符合して大いに盛り上がりました。
魔法使いチュウスケはネズミの姿をしている。人間たちが凶暴になった元凶がネズミだと聞いて、動物たちが口々に囁き合い、そのサワサワ声が波となって森の中に広がっていったのです。
「姫君は王宮のどこかに閉じこめられている。王は逃れて山中に潜んでいるのだ。魔法からかろうじて逃れた王軍に守られて、姫君の救出作戦を始めているという。その王を探し出し、私はこのスケール号と共に姫君の救出作戦に参加するためにやって来たバリオンの王だ。ストレンジ王の居場所を知りたい。」
バリオン王の話を聞いて、白鹿はヒューと高い鳴き声を上げました。すると動物たちが互いに顔を見合わせてざわつき始めました。しばらくざわめきが続いていると、森の方から数羽の小鳥が飛んできました。そして小鳥たちは森の王の立派な角に止りました。小鳥たちは我先にさえずり始めたのです。押し合って、落ちそうになって羽ばたいて、遠くから見ると蝶が舞っているように見えました。しばらくして森の王がバリオンの王様に向かって言いました。
「それはこの者たちが知っている。」
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