温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

岩間噴泉塔群(その2 純白な石灰華と野湯)

2012年10月28日 | 石川県・福井県
前回記事「岩間噴泉塔群(その1 噴泉塔を見に行く)」の続編です。



噴泉塔群から引き返して登山道へと戻る。実は往路で登山道を河原へ向かって下っている時、河原に出るちょっと手前の右側に、なにやら怪しい踏み跡を発見していたので、そこを探検してみることにした。



踏み跡を入ってゆくと、やがて左手に小さな沢が現れた。沢からは湯気が上がっており、触ってみると入浴したくなるような温度だった。


 
さらに沢に沿って斜面を上がってゆくと、いかにも入浴してくださいと言わんばかりの湯溜まりを発見したのだ!
明らかに人為的に石を組んで温泉の沢を堰き止めて造った湯溜まりなのだが、こんなものがあるとはつゆ知らず、感激のあまりその場で思わず歓喜の雄叫びを上げてしまった。


 
すぐに湯溜まりで入浴したい衝動に駆られたが、私の第六感が「さらに上流を目指せ」と指令するので、湯浴みは後回しにし、3点支持しながら岩や滝をよじ登って、温泉の沢を遡っていった。



なんと沢の最上流部には、幅10メートルにわたって熱湯を噴出しているトラバーチンが形成されていた。



中でも目を惹いたのがこの純白な石灰華である。混じりけの無い白さはまさに神秘的だ。トルコのパムッカレはもちろん、ハンガリーのエゲルサロークにも遠く及ばないほど小規模なものだが、純白の度合いだけは十分に肩を並べることができるだろう。こんな美しい自然の造形が人知れず存在しているのだから、日本の自然もまだまだ捨てたもんじゃない。当地に関する各種案内にはもちろん、ネット上でもほとんど紹介されていないこの純白石灰華を偶然にも発見することができたことは、幸運以外の何物でも無いだろう。人生の運の数ヶ月分の運はここで一気に費やしてしまったかもしれない。
(後日ググってみたら、なんとAll Aboutで最近取り上げられていたことが判明した。こちらがその記事)



純白の石灰華塔から湧き出る温泉の温度を計ってみると、70.8℃であった。


 
沢を下りて再び先ほどの湯溜まりへと戻ってきた。
両白山地の紅葉を一望する絶景の露天風呂だ。こんな素晴らしいロケーションの野湯は、他ではなかなかお目にかかれない。


 
温泉の沢を堰き止めているこの湯溜まり。湧出部では70℃以上あった温泉も、ここまで流れ落ちてくる間に十分に冷め、42.3℃と絶妙な湯加減になっていた。これを天の恵みと言わずして何と申そうか。



というわけで、我慢できなくなって入浴することにした。
お湯は無色透明でほぼ無味無臭だが、やや石膏系の甘みが感じられ、また微かな収斂も帯びているようだった。一方、意外にも硫黄感はほとんど感じられなかった。底には砂や泥が堆積しているため湯船としてはちょっと浅めであり、また入浴時にはそれらの沈殿物が舞い上がるために、入りしなはお湯が濁ってしまうが、しばらくすれば再び沈殿して元通りの透明なお湯に戻ってくれる。最高の湯加減と素晴らしい眺望にしばし恍惚となった。
この湯溜まりは造られてまだ間もないのか、石組みがまだしっかりと安定しておらず、ちょっとでも沢が増水すればたちまち崩れてしまいそうな脆さが見て取れたが、手頃なサイズの石ならそこらにたくさん転がっているので、もし流されちゃったとしても、この場で再び石を組んで堰き止めれば、再度野湯を楽しむことができるかもしれない。

天然記念物の噴泉塔はもちろんだが、神秘的な美しさで私を魅了した純白の石灰華、そして山の紅葉を一望できる絶景野湯、いずれも非常に素晴らしく、わざわざ遠路はるばる当地までやってきた苦労は十二分に報われた。

ちなみに帰路は谷底の河原から元湯まで僅か30分で到達できてしまった。標準タイムは60分だから、何と半分である。しかも下りの往路(38分)より8分も早かったのだ。下りより登りの方が早いとはどういうことなのか。素晴らしい自然美と野湯のおかげで、九十九折れの勾配も軽々と登ることができたのかもしれない。


