バイオサイエンス入門 生命現象の不思議を探る, 藤本大三郎, 講談社現代新書 1149, 1993年
・『バイオサイエンス』と言うと生物全般を扱うようなとても広い分野の学問のような感じを受けるが、本書で扱われているのは『分子生物学』や『遺伝子工学』などに分類される、主にミクロな世界の生物学となっている。非常に口当たりのよく読みやすい文章ではあるものの、その内容はどれも「どこかで読んだ」既視感があり、目新しさはあまりない。唯一、たまに挟まれる筆者が実際体験した研究のこぼれ話には興味をひかれた。
・『タンパク質』の構造的定義が知りたかったが、その辺りは事情が複雑なためかボカした記述しか無く、こちらの要求には応えてくれず不満が残る。
・「酒の歴史はとても古い。人間は大昔から酒をつくって楽しんできた。サルが木の洞に果物をためておいたものが自然に発酵してワインができ、それを人間が見つけて横どりして飲んだのが酒のみのはじまりだというが、本当かどうか知らない。」p.18
・「突然変異をよくひきおこす紫外線の波長は260ナノメートルである。一方、タンパク質は280ナノメートルの波長の紫外線をもっともよく吸収するが、DNAは260ナノメートルの波長の紫外線をもっともよく吸収する。 それゆえ、DNAが遺伝物質であり、260ナノメートルの紫外線があたると変化をおこし、その結果突然変異がおこると考えると、とてもうまく説明がつく。」p.29
・「私がはじめてDNAを扱ったのは、いまから30年近くまえ(1964年)にアメリカのコロンビア大学に留学したときのことであった。 まずはじめに、細菌からDNAをとり出すことをはじめたのだが、先生にピペットは穴が太く、しかもふちが丸いものをつかえといわれた。穴が細かったり、ふちが鋭かったりすると、DNAの分子が切断されてしまうというのである。 私はびっくりした。「分子」が機械的な力で切断されてしまうとは、他の分子ではちょっと考えられないことである。たとえば水の分子をハサミで切ろうとしたって、できるはずがない。」p.38
・「それでは、こんなにたくさんの種類のタンパク質がなぜ必要なのだろうか。 それは、タンパク質のそれぞれはきちんと決められた役割分担をもち、決められた活動をしているからである。複雑な生命現象は多数のタンパク質の働きを総合した結果である。」p.48
・「酵素(enzyme)という言葉は、「コウボの中にある」(en=中にある、zyme=コウボ)という意味のギリシア語にもとづいているそうである。」p.50
・「ホルモンとは、動物の組織の中にあって、いろいろな物質の代謝の調節を行う物質である。」p.53
・「61個のコドンが20種類のアミノ酸に対応するので、あるアミノ酸に対して複数個のコドンがあるのが普通である。たとえば、フェニルアラニンのコドンはUUUの他にUUCがある。(中略)多くの場合、三つ組塩基の中で、はじめの二つが重要で、アミノ酸の種類を決めているらしい。」p.82
・「「遺伝情報はDNA→RNA→タンパク質の向きに流れて、逆向きに流れることはない」 DNAの二重らせんの発見者のひとりであるクリックはこう提唱した。この考えは、セントラルドグマとか中心説とか呼ばれて、生物学の大原則だと思われてきた。 ところが1970年に、このセントラルドグマに反する現象が見つかった。」p.91
・「人間の細胞とネズミの細胞のように種の異なる細胞を融合させるとどうなるかというと、往々にして、遺伝子同士のサバイバル戦争がおきて、一方の細胞から由来した遺伝子だけが勝ちのこる。人間とネズミの場合は、優性になるのは残念ながらネズミの遺伝子だそうである。だから、人間とネズミの両方の性質をもった雑種細胞をつくることはできない。もっとも、人間と蚊の細胞を融合させた場合には、勝敗は決まらなかったそうである。」p.141
・「地球上のあらゆる生物について、その「基本的」な生命活動はタンパク質と核酸でうまく説明できる。しかし、たとえば「赤血球の顔つき」というようなたいへん微妙な問題になると、糖鎖の出番になる。」p.156
・「血液型と性格の関係だが、これはどうやら根拠がないものらしい。きちんと統計処理をすると、意味のある差が出ないという。また、脳と血管のあいだには関門があって、血液成分は脳の組織に入りこめないから、血液型物質と脳が接触する機会がないので、血液型物質が性格を決めるなど考えられないそうである。」p.159
・「物理的機能のみでなくて、「生物学的」機能も代行するような人工臓器の開発が、これからの課題である。」p.165
