ある焼き鳥屋が、食中毒を出した。
これで二回目だ。
当然、営業停止になるわけだが、この辺は保健所も、
普段うるさい割にはゆるく、二度目と言えども三日程
度の期間である。
今回の場合、たまたまなのか、日常的に不備があるの
か、はたまた扱いに問題があったのか、よく知らない
が、悪質な場合を除いて、可能性としてはどこでもあ
りうることである。
いずれにしろ、店にとっては打撃であることにかわり
はない。
というのも、この店は、移転して新規オープンしたば
かりなのだ。
しかい、以前の店が流行ってなかったわけではない。
むしろ、人気の店であった。
ところが店主は、その規模の小さい点が不満であった
のだろう、大きい店にするために移転オープンを考え
た。
そして、食中毒だ。
オープンして二ヶ月でこの事態。
経費もかかるだろうし、何だか止めの一発という感じ
である。
一般的に焼き鳥屋のイメージは、小さな店舗で煙に包
まれむさぼるというものだが、それがまた魅力的でも
ある。
大きな店舗で、辺に洒落た内装は、むしろ馴染まない
と思う。
焼き鳥屋の風情というものは、そういう店では味わえ
ない。
前の店は、その点、ロケーションも良く(一軒家で、
周りは飲み屋街ではなく、ちょっと静かなところ)、
赤提灯的焼き鳥屋とも違い、ゆっくり味わえるなかな
か雰囲気のある店であった。
味も悪くなかった(比内地鶏だと思ったが)。
それで充分だと思ったが、店主が変な野心を持ってし
まったというわけだ。
繁盛した店が、店舗を広げた場合、殆どは質が落ちる。
これは、チェーン展開でも同じだが、そうした時点で
方針が質より量に変更したことを意味するから、内容
が良くなるわけがないのだ。
有名店で(いくつも支店のある)でいい店がないのは、
実に当たり前のことである。
職人が実業家になる瞬間だ。
それで成功すると、マスコミなんかで若手実業家など
ともてはやされ脚光を浴びる。
そんな姿を見ると、単純に憧れてしまうのだろう。
もっと儲けようという気持ちは、当然あるわけだから、
結果、大体同じ轍を踏むことになる。
そうやって、駄目になった例は、五万とあるのではな
いだろうか。
ここで問題とするのは、飽くまでも味で、駄目という
のは経営的な成功かどうかという意味ではない。
一般的な話としては、そういうことだと思うが、今回
の焼き鳥屋に関しては、もう以前の問題である。
移転の時に、周りの人間はほぼ100パーセント反対
したらしい。
食中毒は予想外であったが、経営的にも勝ち目がない
と皆思ったのだ。
客観的に判断すれば、誰もが解ることだった。
それにしても、厄介なのは野心である。