七、ブラックホールからの脱出
静かだった原子の空間に激しい変化が起こったのは、食事を終えてくつろごうとしたその時だった。
原子のひしめく空間が突然激しく動き始めたのだ。原子はまるで波打つように揺れ動き、それぞれが勝手気ままに動き出した。光の点滅が全天で花火のように始まった。
手をつないで原子をつくっていた素粒子たちが一斉に手をはなし、てんでバラバラに動き . . . 本文を読む
スケール号は原子よりも小さな素粒子より、もっと小さな体になっている。そう、スケール号は今、素粒子の上に着陸できるほどの大きさなのだ。
そこから見る 原子は宇宙に浮かぶ太陽のようだ。自分の大きさを変えることで同じ物でも全くちがった世界に見える。この不思議な出来事もスケール号の乗組員達にはもう慣れっこになった。
その太陽原子が、次々と揺らめいて素粒子を手放し、空は、好き勝手に飛 . . . 本文を読む
八、ピンクの銀河
長老シリウスが指し示した方向の、はるか彼方の宇宙にピンクの銀河がある。スケール号は真っすぐ、ピンクの銀河に向かって、宇宙を飛び続けている。
ピンクの銀河がどれだけ遠いのか誰も分からない、しかし何としてもピンクの銀河にめぐり会わなければならないのだ。それが神ひと様に会うための道だと、長老シリウスは言ったのだった。
「いつにな . . . 本文を読む
スケール号はどこまでも広がっている暗黒星雲の中にはいって行った。光はどこからもやって来なかった。真っ暗な闇がスケール号を包んだ。ブラックホールに落ちた時とは違って、周りに星らしきものは見えない。かといって、原子の宇宙のように何もない闇ではなかった。ゆっくりとしたガスの流れがその中心に向かって流れている。世界に大きな変化はなく、すべてがゆったりと落ち着いている。
「ハハ~ハ . . . 本文を読む
博士の目からは、もう涙は出ていなかった。その代わりに、腕を組んで考え深げな表情をしている。
「もう一度、みんなに聞きたいんだが、」
「何でしょうか。」
「この気持ちを、一言で言い表すとしたら、どんな言葉が浮かんでくるかね。」
「さあ、言葉ですか。」ぴょんたが考え込んだ。
「考えてはだめだよ。瞬間に思いつく言葉でなけりゃだめなんだ。」
「ゆりかごでヤすな . . . 本文を読む
「えっ」
「ここは母親の胎内なのだ。」
「だから、つまり、何ですか。」
「つまり、この暗黒星雲を取り巻いている巨大な銀河がこの星の赤ちゃんの母親なのだ。」
「と言うことは、この大きな暗黒星雲でも母体のほんの一部だと言うことなんですね。」艦長が目を丸くして聞いた。
「そういうことだ。我々はすでに母体の中にいるのだ。」
「もしかして、それがピンクの銀河ではない . . . 本文を読む
九、宇宙の勇者
「スケール号ですね。」
スケール号の翻訳スピーカに、突然優しい女性の声が聞こえて来た。スケール号の面々はびっくりして身を固くした。予想も出来ない声だった。
「あなたは、ピンクの銀河ですか。」艦長が緊張して答えた。
「わたしはメルシア、あなた方の探していたピンクの銀河です。」柔らかくゆったりした声だ。
「メルシアと . . . 本文を読む
十、 チュウスケ
パルサー星と共にブラックホールに飲み込まれたチュウスケは、巨大な重力によって一瞬のうちに押し潰されてしまった。
「チュくしょうー!」
「チュくしょうー!」
チュウスケの体はブラックホールの中で、一生外に出られないかに見えた。
ところが、チュウスケは魔法使いだった。チュウスケの姿は、魔 . . . 本文を読む
十一、赤ちゃん星
スケール号は暗黒星雲の入り口にいた。
艦長の意識が集中して高まり、その一瞬、スケール号はピンクの銀河、メルシアの前から、メルシアのおなかの中にある暗黒星雲に縮小しながら移動したのだった。
乗組員達は軽いめまいを起こしている。まだこの瞬間移動に慣れていないのだ。
それにしても、 . . . 本文を読む
一二、最後の決戦
ある日、それは突然のことだった。赤ちゃん星が育っている暗黒星雲の中に、想像すらしなかったブラックホールが出現したのだ。気が付いたときには、ブラックホールは恐ろしい勢いで、暗黒星雲のエネルギーを吸い込み始めていた。
ブラックホールはいくら食べても満腹しない亡者のように、赤ちゃん星のために必要なエネルギーを吸い込み続け、ついには赤ち . . . 本文を読む