第4章 錬 金 術 と 太 陽 光
≪37≫ シュべール博士 = この星では大勢の人と出会ったが、シュベール博士ほど変わった人はいない。胸のプレートは≪20≫だ。長身でやせ形、長く伸びた白髪の間からギロリと目が睨む。まるで仙人のようだ。ニコリともせず、こう言った。「君がうわさの地球人かね。われわれと、そんなに変わらないんだな」
マーヤが賢人会のウラノス議長に連絡すると、折り返し手紙が届いた。すべて無線で用が足りるこの国では、とても珍しいことだという。開けてみると「シュベール博士と会いなさい」と書いてある。この島の南端に突き出た半島にある、エネルギー研究所の所長だそうだ。紹介状も同封されていた。
紹介状を一瞥すると、そのシュベール博士はへの字に曲げた口を開き、低い声で語り始めた。
「新金属ダーストニウムのことを教えてやってほしい、と書いてある。ウラノスさんが言うんだから仕方ないが、本当は教えたくないんだ。なにしろ最高の国家機密だからね。まあ、いい。何が知りたいんだ」
――少量のダーストニウムを混ぜると、鉄や金やニッケルなどの金属が簡単に融合する。そうして出来た合金は、強度が格段に増したり、強い磁性を帯びると聞きました。その新しい合金は何に使うのでしょう。
「うむ。使い道は秘密でも何でもない。君はここへ来るのに、高速道路に乗ってきただろう。その路面には、ダーストニウム合金で作った細い線を内蔵した強化ガラス板が敷き詰められているんじゃ。何のためだか、判るかね」
――もしかして、太陽光を集めて発電しているんじゃないですか。
「おう、なかなか勘がいいね。その通りだ。高速道路は延べ5万キロにも達するから、これだけで必要な電力は十分に賄える。雨はできるだけ夜のうちに降らせるようにしているから、昼間はたいてい発電できるんじゃ。次の質問は?」
――ほかにも何か利用しているんですか?
「ああ、沢山あるよ。その高速道路の中心部には、鉄に新合金を混ぜたレールが敷いてある。その磁力で車をほぼ浮かしているから、車は小さなモーターでも高速で走れる。鉄道の時代に完成していたリニアの技術を使っているんだ。この磁力の力で、車は絶対に軌道から外れない。前後左右の車と衝突することもない」
金属精錬所のロボット所長が「ダーストニウムの発明で、エネルギー供給と交通手段が革命的に変わった」と言ったのは、こういうことだったんだ。
――でも、なぜそれが国家機密なんですか?
こう尋ねると、シュベール博士は背筋を伸ばして、ぼくを睨みつけた。
(続きは来週日曜日)
≪37≫ シュべール博士 = この星では大勢の人と出会ったが、シュベール博士ほど変わった人はいない。胸のプレートは≪20≫だ。長身でやせ形、長く伸びた白髪の間からギロリと目が睨む。まるで仙人のようだ。ニコリともせず、こう言った。「君がうわさの地球人かね。われわれと、そんなに変わらないんだな」
マーヤが賢人会のウラノス議長に連絡すると、折り返し手紙が届いた。すべて無線で用が足りるこの国では、とても珍しいことだという。開けてみると「シュベール博士と会いなさい」と書いてある。この島の南端に突き出た半島にある、エネルギー研究所の所長だそうだ。紹介状も同封されていた。
紹介状を一瞥すると、そのシュベール博士はへの字に曲げた口を開き、低い声で語り始めた。
「新金属ダーストニウムのことを教えてやってほしい、と書いてある。ウラノスさんが言うんだから仕方ないが、本当は教えたくないんだ。なにしろ最高の国家機密だからね。まあ、いい。何が知りたいんだ」
――少量のダーストニウムを混ぜると、鉄や金やニッケルなどの金属が簡単に融合する。そうして出来た合金は、強度が格段に増したり、強い磁性を帯びると聞きました。その新しい合金は何に使うのでしょう。
「うむ。使い道は秘密でも何でもない。君はここへ来るのに、高速道路に乗ってきただろう。その路面には、ダーストニウム合金で作った細い線を内蔵した強化ガラス板が敷き詰められているんじゃ。何のためだか、判るかね」
――もしかして、太陽光を集めて発電しているんじゃないですか。
「おう、なかなか勘がいいね。その通りだ。高速道路は延べ5万キロにも達するから、これだけで必要な電力は十分に賄える。雨はできるだけ夜のうちに降らせるようにしているから、昼間はたいてい発電できるんじゃ。次の質問は?」
――ほかにも何か利用しているんですか?
「ああ、沢山あるよ。その高速道路の中心部には、鉄に新合金を混ぜたレールが敷いてある。その磁力で車をほぼ浮かしているから、車は小さなモーターでも高速で走れる。鉄道の時代に完成していたリニアの技術を使っているんだ。この磁力の力で、車は絶対に軌道から外れない。前後左右の車と衝突することもない」
金属精錬所のロボット所長が「ダーストニウムの発明で、エネルギー供給と交通手段が革命的に変わった」と言ったのは、こういうことだったんだ。
――でも、なぜそれが国家機密なんですか?
こう尋ねると、シュベール博士は背筋を伸ばして、ぼくを睨みつけた。
(続きは来週日曜日)