どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

心に残る詩人たち 8

2024-09-29 00:05:05 | ポエム

  佐藤春夫

〈画像はウィキペデイア〉より

 

今回は小説家であり詩人でもある佐藤春夫の「秋刀魚の歌」を読んでみよう。

 佐藤春夫  秋刀魚の歌 
 
あはれ
秋風よ
情〔こころ〕あらば伝へてよ
――男ありて
今日の夕餉〔ゆふげ〕に ひとり
さんまを食〔くら〕ひて
思ひにふける と。

さんま、さんま
そが上に青き蜜柑の酸〔す〕をしたたらせて
さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。
そのならひをあやしみてなつかしみて女は
いくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかひけむ。
あはれ、人に捨てられんとする人妻と
妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
愛うすき父を持ちし女の児〔こ〕は
小さき箸〔はし〕をあやつりなやみつつ
父ならぬ男にさんまの腸〔はら〕をくれむと言ふにあらずや。

あはれ
秋風よ
汝〔なれ〕こそは見つらめ
世のつねならぬかの団欒〔まどゐ〕を。
いかに
秋風よ
いとせめて
証〔あかし〕せよ かの一ときの団欒ゆめに非〔あら〕ずと。

あはれ
秋風よ
情あらば伝へてよ、
夫を失はざりし妻と
父を失はざりし幼児〔おさなご〕とに伝へてよ
――男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食ひて
涙をながす と。

さんま、さんま
さんま苦いか塩つぱいか。
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
あはれ
げにそは問はまほしくをかし。

この詩は、女性を極めようとした谷崎潤一郎が最初の妻千代を佐藤春夫に譲り渡したとされるエピソードと関係しているだろう。
三者の心情を詠みこんで響いてくる。
経歴や著書の紹介は必要なさそうな気がしてきた。
<追記>
谷崎は大正から昭和にかけて3人の女性と結婚したらしいが、いかに風俗がモダンな時代であっても「妻譲渡事件」はスキャンダラスだったらしい。現在だったら女性陣から突き上げられてギブアップしてたに違いない。
その後、谷崎は「譲渡書」を反故にして再度千代を引き取った。
映画「ナオミ」に描かれたような状況が実際にあったのだろう。
このため、さすがの佐藤春夫も激高し以後二人は絶縁状態となった。
 
 
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2 コメント

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秋刀魚苦いか (tadaox)
2024-09-29 09:56:35
〈のり〉さん、ありがとうございます。ほんと、この季節になると思い出される詩ですね。
「その言いようのない哀しさにジンとしています。」
僕もそう思いました。
返信する
おはようございます(^^♪ (のり)
2024-09-29 08:44:02
サンマが出回る季節になると、決まって思い出される「サンマ、サンマ  サンマ苦いか、塩ッ杯か・・・」の一節。
あらためて最初から最後まで読ませて頂き、その言いようのない哀しさにジンとしています。
返信する

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