(2022年7月訪問)
私は全国津々浦々の温泉巡りを趣味としているので、北から南までいろんなところを訪ねてきましたが、訪問先はどうしても温泉資源が多いところに偏りがちなので、私とはあまりご縁が無い地域も結構あります。静岡県の旧榛原郡や旧小笠郡の両エリアはその典型であり、通過することはあっても、このエリアを目的とすることはほとんどありません。端的に申し上げれば私好みの温泉浴場がほとんど無いからです。しかしながら、よく調べてみたら「源泉かけ流し」を謳っている施設が営業しているらしいので、静岡県中部へ出かけた際に、ついでに立ち寄ってみることにしました。
東名高速を相良牧之原インターで下りて国道473号線に入り、日本屈指のお茶どころである牧ノ原台地を車で南下してゆくと、やがて今回の目的地である「さがら子生れ温泉会館」に到着します。
「子生まれ」という不思議なワードに興味を引かれますが、この温泉が子宝に恵まれる泉質だという意味ではなく、隣接する大興寺という古刹にある不思議な石を指しているそうで、裏山にある砂岩の崖から丸い小石が出臍のようにピョコっと出ては落下することが、初代住職から現在のご住職に至るまで29代続いているそうです。あたかも子供が生まれ出るかのように抜け落ちるため、子生れ石と名付けられて信仰を集めているんだとか。
競輪場のバンクを半分に切ったような形状をしている小洒落た建物で、その意匠を見れば結構なお金をかけて作ったんだろうなということは容易に想像できますが、それもそのはず、浜岡原発の電源立地交付金で建てられているのでした。
半円形の建物中央に玄関があり、その左手には物販やマッサージ、そしてレストラン、右手には休憩室やこれから利用する温浴ゾーンがあります。
下足箱に靴を預け(その鍵は自分で保管)、券売機で料金を支払って、入浴券を受付へ渡します。その際に半券を返してくれるのですが、この施設は4時間制なので、退館時に入館時刻が印字された半券を提示して、利用時間を確認しています。なお4時間を超えると超過料金が発生します。
施設内には大浴場の他に家族風呂もありますが、今回は大浴場のみの利用です。
丸い建物を右へどんどん進むと、その途中に浴場入口があります。新しい建物なので全体的に綺麗で明るく快適です。白色基調の内装で統一された更衣室には100円リターン式ロッカーがたくさん設置されているほか(予め100円玉を用意しておきましょう)、洗面台にはドライヤーが3~4個も用意されているので、使い勝手が良く便利です。
(浴場内の画像は公式サイトから借用させていただきました)
大浴場には「萩の湯」と「愛鷹の湯」があり、訪問日に男湯の暖簾がかかっていたのは「萩の湯」でした。このため、本記事では「萩の湯」について述べさせていただきます。
丸い建物の外縁部に位置している浴場は、屋根の全面が木材で造られ、壁には石を使っており、外側は全面ガラス張りで大変明るく、窓のサッシも縁が黒いので、屋根などの木材と相まって締まって見えます。天然素材を多用することで自然且つ落ち着いたシックなデザインです。
浴場へ入ったところには真湯の掛け湯が設置されているので、まずはこのお湯を肩から全身へ掛けます。洗い場にはシャワー付き混合水栓計15個並んでおり、シャワーの水圧は良好で、ボディーソープなどもちゃんと備え付けられています。
内湯の浴槽には、入浴剤が入れられた変わり湯と、小さな源泉かけ流し浴槽、源泉風呂、水風呂、そしてサウナが設けられています。サウナはここでも大変人気を博しており、玉のような汗をかいたおじさんお兄さんが出たり入ったりを繰り返していましたが、私の心を惹いたのはサウナでなく、勿論「源泉かけ流し浴槽」です。このかけ流しの浴槽では当然ながら循環はしていませんが、源泉温度の関係で加温されており、また消毒の行った上でお湯をかけ流しています。このためお湯から消毒臭がしっかり漂ってくるのですが、これは致し方ないところでしょう。ただ、加温しているとはいえ、比較的抑制的な加温であり、私の訪問時は37~38℃という長湯仕様だったため、湯船に浸かった私はついつい微睡んでしまいました。大変気持ち良いお風呂で、特に夏は最高でしょう。惜しむらくは浴槽が小さく、3人しか入れないこと。タイミングによっては源泉かけ流し浴槽になかなか入れないことがあるかもしれません。
「源泉かけ流し浴槽」の隣には、内湯の主浴槽である「源泉浴槽」が並んでおり、その大きさは目測で6m×3mほど。加水こそされていませんが循環・加温・消毒が行われており、湯加減も40~41℃という一般的な温度となっています。隣のかけ流し浴槽から溢れたお湯が、この「源泉浴槽」へ流れ込み、「源泉浴槽」を満たした後はオーバーフロー管を流れて排水(循環?)されているようです。
なお「源泉かけ流し浴槽」や「源泉浴槽」など内湯の浴槽は、共通して縁に木材が用いられており、内部は左官仕事と思しき人研ぎ石のようなザラザラした仕上げになっています。
露天風呂の浴槽は2つの正方形の角を重ね合わせたような形状をしており、部分的に屋根が掛かっています。浴槽のキャパは6人前後といったところでしょうか。露天風呂は内湯の「源泉風呂」と同じく加水のない源泉100%ながら加温・循環・消毒はしっかり行われており、浴感も内湯とほぼ同じです。
周囲は塀に囲まれていますが、囲まれた内側の庭がそこそこ広く、湯浴みの途中に利用できるベンチもあるので、周りの緑や静かな環境に囲まれながらの落ち着いてのんびりと湯あみすることができました。なお露天を囲む白い壁には子生まれ石をモチーフにしたと思しき石が数個埋め込まれており、出臍のように丸い石がぴょこっと塀から出ていました。
さてこちらのお湯についてですが、牧之原台地の中央部という立地でありながら、意外にも海水を思わせるような濃厚な食塩泉で、塩分が濃くてしょっぱいのが特徴的です。前回記事で取り上げた川根温泉も同様にしょっぱいお湯でしたが、川根温泉のように色付きなどは無くて湯の花も見られない無色透明である一方、川根温泉と同じくメタホウ酸が多い点は特筆すべき特徴でしょう。かけ流し浴槽を含め、源泉を使用している浴槽は全て加水が無く、どの浴槽からもツルスベの滑らかな浴感がしっかり得られます。冒頭で申し上げたようにこのエリアは温泉不毛地帯なので、消毒されているとはいえ掛け流しの浴槽が存在すること自体、大変貴重であり評価したいと思います。また綺麗で使い勝手も良いため、かけ流しにこだわらなくても利用価値は高いと言えるでしょう。
相良温泉 相良1号
ナトリウム-塩化物温泉 27.4℃ pH8.0 49.6L/min(掘削動力揚湯) 溶存物質9.301g/kg 成分総計9.301g/kg
Na+:3320mg(97.42mval%),
Cl-:4715mg(90.43mval%), Br-:60mg, I-:7.8mg, HCO3-:849.5mg(9.46mval%),
H2SiO3:25.6mg, HBO2:294.7mg,
(平成27年10月13日)
静岡県牧之原市西萩間672-1
0548-54-1126
ホームページ
10:00〜21:00 第2火曜・大晦日・元日定休
620円/4時間
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★