※今回の記事の内容に関して、湯溜まりや石灰華の場所の特定は控えさせていただきます。なお国土地理院の地図にもこの沢や温泉に関しては載っていません。

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岩間噴泉塔群(その1 噴泉塔を見に行く)

2012年10月27日 | 石川県・福井県
残暑の厳しかった今年もようやく本格的な紅葉シーズンとなり、各地の山々は錦秋の装いを纏って観光客の目を楽しませてくれていますね。先日はそんな紅葉を愛でつつ、一度は自分の目で実物を見てみたかった石川県白山市の山奥にある国の天然記念物「岩間噴泉塔群」までハイキングしてまいりました。

訪れた時期は2012年10月下旬某日、いつものように単独行です。ルートとしては、今年の初夏に7年ぶりの復活を果たした「新岩間温泉・山崎旅館」の前で車を止め、その場で折りたたみ自転車を組み立てて、ゲートを越えて林道を岩間温泉元湯まで進み、元湯前のトイレ兼避難小屋で自転車をデポ、そこから先へ伸びる登山道を歩き、高低差200mの下りを一気に下りて河原へと向かいました。
今回は画像が多くなってしまうので、記事を2回に分けて投稿します。まず初回はスタートから噴泉塔までの道のりについてです。


 
【11:00 新岩間温泉・山崎旅館 (地図)
絶好の行楽日和。スタート地点となる山崎旅館前にはトイレ(チップとして100円を寄付)や無料の駐車場が整備されている。噴泉塔から戻ってきた後はこの旅館に宿泊するので、私は宿前の駐車場を使わせてもらった。ここで車から折りたたみ自転車を取り出し、その場で組み立てる。


 
【11:05 ゲート通過】
駐車場前には一般車の通行を阻止するためにゲートがあるので、その脇の歩行者用通路を通って先へ。


 
工事用車両が通行する道なので車1台が通れる幅員があり、景色も良いため、ハイキングには最適。でも緩いながらもひたすら上り勾配が続くため、運動不足の私は数分で息が上がって自転車を漕ぐことができなくなり、元湯までの行程の7割近くは自転車を手で押しながら歩くことになった。はるか下の谷底には手取川の上流にあたる中の川が流れている。


 
途中何カ所かで落石注意の看板に遭遇。切り立った崖を切り拓いて造った道なので、実際に落石は多いのだろう。また比較的新しい塔のような施設も2~3ヶ所ほど立っていたが、これは国交省が河川監視をするためのものだろう。下流の手取川はしばしば災害をもたらす暴れ川である。


 
元湯の手前では崖にコンクリを吹き付けて落石や土砂崩れを防ぐ工事が行われていた。この工事箇所だけ、やけに道路が立派だった。



【11:37 岩間温泉元湯 (地図)
工事現場付近から徐々に中の川の谷と離れてゆき、霞滝の上流部の沢と並行してしばらく進んでいたら元湯に着いた。新岩間温泉のゲートからこの元湯までは標準タイムで50分だが、僅かながら自転車を活用できたためか、30分で到達することができた。屋根にソーラーパネルを装備しているこの避難小屋は比較的新しくて立派な造りをしており、トイレも兼ね備えている。また目の前はちょっとした広場となっており、ベンチも設けられていた。小屋の前に自転車をデポする。


 
元湯といえばこの無料の露天風呂だが、ひとまずここは後回しにして先へ進む。路傍には温泉卵をつくる枡が用意されており、直に触ったら確実に火傷しそうなほど熱い温泉が注がれていた。


 
【11:38 登山道スタート】
ベコベコになった標識が地面に立てかけられていた。ここからは急に本格的な登山道となる。ここから噴泉塔までは約2km。


 
すぐに白山室堂方面への登山道「岩間道」が分岐する。今年になって再整備が行われるようになったらしく、手書きの道標もステップの土留めもまだ真新しい。室堂まで12kmとのこと。


 
噴泉塔への道もつい最近までは手入れされずに荒れ放題だったらしいが、今年になって山崎旅館が復活し、それとともにこの道も再整備されるようになったそうだ。一部に滑りやすい箇所があるものの、トレッキングシューズを履いていれば問題なく歩けるコンディションであった。


  
紅葉が始まった山々を眺めながら軽快に歩く。多少の上り下りはあるものの、大概的には等高線をトラバースしていると表現しても差し支えないようなルートである。元湯から山をグルっと巻いて再び中の川へと近づいてゆく。


