た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

全集の罪

2005年05月19日 | essay
 古本を大量に譲り受けた。
 空き地に積み上げられ、古紙に出される直前で、偶然そこを通りかかった私の手に渡ったのだ。
 元の持ち主から依頼されて搬出した大家さんは、喜んで本の選別と抜き取りを手伝ってくれた。
 詩集、画集、地理図鑑、百科事典。
 「どんどん持ってってよ。もったいないもんねえ。いい本がこんなにあるのよ」
 「古本屋に持ち込めば多少の金にはなるでしょうに」
 「それが駄目なんだって。今出版は不景気でしょ。在庫が溜まるだけだって」
 「へえ。そんなもんですかねえ」
 よく見ると、全集はどれもわずかな一部が欠けていた。それで古本屋も価値なしと判断したのだろう。
もらっておきながら、少々腹が立った。こういう全集を好景気のころ、無計画に大量生産した出版社に腹が立ったのだ。
 全集は一冊でも欠けると一気に価値を喪失してしまう。本当はそんなことはないと思うのだが、はなからそういう体裁の商品であり、当然ながら一般消費者にも広くそう認識されている。
 そこが何か、全集に収められた個々の芸術作品や学術作品を冒涜しているようで、私は気に食わないのだ。
 本の埃を一冊一冊拭いて日に干す作業中、その腹いせではないが、そんなことを考えた。(写真とはぜんぜん関係ないなあ。)
コメント
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