温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

焼津温泉 元湯なかむら館

2023年07月04日 | 静岡県

(2022年7月訪問)
静岡県の温泉といえば、その多くが伊豆半島に集中しています。静岡市など県の中央部にも温泉は点在しているものの、寸又峡温泉以外は温泉地として確立されていないような気がしますが、意外にも温泉資源が豊富なところとして挙げられる県央部の街が、マグロの水揚げで有名な焼津市です。
焼津駅を中心に市街地には複数の温泉入浴施設があり、どの施設でも同一源泉を引いて浴用などに供しています。例えばJR焼津駅の南口ロータリーには温泉の足湯があり・・・


しょっぱいかけ流しの温泉で足湯を楽しむことができます。


足湯には焼津の温泉について詳しく説明されている他、焼津の温泉に入れる施設もリストアップされています。
そこで今回はこの中から「元湯なかむら館」を訪ねることにします。


駅北口にまわって4~5分歩くと到着です。以前は渋い佇まいでしたが、リニューアルしてモダン和風の綺麗な建物に生まれ変わりました。館内にはカフェレストランもあり、ランチ等で利用することも可能です。
なおこの建物の右側には源泉に関するちょっとしたものがあるのですが、それについては後述します。

入館して受付カウンターにある小さな券売機で料金を支払い、お風呂がある右側の棟へ移動します。
なお右側の建物の1階が浴室で2階は休憩室です。脱衣室にはエアコンが完備されており、少々コンパクトであるものの快適に着替えることができました。


(公式サイトより画像を借用しております)
お風呂も全体的に小ぢんまりしていますが、濃淡のコントラストをはっきりさせたモノトーンの色調はいかにも現代的なインテリアデザインといった感じで、明るさとシックさを同居させることで気持ち良く湯あみができるかと思います。ただ実際のスペースだけは色調で如何ともしがたく、男湯の場合は浴室に入ると右手に洗い場があるのですが、水栓を無理やり5個並べているため、かなり窮屈です。男性が同時に洗い場を使う場合は3人が限界のような気がします。なお洗い場には石鹸やシャンプー類などの備え付けはありませんので、受付で購入するか、予め持参しておきましょう。

浴槽は内湯と露天があり、上画像は内湯の様子。ダークグレーのタイル張りで、その大きさは(目測で)2.5✕4メートルほどでしょうか。左の壁側にある湯口から落とされた温泉は、湯船を満たした後、奥の方へオーバーフローしていました。


露天風呂の浴槽もほぼ同じようなサイズ感ですが、内湯より若干小さいかもしれません(おそらく5人は同時に入れる大きさかと思われます)。内湯浴槽は奥へオーバーフローしていましたが、この露天風呂では湯口が奥に位置している関係で、手前側へオーバーフローしています。
市街地の中にあるため、さすがに周囲の景色を眺めることはできず、周りを黒の高い板塀で囲って目隠ししていますが、塀の上から入りこんでくる風で火照った体をいくらかクールダウンすることができました。

お湯は無色透明で、強いしょっぱさの他、苦汁のような味も含まれており、その強い塩分ゆえに、入浴すると体が力強く火照ります。冬には体の芯までしっかり温まりますが、夏は逆上せやすいので長湯しないよう気を付けた方が良いでしょう。なお匂いなどは特になく、湯中では食塩泉的なツルスベと、カルシウムの存在を思わせるキシキシ感が拮抗して肌に伝わりました。

この「なかむら館」のお風呂で素晴らしい点は、源泉温度50度以上で供給される温泉を、加水することなく、湯船へ投入する湯量を加減することによって温度調整し、完全かけ流しを実現しているところです。焼津地区の各温泉施設は大なり小なり循環させたり加温加水を行っているのですが、純然たるかけ流しはおそらく「なかむら館」だけではないでしょうか。供給量には限りがありますし、その中でかけ流しを実現するためには、いろいろと困難があるかと思いますが、たとえばお風呂の小ささもお湯の良さを活かすためなのだ、と思えばむしろ納得すらします。焼津に来たら是非とも一浴すべきお風呂です。


さて、冒頭でも申し上げましたように、焼津温泉では各施設が同じ源泉を引いているのですが、上画像はその源泉施設であり、ここから各施設へ温泉が供給されています。注目すべきは源泉を所有している企業の名前。その名は東海ガス。

以前から焼津では掘削により温泉を汲み上げていましたが、源泉井戸を掘るたびに湧出量が年々減少する傾向にあるため、当地では抜本的に問題を解決する新しい源泉井戸の掘削が求められていました。そこで開発された源泉井が上画像の「焼津港1号井」。2021年10月に稼働を開始し、日量1000トンの温泉が地下1500メートルから自噴しています。この豊富な湯量によって市内各施設へ安定した温泉供給が実現できたのですが、この温泉と一緒に上がってくるのが純度の高いメタンガスです。静岡県の焼津市や藤枝市など、旧志太郡エリアを中心にして都市ガスを供給している東海ガスは、このメタンガスを都市ガスとして地域へ供給する事業を始めました。まさに温泉とガスの地産地消。
なお温泉や鉱泉を汲み上げると天然ガスが伴ってくることがしばしばあり、そのガスを都市ガスとして利用する例は、当地の他、千葉県、新潟県などでも見られます。


こちらは源泉施設内部の様子。
中央に高い円塔が写っていますが、これは温泉が上がってくるパイプを内包した施設で、高さは約10m。地下からメタンガスと共に噴き上がってくる温泉が天板にぶつかることによって、温泉は下へ落ち、比重の軽いガスは上へと分離されるんだそうです。


施設の外側には数本のホースが付いた水栓があり、その根元は耐熱塩ビ管に接続されているので、もしかしたら蛇口を捻ったら温泉が出てくるのではないかしら、と淡い期待を抱きながら蛇口を開けてみたのですが、この時は何も出てきませんでした。おそらく元栓を開ければ温泉が出てくるのでしょう。


焼津温泉の源泉施設は、今回紹介した「なかむら館」の右手にもあり、私は画像を撮り忘れてしまったのですが
グーグルストリートビューで確認すると、ちゃんと「50号井」と書かれているのがわかります。焼津市街地には意外にも源泉井が点在しているのですね。


焼津港1号井
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 52.4℃ pH8.6 604L/min(掘削自噴) 溶存物質16270mg/kg 成分総計16270mg/kg
Na+:3533mg(53.17mval%), Ca++:2681mg(46.29mval%),
Cl-:9878mg(99.58mval%), Br-:36.1mg, I-:5.5mg, HS-:0.2mg, CO3--:13.1mg,
H2SiO3:28.5mg, HBO2:23.7mg, H2S:0.01mg,
(令和3年1月20日)

静岡県焼津市駅北1-14-7
054-628-4397
ホームページ

10:00~20:00(受付 19:30まで) 水曜定休
450円
ロッカー・ドライヤーあり、シャンプー類なし(購入か持参)

私の好み:★★★
コメント
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