 
途中で古くて滑りやすい木道があったり、文字板が剥がれて杭だけになってしまった標識に遭遇する。


 
【12:00 一気に川へ向かって下りはじめる (地図)
この段の地点から、標高差約200mを九十九折の道で一気に急降下し、中の川の河原へと向かう。


 
下る区間は意外と長い。帰路にはここを登るわけで、そのことを考えるとちょっと憂鬱になる。



河原へ近づくと、山の斜面には苔に覆われながら温泉を湧出させている小さい石灰華があった。



【12:16 河原に到達 (地図)
断崖絶壁の直下に広がる河原まで下りきった。なお一部の地図には当地点に「白山一里野県立自然公園」が存在するような表記がなされているが、実際にはそんなものなんて無い。ただ険しい谷があるだけだ。


 
【同時刻 旧噴泉塔】
登山道が河原に到達する地点には、かつて勢いよく熱湯を噴出していた噴泉塔の跡(石灰華塔)があり、現在は噴出こそしていないが、絶えず大量の熱湯を湧出させている。温泉ファンなら誰しもが歓喜するであろうこの光景を目にして、早くも私は興奮状態になった。


 
湧出孔に温度計を突っ込んでみたら85.6℃であった。


 
その熱湯は川の左岸の崖下を流れて、温泉の川を形成している。画像に写っているカスタードクリームのような色をしている部分がその熱湯の川だ。ここでも温度を計測したが62.7℃とかなりの高温であるため、とてもじゃないが入浴はできない。



熱湯の川は触れない程熱いまんま中の川の本流へと合流してゆく。合流地点でうまい具合に熱湯と川水をブレンドさせれば野湯を楽しめるかもしれない。


 
【12:25 徒渉】
現役の噴泉塔は、ここから更に下流へ200m進んだところにある。しかしそこへ行くためには一旦川の対岸(右岸)へ渡らねばならない。熱湯の川が合流する手前でちょうど川が浅くなっている箇所を見つけたので(身長165cmの私でちょうど膝丈ぐらいの深さ)、靴を脱いでトレッキングパンツを膝上までたくしあげ、切れるような川水の冷たさに堪えつつ、足下を確認しながら慎重に対岸へと徒渉した。今回は秋の晴れた日ゆえに水量は少なかったが、春の雪解け時や夏の増水時はそう簡単に徒渉できないだろう。それにしても谷の両側、特に右岸上部の断崖絶壁はほぼ垂直に切り立っており、その高低差は数百メートルにも及ぶだろう。ただただ圧倒されるばかりだ。



右岸を歩くこと5~6分。川の流れが左へ右へと大きくS字を描きながらカーブするところまで行くと・・・


 
【12:32 岩間噴泉塔 (地図)
川の左岸の絶壁直下で、噴泉塔が勢いよく熱湯の飛沫を吹き上げており、その飛沫は対岸のこちらまで届くほどであった。なお国土地理院の「ウォッちず」で当地の地図を見ると、噴泉塔群を示す景勝地の地図記号の両側に温泉マークがひとつずつ並んでいるが、実際の噴泉塔は左側の温泉マークの位置にあたる。この温泉マークの位置はかなり正確なのだが、しかし地図上に見られる破線の登山道はここまで伸びていない。冷たい川を徒渉してこないとこの光景は見られないのだ。


 
噴出している部分を拡大してみた。噴泉塔は常に同じ勢いというわけではなく、私が見学していた10数分のうちでも、足下まで飛沫が達するときもあれば、川の途中までしか届かないときもあり、強弱の波が短いスパンで繰り返されるようだ。



動画も撮影した。噴出の様子がおわかりいただけるだろう。


 
 
噴泉塔をはじめ、対岸(左岸)の崖一帯では温泉が連続して湧出しており、石灰華の上に苔がびっしりと生えて覆っている。この光景をどこかで見たことあるなと脳味噌の引き出しを引っかき回してみたら、北海道の岩間温泉が思い浮かんだ。偶然にも同じ名前であるが、いや、北海道の方はこちらの岩間温泉に倣って名付けられたのかもしれない。苔と石灰が織りなす色彩美は自然が生み出す芸術である。


 
富士山のような形状をしたミニ噴泉塔もあり、山の噴火口に当たる部分では煮えたぎった熱い温泉を頻りに辺りへ飛び散らしていた。


噴泉塔付近の見所はこれだけではなかったのであります。
次回に続く。
コメント (5)
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