・『バイオサイエンス』と言うと生物全般を扱うようなとても広い分野の学問のような感じを受けるが、本書で扱われているのは『分子生物学』や『遺伝子工学』などに分類される、主にミクロな世界の生物学となっている。非常に口当たりのよく読みやすい文章ではあるものの、その内容はどれも「どこかで読んだ」既視感があり、目新しさはあまりない。唯一、たまに挟まれる筆者が実際体験した研究のこぼれ話には興味をひかれた。
・『タンパク質』の構造的定義が知りたかったが、その辺りは事情が複雑なためかボカした記述しか無く、こちらの要求には応えてくれず不満が残る。
・「酒の歴史はとても古い。人間は大昔から酒をつくって楽しんできた。サルが木の洞に果物をためておいたものが自然に発酵してワインができ、それを人間が見つけて横どりして飲んだのが酒のみのはじまりだというが、本当かどうか知らない。」p.18
・「突然変異をよくひきおこす紫外線の波長は260ナノメートルである。一方、タンパク質は280ナノメートルの波長の紫外線をもっともよく吸収するが、DNAは260ナノメートルの波長の紫外線をもっともよく吸収する。 それゆえ、DNAが遺伝物質であり、260ナノメートルの紫外線があたると変化をおこし、その結果突然変異がおこると考えると、とてもうまく説明がつく。」p.29
・「私がはじめてDNAを扱ったのは、いまから30年近くまえ(1964年)にアメリカのコロンビア大学に留学したときのことであった。 まずはじめに、細菌からDNAをとり出すことをはじめたのだが、先生にピペットは穴が太く、しかもふちが丸いものをつかえといわれた。穴が細かったり、ふちが鋭かったりすると、DNAの分子が切断されてしまうというのである。 私はびっくりした。「分子」が機械的な力で切断されてしまうとは、他の分子ではちょっと考えられないことである。たとえば水の分子をハサミで切ろうとしたって、できるはずがない。」p.38
・「それでは、こんなにたくさんの種類のタンパク質がなぜ必要なのだろうか。 それは、タンパク質のそれぞれはきちんと決められた役割分担をもち、決められた活動をしているからである。複雑な生命現象は多数のタンパク質の働きを総合した結果である。」p.48
・「酵素(enzyme)という言葉は、「コウボの中にある」(en=中にある、zyme=コウボ)という意味のギリシア語にもとづいているそうである。」p.50
・「ホルモンとは、動物の組織の中にあって、いろいろな物質の代謝の調節を行う物質である。」p.53
・「61個のコドンが20種類のアミノ酸に対応するので、あるアミノ酸に対して複数個のコドンがあるのが普通である。たとえば、フェニルアラニンのコドンはUUUの他にUUCがある。(中略)多くの場合、三つ組塩基の中で、はじめの二つが重要で、アミノ酸の種類を決めているらしい。」p.82
・「「遺伝情報はDNA→RNA→タンパク質の向きに流れて、逆向きに流れることはない」 DNAの二重らせんの発見者のひとりであるクリックはこう提唱した。この考えは、セントラルドグマとか中心説とか呼ばれて、生物学の大原則だと思われてきた。 ところが1970年に、このセントラルドグマに反する現象が見つかった。」p.91
・「人間の細胞とネズミの細胞のように種の異なる細胞を融合させるとどうなるかというと、往々にして、遺伝子同士のサバイバル戦争がおきて、一方の細胞から由来した遺伝子だけが勝ちのこる。人間とネズミの場合は、優性になるのは残念ながらネズミの遺伝子だそうである。だから、人間とネズミの両方の性質をもった雑種細胞をつくることはできない。もっとも、人間と蚊の細胞を融合させた場合には、勝敗は決まらなかったそうである。」p.141
・「地球上のあらゆる生物について、その「基本的」な生命活動はタンパク質と核酸でうまく説明できる。しかし、たとえば「赤血球の顔つき」というようなたいへん微妙な問題になると、糖鎖の出番になる。」p.156
・「血液型と性格の関係だが、これはどうやら根拠がないものらしい。きちんと統計処理をすると、意味のある差が出ないという。また、脳と血管のあいだには関門があって、血液成分は脳の組織に入りこめないから、血液型物質と脳が接触する機会がないので、血液型物質が性格を決めるなど考えられないそうである。」p.159
・「物理的機能のみでなくて、「生物学的」機能も代行するような人工臓器の開発が、これからの課題である。」p.165