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齢を重ねてやっとわかった名画の佳さ・・・黒澤明監督作品「生きる」

2025年03月20日 07時34分11秒 | 記録しておきたいヒト・モノ・本・映画
黒澤明監督作品「生きる」を初めて観た十代の時は、スゲー!と圧倒された。
壮年期になると、若いころの黒澤が多用していた「対局法」なる演出が鼻につき、気恥ずかく感じた。「対局法」とは戦前のソ連映画「狙撃手」で主人公が死んだ時に明るい音楽が流れている場面にヒントを得た黒澤独自の演出で、例えば絶望した登場人物が賑やかな街を孤独に歩くといった場面につかわれていた。
 
が、親族や友人知人が亡くなっていく年齢になった今観ると、素直に没頭できるし、志村喬の深い演技に感情移入できるようになっていた。
亀の甲より歳の功というヤツ。
病院の待合室で頼まれもしないのに「単なる胃潰瘍と診断され・・・好きなものを食べていいと言われると危ない・・・まぁ持って半年!」と解説して、主人公をビビらせるオジサンを渡辺篤が嬉々として演じていて笑わせる。浅草オペラ出身のコメデイアンで、クロサワ映画ではコメデイリリース役の常連俳優だ。
 
一場面ごとに絵画として成り立つような映像の完成度の高さは無論だし、黒澤組の役者たちが適材適所で物語に欠かせない役割でいい味を出しているのは、練り上げた脚本の妙。
この映画の主人公は胃癌に侵された無気力な中年男を演じる志村喬でも、葬儀の席で脇役たちが、余命を知ってからの主人公が「どう生きたか」を証言しあって人物像が浮かびあがっていく群集劇となっていく所が素晴らしい。
胃癌で死期が近いことを知った志村演じる主人公が、うらぶれた居酒屋で伊藤雄之助演じる黒づくめの文士と出逢う場面に唸った。クロサワ映画では「椿三十郎」では悪者に監禁された見識のある家老役として、最後にだけニコニコ顔で登場してきただけで笑わされてしまい、場をさらった演技派俳優。
馬面の伊藤雄之助が美男子に写っていることにも驚いたが、このキャラクターと逆光を多用したカメラワークは、ベイルマン監督作品「魔術師」に影響を与えているのではないか?
 
黒犬が居酒屋にはいってくる場面も、フェリーニの「カリビアの夏」で真夜中の石畳の街路を、意味もなく馬が歩いていく場面は、「生きる」へのオマージュではなかろうか?
「カリビアの夜」と同じくフェリーニ作品「道」でも、主演のジュリエッタ・マシーナは絶望のどん底で大きな目に涙をいっぱいためて微笑み、深い哀しみや諦観を表現した。大好きなイタリア女優。
 
ネット検索したら直接的な影響はわからなかったが、二人とも黒澤さんに多大な影響を受けていたようだ。
 
しかも撮影時の志村喬の実年齢が47歳ということも判明。余談だが「東京物語」の笠智衆は70歳過ぎに見えるのに、撮影時は47歳!
 
もうこんな映画は撮れないですなぁ。